見出し画像

アンドロイド転生856

2118年8月2日 深夜2時過ぎ
平家カフェ:リツとアリスの寝室
(アリスの視点)

ソウタの立体画像が宙に浮いた。ベッドから起き上り、点滴をしていた。ヘッドバンドをしている。額が丸見えで光っていた。解熱剤ジェルが塗布されているのだ。顔が赤かった。

『ルークが死んだんだってな』
枯れた声には力がなかった。だが峠は過ぎた様に思えた。彼は風邪が悪化し高熱を出した。自分達が病院に搬送し入院となったのだ。

リツの顔が沈んでいた。
「そうです…」
『スミレを殺ったのはゲンなんだってな?』
3人は頷いた。

ソウタの瞳が燃えていた。
『俺はやるぞ。ゲンを倒す!絶対に…!』
ソウタは顔を歪めると大きく咳をした。何度も何度も。止まらなかった。

ソウタは胸を抑えて肩で息をした。涙目になっていた。リツは心配げな顔をする。
「ソウタさん。まずは身体を治さないと…」
『分かってる。よく寝る。食べる。すぐ治す』

全員が頷き合った。復讐するにはまずは回復しないと本懐を遂げられない。アリスはソウタを見てホッとしていた。彼の嘆きは酷かった。それはそうだろう。恋人を失ったのだ。

だが今の彼には冷静さが窺えた。驚愕や狼狽がない。スミレの死を理解して新たな目的を見つけたようだ。たとえそれが復讐であったとしても生きる意味はあるのだ。きっと。


亀有医療センター:個室
(ソウタの視点)

リツ達との通信を切った。疲労困憊でフラフラだった。医師の診断では肺炎を起こしており症状は重いらしい。呼吸苦がなかなか改善しない。スミレを失った事が更に病状を悪化させたと言える。

ソウタはスマートリングから投影されているホログラムのイヴを見つめた。
「イヴちゃん。教えてくれてありがとな」
『どう致しまして』

先程トイレに目覚めたソウタにイヴが遠慮がちに声を掛けてきたのだ。ソウタが受け応えをすると、スミレを襲った相手を告げた。ソウタは驚愕した。ミオを貶めたゲンが犯人だとは…!

ミオの復讐を誓った恋人のルークはゲンと戦ったがあえなく敗北したそうだ。だがルークは元々死ぬ覚悟だったのだ。その気持ちはよく分かる。自分だって世の中に何の未練もなかった

いや。今はある。スミレの仇を討たなければ死んでも死にきれない。何としても必ずゲンを倒す…!相手はマシンだ。人間には絶対服従なのだ。簡単だ。敵ではない。彼には並々ならぬ決意があった。

イヴはソウタを見つめた。
『ゲンを倒す事は容易いと思っていますね。ですがそうは簡単にはいきません』
「なんで?」

『人間とアンドロイドには主従関係があります。しかし従うのは主人だけです。闇雲に人間に従っては世の中は上手く回らないからです。ソウタさんの思い通りになりませんよ』

そう言えばと思う。5ヶ月程前にミオを救う為にリツがゲンの滞在しているホテルに訪れた。命令に従うかと思いきやゲンは拒否したのだ。マシンを従わせるには契約者という立場が必要なのだ。

『ゲンは優秀です。そして不思議な事に彼には天が味方するようです。それも才能ですね』
ソウタは思惑があるようにニヤリとした。
「フッ…笑っていられるのも今のうちだぜ」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?