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春空で鬼と出逢う

桜がぶわりぶわりと散って、夜風に待っている。
そんな日の夜、アタシは鬼と出会った。
結婚することになっている彼氏の親と食事をした。なんとも気まずい時間。固い笑顔。弾まない会話。彼氏が間をとりもってくれたおかげで2時間はどうにかやり過ごしたが、外に出て桜並木を眺めている時間は気まずさの頂点になった――。
「キレイだね」
「うん」
「寒いから帰ろう」
妙齢でも風情のないこの感じ、批判は覚悟で言おう。姑になるこの女性に嫌悪感を抱いた。
だって、コイツ、アタシの推しのメンズアイドルのトップ厄介ファンだから!!!
界隈のファンクラブのグループラインでも問題視され、写真や年齢も拡散されていたから、アタシの記憶にがっつりとこべりついている。
中野塚絵巳子、62歳。アタシらは、ビップスのヲタクたちはアンタを許さない!!!

なのに、今アタシはほろ酔いしながら、最悪な厄介ファンと舞い散る桜を眺めている。「おかあさん」と呼ぶことになり、下手したら老後の世話をしないといけない。

推しが聞いたら泣くよ。ヲタ仲間が聞いたら暴動するよ。

このババアがしたことは――ああ言いたくもない。
彼氏に推し活動を黙っていたことが悪かった。でも、このババアも推し活について息子に話していなかったようだ。
出禁になったこととか、事務所からお叱りを受けたことも知らないのだろう。

最低な推しとの、暮らしがまもなく始まる。
ちょうど武道館ライブが決まった日のことだった――。

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