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戦争は大きなカネが動く。そこへ群がる、金融関連業者たち。

 戦争のためには、通常の予算に加えて戦争のための予備会計を作り、一般会計とは独立させて戦費を調達しなければいけません。戦前の日本はもちろん一般会計の歳入に余裕があったわけではありませんから、例えば日中戦争では支那事変国債、太平洋戦争では大東亜戦争国債などを発行して戦費を調達し、兵器の製造や兵士の備品などをそろえました。これを軍需産業の景気と合わせて金儲けの機会に利用したのが、証券会社や保険会社です。
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 表題の写真は、日中戦争中の1939(昭和14)年4月の山一證券株式会社調査課が用意した資料で、「支那事変国債一覧表」と「生産力拡充等時局関係社債一覧表」です。資金運用の参考資料として社内向けに用意したものでしょう。生産力拡充等時局関係社債一覧表では、東京電気、三菱重工業、古河電気工業、芝浦製作所、中島飛行機、日本製鉄といった有力企業がずらりと並び、4・3%の利回りなど示しています。これらは2022年の展示会でご覧いただいたものです。支那事変国債一覧表は、国内だけではなく、満州国債も扱っていました。傀儡政権の偽装国家ならではです。 

 こちらは、太平洋戦争中の1942(昭和17)年11月、野村証券株式会社が岐阜県の顧客に送ったパンフレット「野村が提供する新利殖法―野村の投資信託―」と申込書です。1941年11月に初めて売り出した商品で「500円の資金でも何百万円の資金を投資運用するのと同様な結果が得られる」など、宣伝文句がはでに並んでおり、戦時下とは思えぬもうけ礼賛一点張りです。

 こちらは、1943(昭和18)年初頭に使われていた、日本生命の利源配当付保険の宣伝チラシです。貯蓄が弾丸となり兵器となって敵陣に飛び込んでいくとイラストを使って説明し、「戦時下にふさわしい」を強調して売り込んでいます。ちなみに、このチラシの裏には「五月事務所大対抗戦規定」が印刷されていました。

 1943年5月中の新規獲得実績の金額で勝敗を決定するとしており、勝者には実績の金額に応じて祝勝金を渡すとしています。50万円以上に対し70円と、当時の月給に近い金額を用意する熱の入れようです。国債の乱発で市中にあふれた現金をいかに自社に集めるか、しのぎを削っていた様子を伝える貴重な内容です。そして、政府にとってもこの競争は、大量の現金が品不足の社会に流れることで発生するインフレを抑えるのに好都合でした。
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 銀行に務めていたことのある小林多喜二は、こうしたからくりもよくわかっていたのでしょう。「蟹工船」の中で、労働者にこんなことを語らせています。「今までの日本のどの戦争でも、ほんとうは―底の底を割ってみれば、みんな2人か3人の金持ちの(そのかわり大金持ちの)さしずで、動機(きっかけ)だけはいろいろにこじつけて起こしたもんだとよ」(岩波文庫版より)。戦旗掲載版では、「戦争」が「××」と伏字にしてありました。
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 戦争を賛美するスローガンや戦争そのものまでも、無垢な庶民をうまく動かし、金儲けをするための魔法にしか見ないー。これらの資料や小林多喜二の慧眼は、現代にも通じる警鐘に思えるのです。

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