第五章 関ヶ原の戦い 〜決戦! 関ヶ原〜

三成との戦いに向かう家康は、三男・秀忠(ひでただ)にこんなことを言います。


家康「おまえに3万8000の兵をあずける! この大軍で中山道(なかせんどう。って道)をとおって、西にすすむんだ! とちゅうにいる西軍(三成がわ)の武将をやっつけながらすすむんだぞ!」

徳川秀忠「はいパパ!」


むすこに大軍をたくし、自分は東海道(とうかいどう。って道)を西にすすむ家康。
まずは、小山から江戸城へむかいます(いまで言えば、栃木県から東京都へ、ですね)。

そして、江戸城から……


どーこにもいきません。
1ヶ月くらいひきこもります。

どして? 

お手紙を書いておりました。

だれに? 

東軍の武将たちに。

なんでお手紙書くの? 

ネットやスマホがないから、家康のかんがえを伝えるにはお手紙がすべてなんです。

「西軍の〇〇がこっちに寝返るよううまいことやって!」「今回の戦い勝ったら領地あげるからがんばって!」「この前の働き最高! で、次なんだけど…」

などなど、大きな約束も細かいしじも、ぜんぶぜんぶお手紙に書く家康(150通以上だよ)。

大切なじょうほうやあいてのかんがえを知るのも、自分の思いをつたえるのも、人の心をつかむのも、このお手紙がすべてなんです。

なんだか地味ぃーな作業ですけど、この手紙たちがどんなこうかをもたらすのかは……ちょっとあとにお話ししましょう。


いっぽう、先におでかけした
福島、
黒田、
池田輝政(いけだてるまさ)、
藤堂高虎(とうどうたかとら)、
山内一豊(やまうちかずとよ)
といった東軍の武将たちは、ひと足先に美濃国(みののくに。岐阜県)で、西軍とげきとつします。

「戦いに出て活やくするグループ」の武将がそろってるだけあって、とにかく東軍が勝ちまくり。

それを知った家康は、もちろん「いいね!」とよろこぶんですが、そのあとすぐ、ある不安が家康をおそいます。


家康「ちょっと、あれだね……。強すぎるね……。このままオレや秀忠ナシで、三成をたおすなんてことになったら……。そんなのはダメだ! それじゃ戦いに勝っても、徳川が勝ったことにならない!」


こうしちゃいられない! とあせった家康は、筆マメすぎてホントのマメができたころ、江戸城を出発(マメは知らないけど)。
やっと、東軍の武将たちと合流したのでした。

これでひと安心。
自分と秀忠がいれば、いつ戦ってくれても、だ……い…

じょう……

ぶ………。

と、だんだん、だいじょうぶじゃなく思えてきたのは、もっともっと大きな不安が家康をおそってきたからです。


家康「で、秀忠は……?」


いないんです。

徳川の主力ともいえる、3万8000の大軍をあずけた秀忠が、ぜんっぜんこない。
東軍、西軍が美濃国(岐阜県)にそろって、もうげきとつするぞってのに、すがたをあらわす気はいがない。


徳川のあとつぎは、いったいなにをやっていたのか……?


秀忠「真田コラァァァァーーーー!!!!」

真田昌幸「相手してやるから来いよ、家康ジュニア」


秀忠、足止めくらってました。

信濃国の上田城で、

真田昌幸

と、その子どもの

真田信繁(さなだのぶしげ。もしくは幸村(ゆきむら))

がひきいる、たった2、3000の真田軍あいてに、いいように遊ばれていたんです。

家康は「早くこい!」という手紙を出していたんですが、お天気があれて、その手紙のとう着もおくれて、秀忠は気づかない。

けっか、大ちこくです。

先に言ってしまうと、なんと秀忠、この戦いにまにあってません……。


家康「なにやってんだあいつはぁぁ!! もうしかたない……戦うぞ!!」


えらいことになりました。
飛び立とうとする飛行機の羽が、ちょっと折れかかってるくらいヤバいじたい。
3万8000の兵はきません。

家康は、大きな力をうしなったまま、決戦のときをむかえることになるんです。


慶長5年9月15日(1600年10月21日)。
美濃国関ヶ原。

家康ひきいる東軍7万4000 VS 三成ひきいる西軍8万2000

がぶつかった、天下分けめの大合戦、

『関ヶ原の戦い』

が、始まります(兵数は諸説ありです)。



深くたちこめた霧がしはいする関ヶ原の朝。

ひびきわたる甲冑(かっちゅう)の織り成すオーケストラから、じょじょにそのりんかくをあらわす真紅(しんく)の一団。

からみつくもやを、さいしょに切りさいたのは、


井伊直政「かかれぇぇぇーーーーーーー!!!!!」


徳川家臣、井伊直政。


福島正則「あぁ! 井伊テメェ!! 先ぽうはオレたちだ!! やりやがったなぁ!!!」


東軍の先ぽう(さいしょに敵と戦うの)は、福島正則と決まっていたのに、それをムシして、直政が戦いをはじめちゃいます(ここのやりとりに、どんなことがあったのかは『超現代語訳 戦国時代』という本を読んでみて)。

とにもかくにも、関ヶ原の戦いはスタート!


東軍「ワアアアアアァァァーーーーーーー!!!!!」

西軍「オオオオオォォォォーーーーーーー!!!!!」


福島正則は、
西軍で一番デカい宇喜多秀家(うきたひでいえ。五大老)隊に戦いをいどみ、

黒田長政、細川忠興(ほそかわただおき)、加藤嘉明(かとうよしあき)たちが、
石田三成本隊をこうげきします。

しかし、3万8000が来てない分、数の上では西軍が有利。
さらに、スタンバイした場所も、高いところから東軍をかこんでいた西軍が有利。

じつはこの戦い、どの面から見ても西軍がちょう有利だったんです。

なので、さいしょは東軍がおされてゆく……かと思いきや、


ご角です。

おどろいたことに、しばらくはご角の戦いがつづくんです、関ヶ原。
戦とう力の高い東軍の武将たちが、メチャがんばったから……

なんだけど、一番の理由はそこじゃない。

東軍にとってはおそろしいことですが、西軍にはまだ、
”動いていない部隊”
がいっぱいいたんです。

だからまだ、ご角の戦いだったんですね。


三成「勝てる! 南宮山(なんぐうさん)にいる毛利隊、松尾山(まつおやま)にいる小早川隊、それに島津隊! かれらが動けば、西軍の勝利は間違いない!」


三成がこう思うのは当然。
ぜんぶの部隊が動けば、西軍の力はまします。

東軍の猛将(もうしょう)たちも、そのこうげきをふせぎきれるかどうかはわかりません。


家康、最大のピンチです。


でも、いまからなにをやればいいんでしょう? 

こんなに大ぜいの人間がフルテンションで動いてたら、どんな作戦も意味なさそう。
なんだかなにをやっても手おくれなような……。


だからね、家康はもう手をうってるんです。


江戸城でいっぱいお手紙を書いてましたよね。

あれのこうかが、いまからはっきされるんです。


三成「よし、かく部隊にこうげきの合図だ! のろし(ケムリの合図)をあげろ!!」


モクモクモクモク……モクモクモクモク……モクモクモクモクモクモクモク……


三成「…なんだこのただモクモクを見つめる時間は! どうした! なぜだれも動かない!!」

家康「(のろしを見つめ)………予定どおり…だな」


そう、戦いがはじまる前に、手紙をとおして西軍の武将に話しかけたけっか……それがこの、

"動かない部隊たち"なんです。



"南宮山にいる毛利隊"

こちらにいたのは、
西軍の総大将の毛利輝元の養子・毛利秀元(もうりひでもと)

と、

輝元のいとこ・吉川広家(きっかわひろいえ)

って人たち(輝元は「ぼく大坂城をまもっとくんで!」と言って、関ヶ原にきてません。総大将なのに)。

じつは、輝元のいとこ・吉川広家は、

「この戦い、ぜってぇ家康が勝つよ」

と思ってました。

なので、東軍の武将をつうじて、家康と、

「兵を動かさないので、東軍が勝ったら毛利の領地はそのままにしてください!」

というヒミツの約束をしてたんです。

そんなことを知らない毛利秀元は、吉川が動かないことにあせります。

なぜなら、ふもとにいた吉川が動かないと、山の上にいる毛利秀元も、まわりにいた

安国寺(あんこくじ)、長宗我部(ちょうそかべ)、長束(なつか)

って人たちも動けないから。


毛利秀元「広家! 合図きてるって! 動けよ! そうじゃなきゃこっちも動けないの!」

吉川広家「いやでも霧がこいから」

秀元「もう、晴れてるよ! てか晴れてなくてもみんな戦ってんだから! 動けって!」

広家「いやー、ムリなんすよ」

秀元「なんで!?」

広家「いまから兵のみんな、おべんとうの時間だから」

秀元「おべん……とう……。なんだその理由は!!! いいか、すぐ動…」

長宗我部盛親「ちょっとー! 秀元さん! 動かないの!?」

秀元「ちょっとまってくださーい! えーっと……いまお弁当食べてるからムリです!」

長宗我部「え、ランチ!? 理由ランチなの!!?」


秀元さん、ホントにこのいいわけを言ったそうです(「宰相殿の空弁当(さいしょうどののからべんとう)」っていいます。宰相ってのは、トップの人をたすける役目のこと)。

これで、約3万の兵が動かないことになります。


“松尾山の小早川隊"

ってのは、1万5000の大軍をひきつれてる、秀吉のおくさんのおいっ子

小早川秀秋(こばやかわひであき)

のこと。
家康はここにも

「東軍に寝返ってくれたら領地あげるよ!」

と熱いラブコールを送っていたんです。

ただ、三成は三成で、小早川秀秋を引きとめておくために、

「西軍が勝ったら関白(秀吉がなってたやつ)にしてあげるよ!」

というステキなプレゼントを用意しちゃってます。

このとき小早川は「どっちにつこう……」と、いまだまよい中。

“島津隊”

は、薩摩国(さつまのくに。鹿児島県西部)からやってきた、戦とうバリ強な集団で、

島津義弘(しまづよしひろ)

さんがリーダーです。

かれはですね……


「だいぶ前に家康さんから東軍にさそわれる。伏見城に入ろうとする。鳥居元忠に『そんな話聞いてない!』って城に入るのことわられる。オレ、ポツン……。しかたがないから西軍につく。←イマココ」


というじょーたい。

「東軍に夜襲(やしゅう。夜に急におそうこと)をかけよう!」っていっても、三成は言うことを聞いてくれなかったし、どうにもやる気がおきません。

それに、三成から島津軍にきた使者が、馬をおりずに
「動いてください!」
とお願いするもんだから
「失礼だろ!」とおこってもいました。

いまで言えば、バイクに乗ったまま、メットもとらずにお願いごとをするようなもんです(たぶん)。

これで、島津隊も動くけはいゼロ。


この日の合戦のずっと前から、戦いははじまってたんです。どれだけの人間を味方にできるかという戦いが。

そうなると、『関ヶ原の戦い』というのは、ヤリや刀がまじわる前に決着がついていたのかもしれません。


しかし、最後の最後までわからないのが戦というもの。


家康「小早川はどおぉしたぁ!? アイツがどっちにつくかで、まだわからんぞぉ!!!」


小早川秀秋はまだ決めかねてます。

戦いのゆくえがかわるほどの力、1万5000もの兵をもつ小早川。
19さいのわかもの名前を、家康と三成は心の中でさけびます。


家康&三成「動けぇ!!! 小早川秀秋ぃ!!!!」


そして、ついに家康は強引な方法に出たんです。


家康「鉄砲をうて」

家康家臣「と、言いますと……?」

家康「小早川のガキに、早く動けと鉄砲でおどせぇぇーーーー!!!」


バババババババババーーーーーーーン!!!!!


小早川秀秋「な、なななな、なになになになになに!!?」

小早川家臣「東軍がこちらにむかって、鉄砲をうってきました!」

秀秋「い、家康がおこってる! よ、よし!」


家康のおどしに、山をくだる小早川隊。


家康家臣「申し上げます! 小早川が松尾山をくだったもよう!!」

家康「それで……!」

家康家臣「大谷隊……西軍の大谷隊をせめはじめたそうにございます!!!」

家康「そうかぁ!!!!」


小早川秀秋は、西軍をうらぎり、家康につくことを選んだのでした。

(家康が小早川秀秋を鉄砲でおどした出来事を「問鉄砲(といでっぽう)」っていうんですが、本当はなかったんじゃないかと言われてます。
このときの鉄砲の飛きょりじゃ、下からうっても、山の上にとどかないんですって。
それに、戦いのいろんな音にまぎれ、鉄砲が自分たちにむけられたものだなんて、気づかないだろう。とのことです。)


ここからさらに、
西軍の脇坂(わきさか)、朽木(くつき)、小川(おがわ)、赤座(あかざ)
という武将たちが東軍に寝返り、西軍のいきおいは、みるみるとダウン。

動かない部隊とうらぎりの部隊が多すぎて、三成たちは、東軍のこうげきを受けとめることができません。

そして、もうどうすることもできなくなった三成は、


三成家臣「殿ぉ! ここはひとまずおにげください!!」

三成「く……くそぉぉ!!!!!」


ついに戦場をはなれたのでした。

これで、東軍の勝ちは決定。

一説によると、たったの6時間で決着がついたといわれる『関ヶ原の戦い』。

これだけ大きな戦が1日で、しかも短い時間で終わったのは、家康による"戦いが始まるまでのじゅんび"がばくはつしたけっかなのかもしれません。

というわけで、徳川家康。天下を決める戦いで、完全なる勝利をおさめたのでした。

(たーだこの関ヶ原も、いろんな説がとびかってるんですね。
兵の数はハッキリとわかりませんし、島津の夜襲の話もホントはなかったかもだし。
小早川は、戦いがはじまると同時にうらぎって、戦いの決着はもっと早くついていた、という説もあるんです。
くわしくはナゾにつつまれたままの関ヶ原ですが、家康が勝ったというのは、まぎれもない事実です。)


「なるほどー。こうやって家康は天下をとったんだー」となっとくしそうになっている、そこのあなたにごめんなさい。
まだね、"完ペキ"じゃないんです。

なんて言えばいいのか……そういうことも伝えるためにこのお話を書いているので、とにかくつづきをどうぞ。



つづく。



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本当にありがとうございます!! 先にお礼を言っときます!