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蛍かご【コンパクト レトロ】

 このあたりの地方にはある年になると土地の守り神といわれる蛍が多く現れ、土地に恵みを与えるという伝説がある。少年は夢を抱いている。伝説の蛍を自分の作ったかごに入れることだ。少年は図書館の奥に長年眠っていたであろう伝説が綴られた本を借りた。その本には8月6日、1000年に一度この近くの河川に蛍が現れる。そう書かれていた。1000年に一度の年。ちょうど今年がその年なのである。
 
8月6日
 その日は朝から快晴で太陽がさんざんと照っていた。あまりの暑さに熱中症警戒アラートが発動されていた。昼を過ぎたあたりで暑さは和らぎ、蛍取りには適した気候になっていた。
 日が沈み、あたりが暗闇に包まれたころ、少年は動き出す。少年はかごを持って河川敷に行くとそこには大量の蛍がいた。蛍は空の上の方に登っている。少年は蛍の方に走っていき蛍を掴もうとする。でも蛍は掴めない。少年は蛍の行く先を見つめる。蛍は上へ上へ上がっていきやがて消えていった。普通は美しいと思える蛍がこの時だけは、不思議とそうは思えなかった。なぜか虚しい気持ちになってきた。少年はしばらく河原に座り蛍を眺めていた。しばらく見ていると少年はもう一度手にかごを握り締め蛍を取ろうと思い蛍を掴めようとするも蛍は掴めない。少年はついには蛍取りを諦め家に戻ってしまった。何時間いたのかも分からずもう陽が登っていた。思いの外美しい陽の光を浴びながら、何も取れていないはずのかごが妙に重い気がした。

キュレーター 金沢 かずえ(中学2年)

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