第一章 カゴの中の竹千代 〜人質生活まっしぐら〜

さて、広忠が殺されます(いきなりごめんなさい)。

竹千代が織田家の人質になって、2年がたったころ、なんと広忠(パパ)が、家臣に暗殺(あんさつ)されてしまうんです(病気でなくなったという説もあります)。
竹千代のおじいちゃん(清康)も、パパ(広忠)も、家臣に暗殺されるという悲しい運命をたどるんですね。

今でいう、小学校1、2年生で、ママとパパをなくした竹千代くん。

自分はいまだに人質生活。

いまのところハッピーな話がまったくありませんが、この人、本当に天下をとるんでしょうか?


それにしても、ビックリなてんかいです。なんせ、松平の当主(トップ)が急にいなくなるんですから。

松平家のみなさんもビックリしたでしょうが、今川家のみなさんも「えっ!?」となったことでしょう。

そして、広忠がいなくなったことをキッカケに、松平家と今川家は、それぞれこんなことをかんがえるんです。


松平の家臣「広忠さまがなくなられた今、松平には新しい当主が必要だ。なんとしても、"あのかた"にもどってきていただかねば……」
今川義元「広忠が死に、やつの息子が織田の手元にある以上、松平が今川をうら切り、織田についてもおかしくない。松平家をつなぎとめるためには、"あいつ"が必要だ……」


松平も今川も望んだ、"あのかた"と"あいつ"。それは……


松平の家臣&今川義元「竹千代(さま)だ!!!!」


どちらとも、竹千代が必要となったのでした。

すると、その願いをかなえてくれそうな、”おぼうさん"が登場するんです。

名前は太原雪斎(たいげんせっさい)。


念仏をとなえ、フシギな力で竹千代を救ってくれた……とか、そういうことじゃありません。

この太原雪斎は、今川義元の『軍師(ぐんし)』だったんです。

(『軍師』ってのは「戦うときの作戦なんかを考える人」のこと。「え、おぼうさんが戦いに参加なんてしていいの?」と思ったかもしれませんが、いいんです。いや、よくはないんですが、この時代は、おぼうさんまでもが戦う世の中だったんですね。ちなみに、おぼうさんの軍師、まあまあいます。)

その太原雪斎、「さすが軍師!」といわれるような、すっごい作戦をやってのけちゃう。

三河国にですね、もともとは松平家のものだった安祥城(あんじょうじょう)というお城がありました。

ですがこのとき安祥城は織田のものになっていて、そこにいたのは織田信秀の長男、織田信広(おだのぶひろ)。
雪斎さん、まずはここをせめ、長男をとっつかまえます。

そして、織田信秀にこう伝えるんです。


太原雪斎「ご長男はこっちであずかりました。返してほしければ、そちらにいる竹千代とこうかんしようじゃありませんか」


あざやかです。忍者もビックリなほどのあざやかさ。

「うちの子をとられたんじゃ、しょうがねー!」となった信秀は、竹千代を雪斎さんにわたすことにします。

おぼうさん軍師のおかげで竹千代は尾張から出られることになったんですね。
そしてこれで、2年間もつづいた竹千代の人質生活が、やっと終わりを……


今川義元「雪斎よくやった! では、竹千代は駿河国であずかろう」
松平の家臣「ちょちょちょちょちょ! ちょっとまってください! 竹千代さまは岡崎にかえしてもらえるんじゃ?」
今川義元「なに言ってんだよ。もともと竹千代は、今川の人質になる予定だったはずだ。それをとり返しただけなんだから、岡崎にかえすわけねーだろ」
松平の家臣「もうやだーーー!!」


人質生活、つづきます。
尾張から駿河へと場所がかわっただけで、竹千代の人質生活はぜんぜん終わりません。

というか、ここから竹千代の本格的な人質ライフが、ガチゴチにはじまるんです。


ここまで読んでくれたみなさんの中には、こう思ってる人もいるかもしれませんね。

「いったいいつになったら、家康は活やくすんの?」って。

その気持ち、よくわかりますが、小さな体で自分の運命に一生けんめい立ち向かう。これも、じゅうぶんな活やくだと思いませんか? 

思わなかったら、あとちょっとで戦うようになるから、もう少し待って。


ながーい人質生活に入った竹千代くん。

ですが、岡崎からついてきてくれた家臣がいたので、けっして1人なんかじゃありません。
遊び相手となるようなとしのかわらない家臣もいれば、おもり役のとしのはなれた家臣もいます。

それに、スーパーおぼうさん軍師の太原雪斎にお勉強を教えてもらって、竹千代くんはすくすくと成長していくんです。

ウソかホントかわかりませんが、人質ちゅうの竹千代くんには、いろんな話がのこってるので、ちょっとだけごしょうかいしておきますね。


あるとき、河原にたくさんの子どもたちを見つけた竹千代くん。子どもたちは、300 VS 150という大人数で、石合戦をくり広げようとしています(雪合戦みたいに、石をなげあうもの。あぶないからマネしちゃダメよ)。

竹千代くんは、いっしょにいた家臣にたずねます。


竹千代「この戦い、どっちが勝つと思う?」
家臣「え? そりゃ人数の多いほうでしょう」
竹千代「オレは少ないほうが勝つと思う」
家臣「(メチャ笑って)た、竹千代さま、そりゃありませんよ! か、数が、数がちがいすぎますもん! 笑 やめてやめて、あーお腹いたい!」


家臣は笑ってましたが(ここまで笑ってはいないでしょうが)、終わってみれば、勝ったのは人数の少ないほうでした。


家臣「うっ…そ……。なんで、なんで少ないほうが勝つとおわかりになったんですか!?」
竹千代「人数が多いほうは、そのことに安心して半分は遊んでた。あとの半分もしんけんにやろうとはしていない。それにくらべて、人数の少ないほうは数がいないからこそ力を合わせる。だからだ」
家臣「(口あんぐり)」


竹千代くんの物事を見とおす力は、すごかったのでした(ホントかウソかわかりませんよ)。


またあるとき。

竹千代くんは「鷹狩り」にハマってました。

鷹狩りというのは、鷹を使って鳥類やウサギやキツネをつかまえる狩りのことで、竹千代くんの一番の楽しみです(大人になってもやり続けてるので、よっぽど好きだったんでしょう)。

ただ、ご近所さんにめいわくかけちゃってます。
竹千代たちの屋しきのとなりに、孕石元泰(はらみいしもとやす)という武将の屋しきがあったのですが、そこに、


竹千代「あ、鷹あっち行った…………あ、落とした……」


竹千代の鷹が、フンやエモノをしょっちゅう落としたそうです。

そのたびに孕石さんのおうちにあやまりに行くんですが、やっぱり孕石さんはカンカン。


孕石「三河のこせがれが! お前の顔など見あきたわ!!」


なんて言われてたみたい。

サッカーしてたら、ボールがおとなりのおうちへ。「またやっちゃったよ……(ピンポーン)すみません……」「またお前らか! これで何度めだ!!」っていうのと、いっしょですね。


人質って聞くと、「せまい部屋にとじこめられて、好きなことなんてできない」というイメージがありませんか? 

でも、竹千代は、おやしきも与えてもらい、お出かけしたり鷹狩りをやったりと、なんだか自由。それに、太原雪斎から勉強まで教えてもらってます。

だからね、最近は「人質じゃなかった…んじゃないの?」とも言われてるんですよ。もしかすると今川義元さん、自分の家臣として、大切に育てようとしてたのかもしれません。

そのショウコに、竹千代くんが成長して、けっこんした相手は、義元のめいっ子なんです。

ただの人質か、それとも大切な親せきか。これは意見がわかれるところです。


まだまだ人質生活まっしぐらの竹千代は、14さいのとき、今川家で元服(げんぷく)をむかえます(今でいう成人式ですね。このころは、数え年で12〜16さいになると、もう成人)。

それをキッカケに名前もかわり、今川義元の「元」の字をもらい、

『元信(もとのぶ)』

と名乗ることになります(昔は、上の立場の人の名前から、一文字をもらうことがありました)。

その2年後に、今川義元のめい『築山殿』とけっこん。


そして、いよいよ"初陣(ういじん)"です("初陣"とは、初めて戦いに出ることです)。


これまでに岡崎衆(おかざきしゅう)、つまり「松平の家臣のみなさん」は、今川のお手伝いばかりをさせられていました。

今川が行う戦いにかり出され、先頭で戦わされていたんです。

あぶない役目を押しつけられても、もんくを言わなかったのは、ぜんぶ元信(竹千代)のため。自分たちが命令をきかなければ、人質にとられている元信がどんな目にあうかわかりません。

それとはぎゃくに、戦いに出て良い働きをすれば、元信を返してもらえるかもしれない——。


じつは、元服した次の年、元信は父のおはかまいりのため、一度だけ岡崎に帰ったことがあります。

当主のいない岡崎は、今川の武将がしはいする世界。領民が作るお米も、かなりの量を今川に取られていました(「年貢(ねんぐ)」というやつね)。

そのため、松平の家臣も農作業をしなければならないほどです。

そんな中、鳥居忠吉(とりいただよし)という家臣は、元信を岡崎城の蔵につれて行きます。


鳥居忠吉「元信さま。これをご覧ください」


開けられた蔵の中を見た元信はおどろきます。
そこにあったのは、たくさんのお米と銭(お金)でした。


元信「こ、これは……」
鳥居忠吉「元信さまが岡崎城に帰ってこられるその日のために、今川の者たちに見つからぬよう、みなでたくわえておりました。松平家をふたたびもり返すため、お使いください」
元信「……忠吉」


まずしいくらし。キケンな戦い。つらく苦しい日々の中で、岡崎衆のたった一つの希望は、元信だったんです。

家臣は元信を求め、元信は家臣を思います。

ずっと力を合わせたいと願い続け、そしてむかえた、元信の初陣です。


元信「今こそ三河武士の力を知らしめるときだ!!! われにつづけぇぇーーー!!!!」
岡崎衆「オオオオォォォーーーーー!!!!!」


待ちに待った新たなリーダー。

元信と岡崎衆は、ともに戦える喜びから、大きな力をはっきします。

今川義元の命令で出陣(戦いに出ること)した、元信のはじめての戦は、大勝利に終わったのでした。


このころ、勇かんだったおじいちゃん『清康』から”康"の字をもらい、

『元康(もとやす)』

と名前をかえることに。


人質という暗がりの中にさした初陣という細い光。

元康と家臣たちは、光のはばを広げていくことができるんでしょうか。


つづく。



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