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読書記録

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Sense of wonder

 TheSongbards Spring tour 2024京都公演の開催会場、国の有形文化財でもある紫明会館は、ツアータイトル"Sense of wonder"に似つかわしくとても美しかった。  ギシギシと鳴る階段を上がって、上がって、上がって、3階の古い公民館のような会場にキャパシティ100名弱のパイプ椅子が並べられていた。その真ん中、小上がりになったステージは4人が横一列に並ぶのにちょうど、というくらいのこぢんまりとしたものだった。  窓の外には木々の葉っぱが広がって見

    • ES執筆の基本ステップ

      「ESを使い回したいが、字数制限が異なるのでどうしたら良いか分からない」 「字数をオーバーしているが、どこを削れば良いか分からない」 「書きたいことが上手くまとまらない」  ESの添削をしているとこのような悩みをよく耳にする。ここではそういった悩みを解消する「抽象化」「具体化」という2つのステップを説明していきたい。  まず、文章は基本的に抽象→具体の流れで構成されている。日常会話では当たり前にやっていることでも、文章となるとこの流れが崩れてしまう人が多いように感じる

      • 天使のナイフ/薬丸岳

         最近、9番街レトロにハマっている。変なコンビ名の芸人である。とりわけ、京極風斗という男が好きだ。洒落た名前の芸人である。芸人という名にふさわしく、彼は絵を嗜み、レトロ雑貨を愛し、そして読書家であるらしい。そんな彼が「道徳の教科書はこの一冊でいい」と評するのが本書である。  好きな男が追った文字列と一言一句違わぬ文字列を追う。物語が展開する度に、好きな男はここでどう思ったのかという余計なことに思いを馳せてしまって厄介だった。私は今、京極が追った文字列と一言一句違わぬ文字列を

        • 就活振返り

          01 ざっと自分の就活スケジュール ・2回生冬 国家公務員志望(家庭裁判所調査官補佐)。公務員受験予備校(LEC)の家庭裁判所調査官補コースに入る。学費は30万弱。併願する他の公務員の仕事調べたりしてたけど地方公務員に全く興味が持てずに時間だけ過ぎる。 ・3回生8月 短期インターンに行けば地方公務員に興味が出るかもしれないと思い、愛媛県宇和島市役所に一週間のインターンに行く。なんで宇和島かというとコロナでまともにインターン募集してるところが他になかった。これで興味が湧かな

        Sense of wonder

          「三つの名を持つ少女 その孤独と愛の記憶」三毛

           一度、落として割ってしまった花瓶を元通りの形になるように修復したとしても、それは元の花瓶ではない。他人から見れば、汚く、醜く、歪な形になってしまったとしても、私はその傷を含めて愛するしかない。割れてしまった花瓶の破片が心に突き刺さって血が止まらなかったけれど、誰も気付いてくれなかった。誰も助けてくれなかった。 「あなたのためを思って言っているの」 「あなたのためを思って」 「あなたのために」  なぜ大人の説教の枕詞は揃いも揃ってこうなのだろう。私のためを思っているのなら

          「三つの名を持つ少女 その孤独と愛の記憶」三毛

          「正欲」朝井リョウ

           この世の全ては、明日生きていたいという原始的欲求を持つ人のために存在する  これは小説冒頭で提示される命題です。そして、この命題は物語全体に一貫するテーマでした。この命題の裏を取れば、明日生きていたいと思えない人間にとって、電車にぶら下がるどの広告もスーパーの特売品も選挙も駅前で声をかけてくる不動産の営業もナンパも、その全てがなんの意味を持たないものであるということです。人はみな、明日を生きていたい。このことを前提に世界は動いているということを、朝井リョウは淡々と小説冒頭

          「正欲」朝井リョウ

          「犬も食わない」尾崎世界観/千早茜

           尾崎世界観の本ばっかり読んでんじゃないわよ、これでもう3冊目じゃないの、と思いながら、また本屋さんで尾崎の本を手に取ってしまった。そして、数年前に別れた元彼のインスタをわざわざDMの履歴から探してきて眺めているときのような罪悪感にも似た気持ちで今これを書いている。私だって、なんだってそんなに偏向的なんだと自分自身で思っている。いつもお昼ご飯を食べるときは、同じ定食屋で同じメニューしか頼めない。狂ったように朝井リョウの小説を片っ端から読み漁った時期もあったし、それが湊かなえで

          「犬も食わない」尾崎世界観/千早茜

          「ルポ死刑」佐藤大介

           ここで新書の読書感想文までも書いてしまうのか少し悩んだ。でも、この場は自分の中では"読書記録"と題しているのであくまでこだわりを持たずに記録として残しておくことにする。ここでは死刑について自分なりの極論を述べたいと思う。せっかくなので。  私は"社会的死"刑の導入を提唱する。死をもって償うべき重大犯罪を起こした人間に、生命学的死の代わりに社会的死を与えるというものである。現行制度では、死刑囚は死刑の確定後、社会とは隔絶された拘置所内で厳しい面会制限と行動制限の中で生活して

          「ルポ死刑」佐藤大介

          「泣きたくなるほど嬉しい日々に」尾崎世界観

           元彼の人数が増えていくにつれて、百万回生きたネコのことを思い出す。ひとつの恋の息の根が切れて、また新しい恋が息をはじめる。そのひとつひとつの生命で、可愛がられたり、傷ついたり、暖かかったり、冷たかったりした。  もう終わりにしようって今日こそは言うと決めた日のデートがたまたま楽しかったりして、やっぱりまた次でいっかなんて思って、また冷たい感情に心を支配されて、あの日あの言葉を言わなかったことを後悔する。別れるには相応のエネルギーが必要で、そのエネルギーはあの日のキライとこ

          「泣きたくなるほど嬉しい日々に」尾崎世界観

          「傲慢と善良」辻村深月

           あなたのためを思って言ってるの、親御さんもあなたのためを思って言ってるのよ、みんな、あなたのためを思って。  あなたのためを思って、この枕詞から続く大人の言葉で、本当に私のためを思ってかけられた言葉など一つもないということを10代の私は痛いほど教えられた。私のためじゃなくて、全部自分のためじゃないか、そう心の中では反論しても口には出せなかった。  高校生で不登校になったとき、最初は体調を心配していた母もだんだん私が学校に行かないことに難色を示すようになっていった。学校に

          「傲慢と善良」辻村深月

          「少年と犬」馳星周

           人生で初めて出来た彼氏は本が好きだった。この本がまだ単行本で出版されたばかりの頃、一緒にいた本屋で直木賞を受賞して話題に上がっていたこの本を手に取って眺めた後で、文庫本になったら読みたいと呟いて、また平置きに積み上げられた元の位置に戻した。お金がなくて文庫本しか買う余裕はないけど、潔癖で図書館の本が読めないところは私と似ていた。  あれから、3年近くが過ぎた。時間潰しに立ち寄った本屋でこの本の文庫本が平置きで積み上げられていた。私は特に考えもせず、その文庫本を手に取ってレ

          「少年と犬」馳星周

          「ナナメの夕暮れ」若林正恭

           前作の「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」が面白かったので、本屋さんで見かけたこの新作を手に取った。(前作も読み返して近いうちに書きたい。)解説に朝井リョウの名前があったことも惹かれた理由のひとつだけど、エッセイというものの面白さに若林作品を通じて気付いた。エッセイを読んでいると人の頭の中を覗いているような気持ちになる。もちろん、作者の頭の中に渦巻いている思考が言語化され、取捨選択され、さらに脚色されてようやくこの紙に印字されていることも分かってはいるけど、それも含

          「ナナメの夕暮れ」若林正恭

          「今夜、すべてのバーで」中島らも

           「日本の政府には、ドラッグ常用者を逮捕する資格はない。アル中を量産している形而下的主犯は政府なのだ。犯罪者に犯罪者を逮捕する資格はない。」  この一節がすごく気に入っている。この一節をプリントしたTシャツでも作ってやりたいくらいには気に入っている。しかし、アル中を自己管理能力の甘さが招いた結果として認識している人の中には、責任転嫁も甚だしいと思う人もいるのかもしれない。そもそも、日本政府を相手取るにはその主体性が曖昧すぎる。日本という国に帰属意識を持った人間たちの総意が成

          「今夜、すべてのバーで」中島らも

          「祐介・字慰」尾崎世界観

           音楽に社会性は必要か。サーキットフェスの主催者が、「会ったこともない名の知れないバンドがリプ送ってきたところで出すわけないじゃん」と酔った勢いで長文ツイートをしていた。いや、直前にまだサーキットの出演枠余ってるんでおすすめのバンドありますかってツイートしてたのお前やんって思いながら、バイト帰りに揺られる電車で、そのおじさんの酒臭い息を荒げた長文ツイートを全部読んだ。アイコンをタップしてプロフに飛ぶと、いかにも義理人情にうるさそうな顔をしたおじさんの写真付きでインタビュー記事

          「祐介・字慰」尾崎世界観