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「里親子が暮らしやすい街は、きっと、あなたも暮らしやすい街。」 第2回イベントレポート

令和5年10月21日、東京都世田谷区にある「宮坂区民センター」で「里親子が暮らしやすい街」について考えるイベントを開催しました。今回は、養子縁組里親として3歳の男の子を預かり、現在はそのお子さんと特別養子縁組が成立している松原翔さん、恵さん夫妻(いずれも仮名) と、世田谷区地域子育て支援コーディネーターの松本居恵さんによるゲストトークを実施。後半は、参加者を交えた意見交換の場が設けられました。当日の様子をイベントレポート形式で振り返ります。

※第1回目のレポート記事はこちら


◆自己紹介・里親制度の説明

今回は、親子が集う「おでかけひろば」利用者や里親になりたい方、親子の支援事業を行っている方など9名が集まりました。自己紹介の後、「フォスターホームサポートセンターともがき(以下:ともがき)」のスタッフから里親制度や事業内容について説明がありました。

ともがき 私達は、里親養育を一貫して支援するフォスタリング機関です。世田谷区から委託を受け、主に里親制度の普及活動、里親の研修事業、里親委託に向けたマッチング、里親養育の支援の4つの事業を行っています。

「里親制度」は、子ども達のための制度です。子どもが欲しい親のための制度ではありません。里親にもいくつか種類があり、例えば特別養子縁組が成立するまでの期間、里親として子どもを養育する「養子縁組里親」と、一定期間子どもを預かって養育する「養育家庭(里親)」があります。

子どもは、家庭の中で健やかに養育される必要があるとされています。子どもが成長する上で極めて重要な、特定の大人との愛着関係の中で養育を行うことにより、子どもが健やかに成長することができるためです。 2021年までの東京都の里親委託率は緩やかに上昇傾向にありますが、まだ十分には足りていない状況です。

◆養子縁組里親として子どもを受け入れた里親夫婦の話

続いて、養子縁組里親として受け入れた男の子と特別養子縁組が成立している 里親夫婦によるゲストトークを実施。お二人は世田谷の児童相談所で里親登録を行った2年後に、養子縁組里親として子どもを預かりました。 里親になり、子どもや地域と関わる中でどんな気付きがあったのでしょうか。

恵さん 私は結婚前から里親支援団体へ寄付していたこともあり、里親制度自体は知っていました。だから将来、自分の子どもがいてもいなくても「里親という選択肢がある」という認識はありましたね。結局、私が出産を経験することはなかったのですが、共働きで仕事も安定していたので、里親登録をしようという話になりました。

我々の場合、里親であることを近所や職場、友人にもオープンにしています。子どもにも乳児院にいた頃のアルバムを見せたり、私と出会った理由を話したり、ありのままの事実を伝えています。子どもの試し行動が大変などと聞きますが、正直、里親になって困ったことは少なくて。逆に「周囲に助けられている」と感じることの方が多いですね。

翔さん 保育園の先生や近所の方に「教えてください」と助けを求めると、皆さん親切に教えてくれるんですよ。洋服の選び方からおすすめの店、薬の飲ませ方まで分からないことは何でも教えてくれるので、本当に助かっています。

恵さん 手続きにも児童相談所の方が同行してくださって、「サポート制度ってこんなにあるんだ!」と驚くほど資料もいただきました。家庭訪問にも来てもらえるので、疑問は都度解消しています。

あえて困りごとを挙げるなら、ママが集まる場で出産の話ができないことや、病院などで子どもの親戚の既往歴を正確に答えられない……などでしょうか。ただ私が不妊治療を一切しておらず、不妊による辛い経験をしたわけではないので、割と葛藤なくオープンにできています。

だから尚更、里親であることをお互いが特別視せずに、雑談みたいに話せる空気を作りたいと思っているんです。とはいえ、ここまで包み隠さずオープンにできているのは、職場環境や周囲の人に恵まれているからとも感じています。

翔さん そうですね。実際、身近な人だけでなく遠方からも「話を聞かせてほしい」と問い合わせをいただくことがあって。なかには周囲の目が気になっている里親さんもいました。

恵さん 我々のようにオープンになれない人もいると思うし、血のつながりが当たり前に優先される価値観が、言いづらい空気を作っているとも感じています。だから、一概にオープンにすればいいという話でもないのかもしれません。

◆“子育ての困りごと”に寄り添う松本居恵さんの話

続いて、世田谷区地域子育て支援地域コーディネーターの松本居恵さんが登場しました。松本さんは子育て中の困りごとを一緒に考えて適切な支援につないだり、子育てサービスの情報を提供したりしています。そんな松本さんに、里親子と地域の関わりについてお話しいただきました。

松本 子育て中は、どこに相談したらいいかわからない場面が多くありますよね。その悩む過程で生まれる小さなストレスが爆発する前に、解決方法を一緒に考えたり調べたりするのが私の仕事です。

里親さんには、未就学児とその親が利用できる「おでかけひろば」で数名会ったことがあります。子どもが生後6ヵ月の頃から利用していたある女性は、子どもが幼稚園に上がるときに、里親であることを初めて告白してくれました。彼女はそれまで、ママ友にもおでかけひろばのスタッフにも隠していたそうです。また、子育て研修で出会った里親さんをおでかけひろばに誘って話を聞いたら、子どもとうまが合わず、育児疲れで悩んでいたことを知りました。

ここにいると「多様性」という言葉をより強く意識するようになり、工夫もしましたね。例えば、サイコロトークのテーマに子どもの名前の由来や出産秘話が入っていたのですが、里親やステップファミリーなどのことを考えて廃止にしました。

また一人の人間にも、さまざまな側面があると感じています。私一人の中にも女であり、妻であり、誰かの子どもであり、というふうに。世代によっても、里親に対する価値観や知識の量はさまざまですよね。そう考えると、誰だって無意識の偏見があるのは自然なことかもしれません。だからこそ、より多角的な視点で人を見ていく必要があると感じています。

◆参加者を交えてのクロストーク

次に、ゲスト3名と参加者のクロストークの時間が設けられました。
松本さんの話を聞いて恵さんは「私も日常の雑談のなかで困りごとが解消することが多いので、悩みを人に共有する大切さを改めて実感しました」とコメント。

また前回イベントに登壇し、支援者の一人でもある里親支援専門相談員の足立佳子さんは「本当にオープンマインドなご夫婦で、理想的な形で里親のステップを踏んでいるケースだと思います」と絶賛していました。

後半は、グループごとに意見交換の時間が設けられました。テーマは「里親子がより暮らしやすくなるためにできること」。意見やアイデアは1枚の紙にまとめられ、最後にグループの代表者が発表しました。

◆Aグループ「啓発イベントで一般市民の興味関心を誘う」

Aグループでは育休制度の問題、突然親になることへのプレッシャー、苗字が違うことで困るケースがあるとし、里親子の認知をもっと高めていきたいという意見でまとまりました。

具体的には「有名人を起用してキャンペーンを行う」「誰でも参加できるフリーマーケットなどの啓発イベントを行い、制度をよく知らない人の興味を引く」などの案が出ました。

◆Bグループ「里親やステップファミリーの発信の場を設ける」

Bグループは、主に委託された子どもの一時預かりや待機児童の問題が話し合われました。

里親が暮らしやすくなるアイデアとしては、「気を使わない関係性を築く」「困っていたらさらっと手を差し出す」「血縁関係がない親子や家族の形を周知していくために、当事者の話が聞ける場があるといいのでは」といった意見が出ました。

◆アンケート回答・次回のイベント予告   

最後に、リフレクションシートとアンケートにご記入いただき、イベントは終了。今回は里親さんをゲストに迎え、終始前向きな話をうかがうことができました。
また、親子の支援事業に関わる方だけでなく、一般市民の方々も素敵なアイデアを出し合い、有意義な時間になりました。

■「里親子が暮らしやすい街は、きっと、あなたも暮らしやすい街。」


第3回目の開催日は、令和5年12月10日です。

※終了しました。

次回のテーマは「地域の大人として、わたしにできること」。
訪問支援と居場所支援、里親子を中心に向き合う2つの立場から一緒に考えます。
日時:令和5年12月10日(日)14:00〜16:00
場所:publico パブリコ 小さなカルチャーセンター(東京都世田谷区松原6-2-9 梅ヶ丘アパートA-1 )
定員:20名(先着順)
参加費:無料
詳細・イベントの申し込みは以下をご確認ください。
https://seta-oya.com/posts/event-Dec10

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