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幽霊になった妻が不倫しまくってました。

「……はい、一生愛することを誓います」
こんなセリフを言う日が来るなんて嘘みたいだ。
結婚を他人事だと思っていた僕が、まさか交際3カ月で式を上げるなんて思ってもいなかった。
清美とはマッチングアプリで出会ったすぐに意気投合した。3回目に告白なんていうけれど、2回目には公園でキスをしていた。
キスをしたからには告白するほかない。いや、それは印象が良くない。
ちゃんと真剣にこの人を愛したい、そう思って結婚を決めた。

でも、式を終えて2カ月後。まだラブラブな最中に清美は事故で死んでしまった。
当時は信じられなかったし、つらかったし、なんでだよなんでだよとむせび泣く日々が続いた。もう立ち直れない。そう思っていた。

そんなある日、広々としたダイニングで冷めたコンビニ弁当を食べているときのことだった。
「ケンタ?」
振り返ると、清美が立っていた。スラリとした体とキリッとした清楚な顔立ち。間違いなく清美だ。でも、足がない。
「もしかして……幽霊?」
「こっちではそういうのかな」と笑った。

僕は清美を抱いた。幽霊になっても清美は清美だった。
艶やかで優しくて、ずっとそばにいたいと思わせる存在感。ほとんど透明だけど……。
うれしかった。幽霊だけど、清美と、妻と一生過ごせる。
それだけで僕は生きていける。

そう思っていた。
でも、清美は時折しか姿を見せないようになった。
まぁ幽霊が四六時中見えるのもおかしな話だし、向こうには向こうの事情があるに違いない。

清美はめっちゃくちゃ不倫をしていた。
一緒に寝ているときに僕の名前を間違えたり、抱いてくれない日もあった。
僕の前では見せない化粧をして、僕の前では見せたことのない技をしてきた。
どこで覚えた? どこで変わった?

清美はめっちゃくちゃ不倫をしていた。
問い詰めたら、顔がタイプの男がいたらとりあえず憑りついては、夜の時間を楽しんでいた。
「だって。ケンタ忙しそうだし。私、暇だから……」
清美からそんな言い訳を聞きたくなかった。

この世に、残してきた夫に未練があって幽霊になった人間も、誘惑に負けるらしい。不倫をするらしい。

「そういうのは違うんじゃない? 霊になったのは俺と過ごすため……じゃないの?」
「……出来心」

清美は二度と不倫をしないと約束してくれたけれど、すぐにその約束は破られた。
憧れのアイドルに憑りつくことができたらしい。

確かに、僕は法律上は独身だ。
だから清美がしていることは不倫じゃない。
でも、清美が、妻が許せなかった。

「ごめん。私、そういう幽霊なの」
「……分かった」

僕は霊媒師を呼んで、お祓いをしてもらった。
二度と会えない悲しさより他の男に弄ばれることのほうが寂しかった。
清美は、幽霊は、不倫女は、消えた。

俺は、また1人で冷めたコンビニ弁当を食べている。

左手でマッチングアプリをタップしながら、清美の遺影に会釈した。
「さよなら。またいつか」


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