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アンドロイド転生865

2119年8月29日 夕方
(ハスミ家の訪問を終えた後)
イギリス某所:遊園地

「も…もう…ムリ…」
リョウはベンチにヨロヨロと近付いてグッタリと腰を下ろした。ガックリと首が折れる。大きな溜息をついた。身体全体に力が入らなかった

ミアは心配そうな顔をした。
「ご、ごめんね。ムリさせちゃった」
「う…うん。俺こそ根性なくてごめんよ」
「お水飲む?」

リョウはミアから水を受け取って一気に飲んだ。気温は23℃で心地良いがリョウは汗びっしょりだった。ミアの差し出すタオルを受け取って顔や首を拭った。そして大きく溜息をつく

「しかし…あんな乗り物があるなんて凄いよ。心臓が飛び出るかと思った。ミアはよく平気だな」
「全然平気。楽しいよ。でもごめんね。3回も乗ろうなんて言って」

ミアの誘いで遊園地にやって来たものの絶叫マシーンを見て怖気付いた。だが楽しいと言う彼女の言葉を信じて乗ったが1回目でへこたれた。なのに3回も付き合ってしまったのだ。
 
ミアは申し訳なさそうな顔をする。そんな顔も可愛い。12歳も年下のミアは妹のようなものだ。すっかり親愛の情が湧いていた。だからと言って絶叫マシーンは失敗だった。

その後は子供用の遊戯で穏やかに遊んで、食事をすると帰路についた。何はともあれ過ぎてしまえば初体験の遊園地も楽しい思い出になった。リョウは益々自分の世界を広げたのだ。

ミアの家の付近に近づくとミアが突然立ち止まった。リョウは彼女の視線を追う。若い白人の男が立っていた。ミアの唇が震え出す。
「オリバー…」

オリバーがやって来て英語で何かを話す。まるで頼み込んでいるように見える。ミアは俯いた。やがてミアは厳しい顔をして怒鳴った。オリバーは更に何度も頼み込む。

どうやら別れた彼氏が復縁を迫っているようだ。リョウはこの場にいた方が良いのか去れば良いのか見当もつかない。恋愛沙汰にはまるきり疎いのだ。だがやはり邪魔だろうと判断する。

「じゃ、じゃあ…俺は行くから…」
ミアがリョウの腕を掴んだ。
「行かないで」
「で、でも…」

ミアの腕をオリバーが掴んだ。引っ張って連れて行こうとする。ミアが悲鳴を上げた。リョウは慌ててオリバーを遮った。
「やめろ!何をするんだ!」

オリバーは怒りを露わにしてリョウに向かって英語で何事かを叫んだ。リョウはスマートリングを起動して翻訳アプリを立ち上げた。オリバーの言葉が瞬時に翻訳される。

「お前は誰だ?おっさんのくせに俺達の邪魔をするな!とっと帰れ!」
アプリは優秀だ。実際の言葉を忠実に翻訳しているのだ。リョウは眉間に皺を寄せた。

「お前こそ今更なんだ?スイスに女を追っかけたんだろ?ミアを振っておいて何をしてる?」
アプリが翻訳するとオリバーは明らかに怒り出した。リョウの胸を突いた。

リョウは驚く。ホームではどんな暴力も許されないし、何よりも村の人達は誰も怒りに駆られて手を出す者はいない。35年間、人に突かれたことなどなかった。リョウは怒りに燃えた。

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