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日本は検索社会であるが、中国はレコメンド社会である

ご無沙汰してます。僕です。

中国に移住してしばらく経ちました。
今は、日本人が周りに誰もいない中で、消費材のマーケティングをやっていたりします。

一言で言うならば中国マーケットは本当に独特です。イチから学ばなければならないことが本当に多い。ぐえ。

せっかくなので、いち凄腕マーケターとして、気づいたことをいくつか書いてみたいと思います。

今回はタイトルにある通り、「日本は検索社会であるが、中国はレコメンド社会である」です。

日本には、いや、中国以外の国には最強の検索エンジンがあります。そう、Googleです。

Google、超便利じゃないですか?

レシピを探すのもお店を探すのも観光地を探すのも基本はGoogleでことが足ります。大抵の場合は、独自のアルゴリズムで最適な検索結果をバシッと見つけてきてくれます。

もちろん、それぞれクックパッドも食べログもトリップアドバイザーといったサービスもありますので、気に入ったらそちらで深く探していくこともできます。が、まずはGoogleに行けば、なんでも網羅的に探すことができます。

図にしてみるとこんな感じです。Google最強。

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中国ではGoogleは規制されていて使えませんが、代わりに有名な百度(Baidu)という検索エンジンがあります。

ただ、Googleの中国版だと思って使おうとすると、完全に戸惑います。なんか、検索精度、悪くない?めちゃ使いづらくない?


何か簡単な調べものをする時は百度を使いますが、大概の場合は目的に応じて他の色々なサービスを使わないといけないイメージです。

周りの人を見てると、いい感じのカフェを探そうとする時に百度を使う人はあまり見ません。レストランを探す時は「大众点评」というアプリをそのまま使うイメージです。

図にして見ると、こんな感じ。(名前はサービス名です) 百度の検索結果は、Googleに比べるとだいぶ限定されている感じです。

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これってなんでなんでしょう。それは、百度は勝ち残るために「顧客を囲い込むことを検索結果の精度よりも優先しているから」のように見えます。

百度は中国の3大インターネット企業のBATの一角と言われており、他のアリババやテンセントとバチバチに鎬を削って競い合っています。
さらには、それ以外にも中国では新旧のインターネットサービスが勃興している中で競争環境がめちゃくちゃ激しいイメージです。

ベストな検索結果を出して、アリババに顧客を渡してしまうより、自社のサービスに繋がる結果を出して顧客を囲い込みたいという意思が働いてるのではないでしょうか。

結果として、個々のサービスがアプリやミニプログラムベースでそれぞれ独自に閉じた世界を作っている感じで、ユーザーは異なるサービスを横断するのが非常に限定的になっている感じです。ユーザーは目的に応じてそれぞれのサービスのアプリやミニプログラムを立ち上げないといけません。

例えるなら、ウォール・マリアのような壁に囲まれた箱庭がいくつもある感じでしょうな。アプリ一つ一つが独立していて、その中でユーザーの行動が全て完結するという。

箱庭にゴリゴリと入ってくるGoogleはさながら超大型巨人といったところでしょうか。

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では、Googleのような検索サービスが存在していない中国では、代わりに何が発達していったのか。そう、「レコメンド」です。

オンラインショップなどで、利用者の好みにあった物品やサービスを推薦する手法。利用者の購入履歴やアンケート、好みが似た他の利用者の情報を分析し、適切な物品やサービスを絞り込んで推薦することにより、売り上げを高めるのがねらい。レコメンデーション。

コトバンクの定義を借りましたが、オンラインショップ以外だと、Youtubeが次に見る動画を提案するやつ、あれもレコメンドですね。

中国のWebサービスはビジュアルを用いたレコメンドが圧倒的に強いように見えます。

中国最強のオンラインショッピングサイト、タオバオですが、申し訳程度の検索機能の下には、広大なレコメンドの海が広がっています。お手持ちのAmazonや楽天のアプリと比較していただくと一目瞭然かと思います。

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これでもかとレコメンドをしてくるタオバオアプリ



黄未来さんの著書『TikTok 最強のSNSは中国から生まれる』という本にも下記のようにあります(この本、中国のSNS事情に関してめちゃ勉強になるのでおススメです)。

TikTokの優位性としては、「イケてる音楽」╳「ショートムービー」といったユニークなポジショニングや、バイトダンス社のマーケティング力などが挙げられますが、最大の強みは熾烈な競争のなかで磨き込まれた「技術力」です。

(中略)

Douyin(TikTok)がこれらのサービス群から頭ひとつ抜け出せた最大の要因が、レコメンド機能の背景にある機械学習の技術でした。わたしの見立てでも、中国のスタートアップ業界内の定説としても、バイトダンス社の技術、とりわけレコメンドをおこなう技術のレベルは世界一である、と断言しても決して過言ではないのです。


このように、中国のサービスはレコメンドが圧倒的に強いのですが、これは、それぞれの箱庭にやってきたユーザーを「興味を次々に惹き、長く滞在させたい」という思想を強く反映している結果といえます。

そして、それを「圧倒的に容易な会員登録」と「便利になるならば個人情報を渡しても構わないという文化」がそれを加速させ可能にしています。

後者はだいぶ有名だと思いますが、前者も中国のサービスの大きな特徴だと思います。

電話番号ベースの登録なので、勝手に携帯電話から番号を読み取り、ボタンを押すだけでの登録を可能にしてくれます。下記のような画面が出てきて、ボタンを押すだけ!面倒くさい入力、なし!めちゃ簡単です。

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「おそろしく速い会員登録…オレでなきゃ見逃しちゃうね」


結果として、サービス側は大量の個人のデータを蓄積することができ、レコメンドの精度に次から次に磨きをかけていくことが可能になります。

で、これがどういった違いを生むのか、というところなんですが、検索社会は「今までの実績」と「第一想起」の勝負ですが、中国では「話題の急上昇度合い」と「ビジュアルのインパクト」が非常に重要になってきます。

これはどういうことかというと、Googleの検索とその結果を思い出してもらえたら分かると思いますが、自分の頭にパッと出てこないブランドはそもそも検索のしようがないです。
また、検索結果はGoogleのアルゴリズムがみんなが今まで選んできた実績のある信頼のページをセレクトしてくれます。

なので、「今までの実績」と「第一想起」が非常に重要になってくるということですね。

一方で中国の場合は、ビジュアルを元にしたレコメンド主体であり、より目を惹く、ついクリックしたくなるような、インスタ映え的なビジュアルの力が重要になってきます。(インスタはありませんが、中国では颜值というそうです)

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こちらオレオの旧正月限定デザインです。映える!


さらに、次から次へとレコメンドによってクリックをさせていく必要があるのて、実績のあるものよりも、みんなが今まで見たことのないような「話題の急上昇アイテム」がハイライトされていきます。

と、いうことで、ここらへんを押さえて、中国でマーケティングで勝つためには、インスタ映えするニュースを継続的に投下する必要があるのはもちろんですが、話題になるために時に資源を極端に短期間に投下する必要が出てきたりします。

イメージとしては、日本や他の国々ではなるべく継続的にサポートできるように資源を分散するのに対して、中国では短期間にドカンと投下をする方が効果が高いというところでしょうか。

ここらへんが中国でマーケティングをする難しさでもあり、面白いところだと感じています。勉強していきます。

ちなみに、日本でもこのレコメンド機能のトレンドが進んでいくのか、というところに関しては、私は半分疑問を持っています。
SNSのような閉じた生態系で、人々が登録をして個人情報を渡す前提のサービスではレコメンドはより主流になっていくとは思いますが、それ以外のウェブサービスにおいては検索主体の社会はしばらくは変わらないように思います。
(もちろん、Googleに変わる検索方法なんかは出てくるとは思いますが)

とはいえ、世の中は予測ができない形で変わっていきますので、日本の様相も中国からウォッチしていきたいと思います。

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