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サテライトが尾を引くとき

 サテライトが尾を引くとき、僕はそれを見上げながら、虫除けスプレーをズボンに振りまく。ここには僕しかいない。雨上がりのアスファルトから、湿気を伴った熱気が持ち上がってくるが、たまに吹く風はそれらを揺り動かし、暑さと涼しさのカオスを生み出す。カサカサと囁く乾いた草の音は、湿度と対極を成している。遠くで伊予鉄の音。緑色の匂い。サテライトが赤青い尾を引くとき、僕はそれを見上げながら、月の美しさにも目をくれずに立ち尽くしていた。野良猫が集まってきた気配がする。でも、僕がエサを持っていないと判断するや、すぐにどこかに消えてしまった気がする。サテライトはどこまで行くのか。居場所を間違えた僕は、従って立ち方も、見上げ方も間違って、場違いなことに気付くのが遅すぎた後、孤独になった。目線はサテライトを追いかけても、僕は僕にしか見えないものを見ている。サテライトが消えてしまう前に、僕は走り出した。草むらも、アスファルトも、全て置き去りにして、いつかそれらが恋しくなるのか、そこにいるべきだったのか、振り返りはしないまま走った。振り返りたくなかった。そこにいて感じる孤独は、場所を変えて無くなるのか。野良猫も寄ってこなくなった僕は、サテライトが消えてしまう前に、スニーカーの底が擦り切れるまで夢中で走った。

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