希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋し…

希瀬望@脚本家、コント作家(セトダイキ)

脚本、シナリオ、コント作家。『ウルトラマンオーブ』『世にも奇妙な物語』『イタイケに恋して』『魔法のリノベ』『オクトー』『好きやねんけど~』ほか。セトダイキ。 setodai4@yahoo.co.jp 富山県出身。ドラマ、映画、欅坂46(櫻坂)、お笑い全般(漫才、コント)、野球。

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芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

「お子さん、3人とも立派に育って羨ましい限り」 「いえいえ、そんなことは……」 「偉大ですよ。近いうちにお母様の本を出したい、そう思っております」 「……困ります」 雑誌取材のライターからの賛辞に、いつも母親は謙遜する。それもそうだ。 長女の小枝は、18歳の若さで出した処女作で芥川賞を受賞した。目の前の光景がみずみずしい筆致で鮮やかな比喩を交える文体、現代を切り取ったテーマを評価された。 その弟・幹人は、驚きのどんでん返しとエンターテイメント性溢れるスパイ小説で、3度目の

    • 休講のときに行くカラオケは盛り上がりに欠ける

      あーなんて素敵な日だぁぁあ♪ 隣の部屋で誰かがMrs. GREEN APPLEを歌っている。昼の14時、お茶の水。きっと大学生に違いない。まぁそれにしても音痴すぎる。リズム感も終わっている。同じ卓にいる人を思うと同情するレベル。 ウチらはいつものように陣取り、リモコンに手を取る。 誰が何を最初に歌うかでその日のカラオケはまるで戦術が変わってくる。 智子がadoを歌えばはりきりなナンバーが並ぶし、あいみょんを入れたらバラードが続くし、懐メロを入れたらモー娘。やらAKBやら、小

      • 真綿で締められるような恋

        じわじわ、じわじわ。その人はアタシの心を締め付けてくる。 優しいけれど、会社でひときわ目立たない存在で、なんだったら少し嫌われている小山田さん。あたしの3つ先輩にあたるが、仕事の覚えも悪い。 月の頭は憂鬱そうだし、月の中頃はお腹が痛そうだし、月末はクマだらけ。 会議であくびをしては怒鳴られている。 じわじわ、じわ。 きっと自分のことで精いっぱいのはずなのに、小山田さんは人の面倒ばかりみようとする。普通に心配になる。小山田さん、上司にレポート頼まれていたはずなのに。 じ

        • 僕はハリー杉山じゃない。

          だからさ、何回も言うけど僕はハリー杉山じゃない。 バナナマン設楽が司会をする朝の番組とか出てなかったし、テレビは昔、西武遊園地でインタビューされたぐらいだし。 そもそも英語も話せないし、ハーフじゃないし、あんな陽気じゃない。 日本生まれ、日本育ち。両親ともに東北人、学生時代は卓球部の補欠だった陰キャなんだよ、僕? ハリー杉山のわけがない。 23歳だけど彼女もできたことないし。顔の彫が深いだけじゃモテないってこと、これで証明されたでしょ。 女の子の裸だってお金を払わずに見た

        芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

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        • キセノート
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        • セトノート
          2本

        記事

          ミックステープは明日渡すから

          初恋は梅雨の匂いとともに動き出した。 クラスメイトの桜ちゃんと話ができたんだ。どんな話をしたかは覚えていないけど、帰りの自転車置き場でちょっとだけ立ち止まってくれた。 「じゃあさ、僕のテープ貸してあげるよ」 このセリフを言ったことだけは覚えていた。きっと音楽の話をしたんだろう。 夜、家、部屋。両手でやっと持てるWカセットテープレコーダーをベッドの上に置いた。きしむベッドの上でCDを置いては外す。 ミスチル、サザン、スピッツ、ユニコーン、エレカシ、たまを入れたミックステープ

          もう絶対に嘘つかないでね

          「もう絶対に嘘をつかないでね」 「うん……」 バーン。 俺は瞬時にして屍になった。嘘をついてしまったからだ。 嘘をついたら死んでしまう体になったのだ。 翌朝。ベッドで目覚めた。 嘘をついて死んでも蘇る体になったのだ。 嘘と正義は決して成立しない。誰かにとっての嘘は真実だし、誰かにとっての正義は悪だからだ。 「ごめん。味濃かったかも」 「ううん。てゆか、好きだし、濃いの」 バーン。 死んだ。 「来月飲みに行こうな」 「当たり前だろ」 バーン。 粉々になった。

          食べるだけの動画だから観てる

          33歳、結婚1年目。上からはまだまだ若いと言われるし、下からはおじさんがられる複雑な世代。同じ年の妻との生活は比較的心地が良い。 でも、ウチの奥さんはYouTubeが好きでテレビを見ない。そこだけどうもうまく生活に噛み合いの悪さが生じている。 しかも見ているのは旅行に行ってご当地グルメや酒を飲む動画ばかり。こいつら、ちゃんと店に許可取ってるのかと元ADの俺はイライラしているというのに……。 別にYouTubeやユーチューバーを否定するつもりもないが、そこまで夢中になられると

          受け止められない、回転数で。

          いきなりトイレの前で抱きしめられてキスされて、甘い言葉をつらつら囁かれてアタシは固まってしまった。 なんでこんな安い居酒屋に? という疑問なんか吹き飛ぶぐらいの衝撃、浮かび上がるような情熱。 目の前にいたのはアタシの推しのワタルだった。 キラーフレーズの元絶対的エース。家庭の事情で業界から足を洗ったというエピソードさえアタシたちをときめかせたワタル。 なぜ、この安居酒屋で、こんな大胆な。いや、ゲスなことしようとしてくるの……。

          劇団ニホン海 第3回公演 蜃気楼のような恋だった。

          この町は、春になると蜃気楼が見える。だからよく晴れた日は海沿いに老若男女が集い出す。 この町の人が、ホタルイカの次に好きなのが蜃気楼だ。その次はカレーラーメンだ。あ、それは私か。 蜃気楼は、上暖下冷の空気層の間で光が屈折して観察者の目に届き、風景が伸びたり反転した虚像が見える現象。 その季節は春から初夏、3月下旬から6月上旬。 2、3日晴天が続き、気温が高く、海岸で穏やかな北北東の風が吹く日に発生しやすいとされている。結構ややこしいような、分かりやすいような。 短いもので

          劇団ニホン海 第3回公演 蜃気楼のような恋だった。

          手の甲を太陽に

          さてと。 と言い出すときの彼氏は決まって何もしない。 今日も昼前に出かけると約束していたのに、いつのまにか「のど自慢」が始まっている。 「のど自慢ってなんかおもろいよね」 「まぁ。令和にやるメディアとは思えないよね」 「え!? この人、鐘一つではないだろぉ」 「てゆーか、早くパジャマ脱いで」 そんなこんなで14時に街へ繰り出す。 ちょうどランチも終わる時間。ギリギリ滑り込みセーフで、お気に入りのパスタ屋に飛び込む。 そこでもなぜかグラタンも食べる彼氏。パスタをうまく巻けない

          墓場の散歩が怖くなかった月夜の話

          ゼミ合宿で肝試しをすることになっていた。約束事は酒を飲まないこと、騒がないこと、そして男女でペアになること。 俺はこのイベントが楽しみでしょうがなかった。 爽子さんとペアになった。先輩だけど童顔で、そのくせナイスボディの持ち主でゼミの人気者だ。 俺のくじ運も捨てたもんじゃない。先月のバイト代で風俗行かなくてよかった。 順番が来る。 墓場の前で「怖いの苦手だから少しお酒飲んできちゃった」と笑う爽子さん。 火照った顔が俺の持つ懐中電灯に照らされる。 何かが起こりそうな予感

          墓場の散歩が怖くなかった月夜の話

          ダブルスチール・ガールミーツボーイ

          甲子園球児に女子はなれない。身勝手なルールがある。ビデオ判定でも覆られない、最悪のルール。 「風! 風あるぞ、外野!!」 球場に吹く風は、時として残酷だ――。 帽子からなびく髪の毛が邪魔になって、アタシは生まれて初めて短髪にした。顔に髪の毛が張り付いて打球を見失ったのだ。そのエラーからチームは3失点。女子野球の全国大会に進むことができなかった。 野球少女イコール髪が短いイメージを抱かれるのが嫌で貫いていた決意もプレーに支障がきたら仕方がない。 見慣れない自分の顔立ちを

          ダブルスチール・ガールミーツボーイ

          サクラチル、春来たりて投高打低

          飲まされすぎたようだ。たかがゼミの決起会でこんな馬鹿騒ぎするかねぇ。 だから二流大学になんて入りたくなかった。でも、でも! 浪人なんてするお金はウチになかったし、この大学は野球が強いから、マジでそれだけでうれしかった。 そう、アタシの学部には大阪城館の石橋君がいるのだ。アタシにとって、甲子園のヒーロー、真夏のアイドル。あの八重歯とクリクリの目がかわいくて、おまけにショートの守備がホントたまらん! でも石橋君は2年生になった今もレギュラーを取れず、授業の合間にキャンパスの近

          サクラチル、春来たりて投高打低

          ツッパルことが女の勲章

          誰にも知らせたことはないが、クラスの皆に知られていることがある。 アタシが女相撲をしていること、西日本チャンピオンになったこと、それを隠していたこと、この3つ。――だけのはずだ。 高2にして相撲歴は12年。書道教室や塾にも通っているが、一番長いのが相撲だ。得意技は寄り切り、上手投げ。接近戦の圧力なら負けない。女子同士なら……。 女が土俵に上がっていいんだっけ? てゆーかハダカ? あ、下は隠れてるか。え、ブルンブルンじゃん。 何度となく聞かれたこの質問。何度となく話したこ

          開閉式セカイの途中

          今日もまた世界が閉じたり、開いたりしている。 セカイのほうに行く方法は一つ。届出をもらって所定の場所に行くこと。ただし、午後13時か午後17時30分しか開放されていない。 開閉を任される公務員の人手不足、ホワイトな働き方の影響だ。 市民からしてみたら迷惑でしかない話なのだが……。 ビザしか持たない僕らは、3日ずつしかセカイに滞在できない。 世界のほうは今、温暖化と冷凍化が同時に多発し、崩壊しかけている。 ここにいては野球もできやしない。 野球ぐらいしか特技のない僕には死

          【劇団日本カイ 第一回公演】 海が見えたらその先の日本海にあるもの 序文

          ザザーンと激しい白波が立つ。ここはそう、日本海。 アタシは帰ってきた。ボロボロになって。 でも誰もアタシがアタシだと気づかない。 10余年の月日がアタシの記憶を風化させたわけでも、アタシの存在価値がなかったわけでもない。 アタシには健康な両親がいて、市役所に勤める弟もいる。 でもアタシにはギリギリ気づかない。 だってアタシは人を殺して、全身整形と脂肪吸引手術を経て別人になったから。 片手で文庫を読む癖だけは変わらない。 だからだろうか、高校時代の彼氏に後ろから叩かれた。

          【劇団日本カイ 第一回公演】 海が見えたらその先の日本海にあるもの 序文