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コルク【コンパクト レトロ】

 約2年前、東京のある下町のいかにもレトロ感漂う喫茶店の店主からこの球体をもらった。これは店主が31年前にカンボジアで愛した女性から貰ったものらしい。もうケジメをつけたいということで思いごと僕はこれを受け取ることになった。正直困ってはいる。しかし、どうもこの球体からは何か不思議なものを感じる気がする。他の球体と何か重み?が違うような、いや、軽いんだけど。なんか、重い気がする。友人に話すとこう返された。
「そのカンボジアの女性の思いが入ってて重いんじゃね?」
 いや、でもこの重みは1人の思いだけではないような気がする。
 そんなことを思いながら自分の机の棚に落ちないように置いてから早2年。
 ひょんなことから、親のアルバムを見ることになった。そこには父が大学の時に行ったカンボジアの写真が何枚か無造作に貼ってあった。その写真の一枚に父と喫茶店の店主が写っている写真があった。それはそうだ。その喫茶店も確か父が連れて行ってくれたんだ。その写真にはこの球体を握ってる店主の姿があった。
 何かを感じ、僕は棚の球体を手に取った。少し、思考を巡らせる。
 この球体はいつ、誰に作られたんだろうか。作った人は何を思ったのだろうか。なんのためにこれを作ったのか。なぜカンボジアの女性はこれを店主に渡したのだろうか。なぜ、これは僕の手元にたどり着いたのだろうか?
 いつかわかる時が来るのだろうか。そう思いながら球体を棚に戻そうとした。しかし、手が滑り床に落ちてしまった。ゴンッ、重い音が鳴った。

キュレーター 神野 祐介(中学2年)

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