第二章 三河の王、家康 〜ついに、三河国を……!〜

今回の一向一揆では、ほんとうに大変なめにあった家康さん。
けど、わるいことばっかりじゃありません。

一向一揆を相手にがんばって戦ってたら、家康に敵対していた武将たちもいっしょにたおすことができたんです。
それに、一向一揆に加わったことをゆるしてもらった家臣たちは

「マジありがとうございます! 殿に一生ついていきます!」

と、家康にメチャクチャかんしゃ。
こわれかけた関係がもどったおかげで、松平家は前にもまして一つになります。
こうして家康と家臣たちは、鉄のキズナでむすばれることになったのでした。

その後、けっそくが高まりに高まった家康軍団は、三河にのこる敵をたおしまくり。そしてついに——。

家康は、三河国を統一します。

松平家がドン底のタイミングで生まれ、長い人質生活をすごしたわか者が、一国の大名となったのです。
松平家康、このとき25さい。
かれとかれをささえつづけた家臣たちの、願いがかなったしゅんかんでした。


さて、「家康と家臣は一つになってた!」みたいなことをさんざん言ってきましたが、その家臣にはいったいどんな人がいたんでしょう。

このころの家康の国のおさめかたといっしょに、家臣の人たちをちょっとだけごしょうかいしときますね。
ホントにすこしだけです。
なぜなら人数が多すぎるから。

三河国を統一したころ、家康は家臣たちを

『東三河衆(ひがしみかわしゅう)』
『西三河衆(にしみかわしゅう)』
『旗本(はたもと)』

という3つのグループにわけました。

名前のとおり、三河の東を守るのが『東三河衆』で、三河の西を守るのが『西三河衆』。
それぞれのグループにはトップを立て、三河の東西をまかせたんですね。

『東三河の旗頭(トップ)』とよばれるのは……家康の人質時代のおもり役でもあり、松平家臣団のまとめ役でもある、たよりになるリーダー、
「酒井忠次(さかいただつぐ)」。

『西三河の旗頭(トップ)』とよばれるのは……こちらも家康の人質時代からずっとつかえてきた家臣、「石川家成(いしかわいえなり)」。だったけど、そのあとおいっ子の数正くんにゆずったので
「石川数正(いしかわかずまさ)」。

「うん。東と西はわかりやすいけど、じゃ『旗本』ってのはいったいなんだい?」

『旗本』はですね、
"家康にちょくせつつかえる家臣"のことです。

そのなかには、家康に蔵の中のお米をこっそり見せてくれた鳥居忠吉の子ども、

「鳥居元忠(とりいもとただ)」

や、わかくてゆうしゅうな

「本多忠勝(ほんだただかつ)」
「榊原康政(さかきばらやすまさ)」

という武将がいました。
もう予告しちゃいますが、鳥居元忠は、数十年後、じつに悲しい名場面を作りだすことになるし、本多忠勝と榊原康政という同い年コンビは、ここからムチャクチャかつやくします。

ちなみに、本多、榊原、酒井忠次、さらにこのあと約10年後に家康につかえることになる
「井伊直政(いいなおまさ)」
という武将を加えた4人は、のちに

『徳川四天王(とくがわしてんのう)』

とよばれ、家康が天下をとるために、なくてはならない家臣となっていくのでした。

じゃ、家康の家臣もしょうかいしましたし、わすれたころに”あれ”、いっちゃいましょう。

「ぼく、松平家康! いまの名前にあきたから、そろそろ名前かえるぞ!」

のコーナーです(もちろん、あきたから名前かえるわけじゃありません)。

もう『家康』にはなってますから、今回かえるのは名字。「松平」のほうです。

三河を統一した家康は、
「おまえが三河国の大名だ!」
と、正式にみとめてほしくなって、名字を変えることになるんです。

ん? 正式? だれがみとめたら正式なわけ?
しかも、なんで名字を変えるひつようがあるの?

ここからは、ちょっとややこしい話なんで、読みとばしてもらってもだいじょうぶ。
何行かあとにある「……がたんじょうしたのでした」というところで、またお会いしましょう。

さて、家康は、いったいだれにみとめてほしかったのか?
それは、

『朝廷(ちょうてい)』

という組織(そしき)です。

『朝廷』というのは、天皇と、貴族(きぞく。リアルなおじゃる丸をそうぞうしてください)がいるグループのことで、ここの人たちがみとめると、
「オレが三河の大名だー!」
と、どうどうと名のることができる。てな感じのルールになってたんですよ。

家康「三河を統一したんだから、名のりてーよなー。『三河守(みかわのかみ)』がほしいよなー」

『三河守(みかわのかみ)』というのは、今でいうところの"公務員(こうむいん)"のような職業で、これをくれるのは朝廷。
家康は、『三河守』をもらって、朝廷からも世間(せけん)からも、大名としてみとめてもらいたくなったんです。

家康「三河を統一したんで、『三河守』くれませんか?」
貴族「ダメだよ。『三河守』は、源氏(げんじ)か平氏(へいし)か藤原氏(ふじわらし)か橘氏(たちばなし)の一族じゃないとなれないよー」
家康「マジすか…。あ! でもうちのおじいちゃん「松平は源氏の血をひいてる!」って言ってたらしいんで、だいじょうぶじゃありません?」
貴族「それホントなの? だいぶあやしいでしょ」
家康「えー、ダメすかーー、えー、なんとかなりませんー、ねー、三河守ほしいんすよー、ねー、なんとかしてくださいよー、ねー、ねーねー」
貴族「ダルいおねだりするねー。んーちょっとまってね。(しばらくして)あー家康さん。あんたんとこのごせんぞさま調べてみたらね、『オレ、藤原氏とつながってます!』って言ってる人がいたのよ。そのごせんぞさまの名字にかえたら、藤原氏の一族ってことになって、三河守できるよ」
家康「ホントすか!?」
貴族「うん。そのごせんぞさまは"得川(とくがわ)"って名前だったから、もっとえんぎがよさそうに"徳川"ってのはどう?」
家康「はい! じゃそれで!」

じゃそれで! です。

もちろん、このやりとりはもうそうだらけですが、家康が名字をかえた理由を短くコミカルにするとこうなります。
めでたく三河守をもらった家康は、名字を『徳川』さんにチェンジ。
ここにようやく、あの

『徳川家康』

がたんじょうしたのでした。


つづく。



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