第一章 カゴの中の竹千代 〜竹千代にふりかかる不幸〜

竹千代が3さいのときのことです。
竹千代のママのお兄さんの、「水野信元(みずののぶもと)」という人が、織田さんとなかよくなりました。

これに、パパ・広忠は「まいったー!」となるんですね。
パパはなんで「まいったー!」なのでしょう?


広忠(パパ)「うちは今川さんに守ってもらってるんだ。それなのに、よめのお兄さんが織田となかよくしちゃったら……織田のことがキラいな今川さんから、『おい! 広忠くん! あんたのよめのお兄ちゃんの水野くん、織田のやつとなかよくしてるじゃないか! てことはなに、広忠くんも織田となかいいわけ!?』って言って、うたがわれちゃうよ……。そんなことになったら、今川さんからこうげきされるかもしれない……。どうしようー!」


広忠は、今川からうたがわれることをこわがったんです。
パパは考えます。こうなったらしかたない……


広忠(パパ)「オレとわかれてくれ」
於大の方(ママ)「マジで!!?」


広忠は、今川さんからうたがわれないためにも、竹千代のママとりこんすることに(「マジで!?」とは言ってません)。
竹千代くんは、たったの3さいで、ママとはなればなれになったのでした。

(この時代のねんれいは”数え年”です。数え年っていうのは、生まれた年を1さいと数えるやりかた。そのあとは、たんじょう日とはかんけいなしに、年がかわるたび、2さい、3さいとふえていきます。竹千代くんは3さいとはいってますが、このときはまだ、生まれてから2年とたってません。本当は、1さいと数か月でママとおわかれしたことになるんです。ママは悲しかったでしょうね……)


さらに、松平のピンチは止まりません。
こんどは、竹千代が6さいのとき。

尾張の織田信秀と、松平の親せきが手をくんで、岡崎城から広忠(パパ)を追い出そうとしたことがありました。
そのとき、広忠がたよったのはもちろん今川さん。織田のやつらと戦うために、「兵を送ってくださいよー!」と今川さんに泣きつきます。

すると、今川さんは、


今川義元「わかった。助けてやろう」
広忠「ホントですか!! ありが…」
今川義元「ただし! おまえの息子……竹千代を”人質”として、こちらによこせばの話だ」
広忠「マジで!!?」


兵を出すかわりに、竹千代くんをよこせと言ってきたんです(「マジで!?」とは言ってません)。

「今川ひどい!」と思ったかもしれませんが、大名や武将のあいだで「人質(ひとじち)をとる」というのは、よくあったことなんです。
力の強い武将が、力の弱い武将を守るとき、


強い武将「なにかあったら助けてあげるよー。その代わり、こちらのいろんな命令を聞いてね。うら切ったりなんかしちゃダメだよ? わかった? ……うん。うん。あ、そう、わかったのね。じゃ、うら切らないってショウコに人質をさし出してもらおうか」


ってのが、ふつうだったんです。そのとき、弱い武将が人質にさしだすのは、自分の大切なおくさんや子どもです(力が同じくらいの大名がなかよくするときは、おたがいが人質を出して交かんします。これ「同盟(どうめい)」っていいます)。

もし万が一、うら切りがおこった場合。

人質は殺されます。

竹千代を今川にさし出すということは、なにかあったとき、竹千代の命はないということ。そして、人質を取られるということは、これからは今川の命令にしたがうということ。

つまり、松平家は、今川家の家臣となってしまう……。


これはさすがにむりですよね。いくら今川の力を借りたいからといって、命令をずっと聞くなんて本当にキツい。

そんなの今川の思うとおりにされちゃう。ましてや、竹千代がキケンなめにあうなんて、パパの広忠がゆるすはずありません。


広忠「竹千代を人質に出す!」


ゆるせるみたい。パパ、オッケーだったみたい。

あわれ竹千代。まだ6さいの子どもが自分の家をはなれ、ちがう国でくらすことになったのでした。

しかも、命のほしょうがない場所で……。


人質になることがきまった竹千代は、家臣たちといっしょに駿府国をめざします。

いつ帰れるかもかわからない旅。もしかすると、もう岡崎にはもどってこれないかもしれません。

暗い気持ちの竹千代たちが、田原(愛知県田原市)って場所についたときのことでした。


戸田康光(とだやすみつ)「田原へようこそ! 今川さんのとこにいくんでしょ? 歩くのはたいへんだろうから、船で送ってあげるよ!」


この、"船で送るよおじさん"は、戸田さんという武将です。

竹千代のパパとママがりこんしたあと、パパの広忠は、新しいおよめさんをもらいました。そのおよめさんのお父さんが、この戸田さん。

なので、戸田さんは、竹千代のおじいちゃんということになります(血はつながってないけどね)。


戸田「えんりょせずに、うちらの船に乗ってよ! ささ! ささ! ささささ!」
松平の家臣「では、お言葉にあまえて」


殿のおくさんのお父さんなら安心だ、ということで、竹千代たちは船に乗りこみます。
しかし……船がすすんで、しばらくすると……


松平の家臣1「ねぇ……これ、ぎゃく方向じゃね?」
松平の家臣2「だよな……。ちょっと戸田さん。これ、たぶん方向がちが…」
戸田「クックックッ……フッフッフッフ……」
松平の家臣1「!」
戸田「ハッハッハッハッ! ニャハハハハハハハハハハハ!!!」
松平の家臣2「ものすごく笑ってる! おい、いったいどういうことだ!」
戸田「どうもこうももぐもぐごんぼ。おっしゃるとおり、この船はぎゃくの方向にすすんでいる」
松平の家臣1「それがどういうことだと聞いてるんだ! 今川さんのもとに送り届けてくれるんじゃなかったのか!」
戸田「送り届けてやるさぁ……"織田さん"のとこになぁ」
松平の家臣たち「織田ぁぁぁ!!!?」
戸田「ああ、そうとも。竹千代は、織田信秀さまの人質となるんだ。織田家に竹千代を引きわたせば、千貫文(お金だよ)をいただけるからなぁ!」
松平の家臣2「な、なんだと……金で竹千代さまを……キサマ! それでもおじいちゃんか!」
戸田「なんとでも言え。ニャハハハハハハハハハハハ!!!」


どれだけ不幸がふり注ぐんでしょう。竹千代くんには。
血がつながってないとはいえ、自分のおじいさんにお金で売りとばされるなんて。

こうして竹千代くんは、日本地図で見れば、岡崎から"右"にある駿河国に行こうとしてたのに、"左"にある尾張国へとむかうことになったのでした(と、ここまで書いた、"人質横取り事件"ですが、「本当はなかったんじゃないか?」ともいわれています。織田さんに岡崎城をせめられて、そのとき竹千代くんを連れていかれた……という説もあります)。


広忠「竹千代が!!? ゆうかいされただと!!!!」


「竹千代が連れさられた」というお知らせに、岡崎城と広忠は一回ひっくり返って、元にもどります。そしてまた、すぐに大あわてを始めます。

今川さんにとどくはずだった息子が……織田のところに……。なんてことをしてくれるんだ、織田のヤロー。。

こうなると、あちらが要求してくるのはたぶん……


松平の家臣「広忠さま! 織田信秀から手紙が届いてます! ギュッとまとめると、『今川から織田に乗りかえろ。さもなければ、竹千代の命はない』みたいなことが書かれてます!」
広忠「やっぱりな!」


なんとなくの予想どおり、キッチリとおどしてくる織田信秀。
これはさすがにむりですよね。いくら織田が敵だからといって、竹千代を人質にとられんたじゃ、言うことを聞くしかない。

今川さんをうら切ることにはなってしまうけど、子どもの命より大切なものなどありません。


広忠「織田につたえろ! 『自分の子どもかわいさに、これまで助けてくれた今川さんをうら切るわけにはいかない。竹千代を生かそうが殺そうが、好きにしろ』ってな!」


子どもより大切なものあったみたい。パパは今川さんを選んだみたい。

どこまでもかわいそうな竹千代くん。松平のおうちが生きのこるために、こんどはパパに見すてられるんです。

広忠からの返事を受けとった織田信秀は、「思ってたのとちがう!」とおこります。

ですが、これで人質を殺せば、松平家がかんぜんに敵となっちゃう。だからとりあえず、竹千代を生かしておくことに決めたのでした(たぶん、そんな理由)。

命のキケンにさらされっぱなしの竹千代。

ですが、まだです。
竹千代が味わう苦しみは、まだまくを開けたばかりなんです。


つづく。



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本当にありがとうございます!! 先にお礼を言っときます!