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母親による虐待、里親家庭での生活を経て20代女性が今思うこと


過去3回にわたって開催された「里親子が暮らしやすい街は、きっと、あなたも暮らしやすい街。」は、里親子と地域が支え合うアイデアを共有するためのイベントです。

最後となる4回目は、令和6年1月13日、東京・世田谷にある「Cafe Kolm」で開催。
今回は里親家庭で生活した経験があり、特定非営利活動法人IFCAユース(※)メンバーの山本愛夢さんを招き、里親との生活や葛藤を率直に語っていただきました。
当日の様子をイベントレポート形式で振り返ります。
※社会的養護の当事者である若者を指す言葉

※過去のレポート記事はこちら(https://note.com/setaoya



 

◆自己紹介・里親制度の説明

今回は大学生や子育て支援に関わる方など、幅広い年齢層の8名にご参加いただきました。自己紹介の後、「フォスターホームサポートセンターともがき(以下:ともがき)」から里親制度や事業内容について説明がありました。

 

ともがき 私達は、里親養育を一貫して支援するフォスタリング機関です。世田谷区から委託を受け、主に里親制度の普及活動、里親の研修事業、里親委託に向けたマッチング、里親養育の支援の4つの事業を行っています。
 
「里親制度」は、子ども達のための制度です。子どもが欲しい親のための制度ではありません。里親にもいくつか種類があり、例えば特別養子縁組が成立するまでの期間、里親として子どもを養育する「養子縁組里親」と、一定期間子どもを預かって養育する「養育家庭(里親)」があります。
 
養育家庭(里親)のもとには、親の病気や死亡、虐待などさまざまな事情により実家庭で暮らせない子どもが委託されます。未就学の子どももいれば中高生もいますし、数ヵ月から数年間、子どもが自立するまでなど年齢や期間はさまざまです。里親というと養子縁組里親をイメージされる方が多い中で、私達はこうした養育家庭(里親)の普及にも努めています。

 

◆ユースの伴走者、岡桃子さんが登場

続いて、特定非営利活動法人IFCAのサポーティブ・アダルトの岡桃子さんが登場しました。

私達は主に、社会的養護のもとで過ごした若者(ユース)の声を社会に届ける活動をしています。毎年2000人余りの若者が高校を卒業し、施設や里親家庭を離れて自立します。私達が支援するのは、こうした「移行期」のユース達です。 

ただ、こちら側が一方的に何かを提供してあげるわけではありません。当事者であるユースが主体となった活動を重視しているからです。私達は彼らを、「伴走者」のような立場で支えています。

IFCAはアメリカにも支部があり、双方の国を訪ねて交流し、お互いの国のユースたちの経験や現状、支援制度を学び合うプログラムを積み重ねてきました。

またユースの声を届けるイベントでは、主催側の大人達のために、ユースが受け身で語りを消耗するのではなく、ユース自身が主体となって、自らの経験とイベント目的を結び付けられるような発信活動となることを大切にしています。

 

◆母親からの虐待で里親家庭に入った山本愛夢さんの話


この流れで、IFCAユースメンバーの山本愛夢さんが登場しました。
現在24歳の山本さんは、1歳の頃に両親が離婚、15歳まで母子家庭で育ちました。15歳から2年半ほど里親家庭で過ごし、措置解除後の現在は看護師として働いています。里親との生活や当時の想いを、岡さんインタビューのもと振り返っていただきました。


 

山本 当時は母子家庭に対する偏見が強く、母親は人に迷惑がかからないように私を厳しく育てました。それがいつしか殴る蹴るの暴力になり、ある日、母親の耳が聞こえなくなった理由を「あなたにストレスを感じているせいだ」と言われました。
それで自分の存在価値がわからなくなって……もう死のうと。15歳の頃でした。学校の先生に「私は今日死ぬけど、先生のせいじゃないからね」と言ったら、すぐに児童相談所の人が来て一時保護されました。その後、里親との生活が始まりました。


 里親との生活はどうでしたか?
 
山本 まず、家のルールに慣れるのがとても大変でした。例えば浴室の換気の仕方、洗濯物を入れる場所など、細かいルールに順応しなければならず、口喧嘩もよくしましたね。
 
でも、里親と喧嘩ができたのはいい思い出です。実の母親には反抗できず、イエスマンになるしかありませんでした。自分の意見を言えるようになったので、里親には感謝しています。でも当時、喧嘩が多いことを大人に相談すると「里親も頑張っているんだから」と言われて、ちょっと複雑な心中でしたね。


 他に困ったことはありましたか?
 
山本 10月頃保護されたのですが、翌春、制服の衣替えの季節を迎えて、児相を通じて母親に夏服を持ってきてもらうことを依頼しました。しかし結局、夏服は手配されぬまま、初夏に学校の合唱コンクールの開催時期がきました。合唱コンクールではクラス全員が同じ格好をしなければならず、先輩から夏服を借りてなんとか参加することができたという思い出があります。


 他のユース達のエピソードがあれば教えてください。
 
山本 困ったことでいうと、児童養護施設にいたという理由で結婚が破談になってしまったとか、緊急連絡先や保証人などの名前を求められて困ったという話は聞いたことがあります。


 逆に周囲にしてもらって嬉しかったことはある?

山本 里親家庭を出た後に、社会的養護のもとで育った学生が集まるシェアハウスに住みました。この施設のスタッフさんに、たくさん迷惑をかけてしまって。でも、私が何度問題を起こしたり、迷惑をかけたりしても、施設のスタッフさんは普段と変わらない態度で受け止めてくれて、親身に話も聞いてくれました。
 
だから、退去時に謝ろうとしたんです。そしたら、あるスタッフさんが「あなたが生きるためにもがいてきたことを、私達は迷惑とは思ってない。そのままでいいんだよ」と言ってくれて。
 
その言葉が、ずっと心に残っています。私も他のユース達も、「人に迷惑をかけてはダメ」と大人に言われ続け、枠やルールからはみ出さないよう懸命に生きてきました。でもそうじゃなく、ありのままの自分でいいと言ってくれた人達には感謝しかありません。私もこの言葉を、他のユース達に伝えていきたいです。


 とても沁みる話ですね。当時、周囲の大人にして欲しかったことはありますか?
 
山本 昔、母親から首を絞められて、その傷跡を見た先生が児童相談所に通告したことがありました。また、私の泣き声が理由で近所の人経由で通告されたこともあって。このとき、児童相談所からは「躾の範囲内」と判断され、「虐待」という結論に至って私が保護されるまで15年の月日がかかりました。
 
当時を振り返って思うのは、大人はもっと子どもの声に耳を傾けて欲しい。そして、親も助けてほしい。暴力という手段でしか躾ができなくなるほど母親が追い詰められていたことに、早く気づいて欲しかった。親が幸せじゃないと、子どもは幸せになれないと思います。


 ここまでのお話を聞いて、愛夢さんは相手の立場に立てる方だなと感じました。最後に、皆さんに伝えたいことはある?
 
山本 生きてきた環境がみんな違うから、無意識に誰かを傷つけているかもしれないってことを頭の隅に置いて欲しい。価値観や感じ方は人によって違うから、「わからない」という感覚も大事にして欲しいなと思います。

 

ここで、里親を検討しているという男性から「愛夢さんは、里親に何を求めましたか?」という質問がありました。

それに対し、「もし幼少期の頃に里親と出会っていたら、親代わりを求めたかもしれません。でも私は15歳まで実家庭で暮らし、暴力は受けましたが、母親を嫌いになったわけではありません。だから里親には、衣食住が安全に確保された場所で、一人の人間として対等に関わって欲しかったんだと、今はそう思います」と胸の内を明かしてくれました。

最後にともがきスタッフから、「世田谷区では、里親希望者には面接の段階で、必ずしも親子のような関係になるわけではないと伝えています。特に思春期のお子さんになると、適度な距離を保って接したほうがいいなどの助言をすることもあります」という情報も共有されました。

 


次に、里親子が暮らしやすい街づくりにするためのアイデアを共有するワークショップを実施。参加者は付箋にアイデアを書き、グループ代表者がそれぞれ意見を発表しました。


●Aグループ「里親子と他の家族が集う食堂をつくる」

Aグループでは、食事の時間をみんなで共有する「地域食堂があるといい」という意見が出ました。ここで里親子と一般家庭が交流を図ることで、「他の家族のあたたかみを体験できたら」という意見も共有されました。

また里親の話を根掘り葉掘り聞くのではなく、「傾聴する姿勢が大切」という声も挙がりました。


●Bグループ「里親・里子同士が交流できる場を設ける」

Bグループでは、「里親子が気軽に集まれる場所」について議論がなされました。

具体的には、「里親同士、里子同士が交流できる第3の場所を設けたい」「年齢や性別、生活環境もさまざまだからこそ、個別対応もできるといい」「日常ですぐ行ける場所にあることが大事」などの意見が挙がりました。


また、山本さんの『子どもは、支援者に対して感謝していても、その気持ちを伝える術がわからない場合がある』という発言を受け、「感謝の気持ちがあっても表現できないことがある」「自分の当たり前を相手に押しつけない」といった価値観も共有されました。

 

最後に

最後に参加者にアンケートをご記入いただき、イベントは無事終了しました。

2023年9月から4回開催された「里親子が暮らしやすい街は、きっと、あなたも暮らしやすい街。」、いかがでしたでしょうか。過去のレポート記事もnoteに掲載しておりますので、ぜひご覧ください!

※過去のレポート記事はこちら(https://note.com/setaoya

今後も里親制度相談室「SETA-OYA」は、里親制度の普及・啓発のための活動に努めてまいります。

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