見出し画像

【ゼロから学ぶNVC #3】 自分の内側にも外側にも目を向けるNVCのステップ「観察」と「感情」(現場で使えるワーク付)

観察力を鍛えよう

連載#2では 共感の力をテーマに、「共感」についての考え方やワークをシェアしてきました。共感はNVCを実践しようとする人と場に、何より最初に大切にしていただきたいものです。

そして連載#3では、NVCの4つの要素 (観察・感情・ニーズ・リクエスト) のうち、最初の2ステップである「観察」そして「感情」について取り上げます。

私たちは知らないうちに、目の前の現実に評価や判断を下している

(1)「観察」は高等技術だ

「インドの哲学者、 J ・クリシュナムルティはかつて、評価をまじえずに観察することは人間の知性として最高のかたちであると述べている。初めてそれを読んだときの感想は、『ナンセンスそのもの』だった。理解する前から、すでに評価を下していた。自分以外の人とその行動について観察する際、相手への評価や批判、その他さまざまなかたちの分析を切り離すことは、誰にとっても難しいのである」

  「NVC人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版」p.61より

「観察」は、哲学者に【人間の知性の最高のかたち】とまで言わしめた行為です。

観察とは、「評価や判断を交えずに現実を捉える」こと。要は、見たこと聴いたことの事実のみを、客観的に捉えて表現することを指します。
これは、大人である私たちにとっても、ときに難しいものです。ましてや感情の制御や、認知の発達において途上である子どもたちにとって、ハードルが高いのは言うまでもありません。

しかし、何事も反復練習をすることで、私たちの確固たる力となることは皆さんご存知の通りです。「観察」の力は、NVCを実践する・しないに関係なく、私たちがどんな生き方をしようとも少なからず必要です。主観と客観の切り分けに苦手意識のある先生方も、子どもたちと一緒に、楽しみながら「観察」の力を鍛えていけるといいですね。

(2)あなたの世界はあなたにしか見えていない

私たちは皆、それぞれに独自のフィルターを持っています。それは、神経感覚的な特性かもしれないし、自分たちがこれまでに見聞きしたり、経験したりしたことによるものかもしれません。

例えば、AさんとBさんが歩いていて、通りの向こう側でこんな野良犬を見かけたとします。

その野良犬は、Aさんが小さい頃から飼っていて、つい2年前に亡くなってしまった愛犬にそっくりでした。Aさんは、その野良犬を見て急に懐かしさを覚え、愛おしさで胸がいっぱいになりました。きっとこの犬も優しい性格に違いないと思いました。近寄って可愛がり、連れて帰りたいとさえ思っていたのです。

一方、Bさんはその野良犬を見た瞬間、幼稚園の頃、自分の母親が似たような犬に手を噛みつかれた場面を思い出していました。絶対あの犬も凶暴だと思い、急に動悸が早くなり怖くて逃げたい衝動にかられていました。

このように、この世界に起きている事象は一つでも、その捉え方は人それぞれ唯一無二なのです。この世に誰一人として、あなたと全く同じ神経感覚を持ち、全く同じ経験を全く同じタイミングでしている人はいませんから、「あなたが捉えている世界は、あなただけのもの」だと言えます。

「観察」とは、この「あなただけが捉えた世界」から、「誰もが見聞きできた事実を抽出して言語化する」作業になります。

例えば、野良犬の例を観察すると、こうなります。

白地に茶色の斑点模様のある犬が、車道を挟んで向こう側の歩道からこららをみている。その犬に首輪やリードはついていない。

「観察」される事実は1つなのに、それぞれにとっての「現実」は幾多もある。生じる感情も、それに対する意見もさまざまである。その事実に気づくことで、他者との境界線を意識できる素地が整います。また同時に、起きている事象と自分の反応の間に、直接的な因果関係はないのだということにも気づくことができると思います。

(3)「観察」のトレーニングで育まれる力

対象から客観的事実だけを取り出す「観察」のトレーニングは、NVC実践のためだけでなく、子どもたちの論理的思考力、そして思いやりを育むトレーニングにもなるため、教室に持ち込む事に非常に大きな利点があります。

子どもたちの知的発達にも、安全な場づくりにも貢献できるので、ぜひ取り入れていただければと思います。

【論理的思考力】
複雑なものごとの因果関係やつながりを明確に把握したり、解決策を見出したりするためには、まず第一に、情報が事実か意見かを判別し、整理できる力が必要になります。それが「観察」のトレーニングで鍛えられます。

思いやり】
他者の身の上や気持ちに配慮するためには、自分のことを一旦脇に置いておく必要があります。それは、自分の評価や判断を混ぜないという「観察」の力以外の何ものでもありません。

ここからは、「観察」する力を鍛え、「感情」を表現するワークを紹介します。

評価や判断を下さず「観察」し、浮かんできた「感情」を客観的に捉える

✍️ワーク03: 写真や絵画を観察しよう

今回紹介する「観察」のワークでは、写真や絵画を題材に「観察」の練習をしていきます。

ここから先は

1,069字

¥ 200