見出し画像

第12回 社長が死去。そのとき会社はどうなる?【社長の相続論】

学生の方からメッセージをいただくことがあります。

みなさん真剣に、まじめに、重たいものを背負って懸命に悩まれていらっしゃいます。
本当に頭が下がります。
どうにか、行く先に光が見えることをお祈り申し上げます。

12回目の講義テーマは、社長の死去です。いわゆる相続問題です。
死について語るのはタブー視されがちですが、そのためにちゃんと問題と向き合うことができなければ本末転倒です。

ちまたでは、死という表現を避け、できるだけオブラートに包む表現をすることがよくあります。
たとえば死と直接言わず「社長に万が一が起きた時」といった表現を使ったり。
でも、するとやっぱり、伝わり方が変わってしまうと思うのですね。ヤメ大は現実主義なので、言葉遣いもダイレクトにいきます。ご了承ください。

ちなみにふと思いましたが、若い世代はもうオブラートを知らないのでしょうね。どうでもいい話ですが・・・


自分の死んだ後なんてどうでもいい?



さて、会社の着地の全体像から見た、社長の死去の位置づけは大丈夫でしょうか。
社長が自ら、任意で会社を着地させる3つのパターンがある。
しかし、着地させないままでいると強制終了が待っている。その強制終了の一つがすでにお話した倒産であり、もう一つがこれからお話する社長の死去です。

死がやってくるタイミングはわかりません。それがやってきたとき、社長は強制的に社長をやめさせられます。“終わらされる”という結末ですから、強制終了に分類しています。
飛行機でたとえれば、飛行機は飛んでいるんだけど、飛行中に操縦者たるパイロットがいなくなってしまうことです。もちろん、操縦者がいなくなれば、その後の飛行機は大変になることは想像がつくでしょう。

でも社長のみなさん、はっきり言って自分が死んだ後のことなんてどうでもいいですよね。
これが本音ではないでしょうか。

私は20年くらい前に、相続の手続きを総合的に支援するサービスを立ち上げました。このころはまだ、社長が顧客ではなく、個人のお客さんを相手にしていた時代です。

私の事務所では1年間で起きた相続を100件以上は扱っていました。
仕事をこなしながら「相続は起きる前に対策しておいた方が絶対良い」と気づき、それからは生前準備を推奨する活動も開始したのです。「遺言を書いておきましょう」とセミナーを開催したことも何度もありました。

誰にでも死はいつかやってくるのですから、備えはやっておいて損はないのです。しかし、相続の生前準備の呼びかけに対する反応はといえば・・・、もう、がっくりするほどに、みなさん動いていただけないわけです。
起きた相続の仕事を10件集めるのと同じ労力をかけても、遺言などの生前準備の仕事の場合は、1件か下手したら0件しか集客できないくらいの感覚でした。

その時気づきました。
「みんな自分の目先の利益のためには動くけれど、先の話なんてほとんど関心がない。ましてや、自分がこの世を去った後のことなんてどうでもいいんだ」と。

“のこされるご家族のために遺言を書いておきましょう”なんて当時の私は語っていました。今思えば、実に青臭い。
もう、そういのはもうやめましょう。正論なんてどうでもいい。本音からしか何も始まりません。

ということで、あなたが社長の相続を学び、事前準備のために行動を起こそうが、起こすまいがどうでもいいです。
私はただ、社長の死後に起きることを淡々と語らせてもらいます。


★会社を継いだ妻はウツに・・・


運送業を営んでいたある会社では、まだ50代の男性社長が事故で急に亡くなりました。
遺族は、会社をどうしたらいいか、社長は誰がやるのか、突如こんな問いに向き合うことになりました。

結局、経営をやっていた亡き社長の妻が次の社長をやることになりました。
次期社長を誰が引き受けるのか議論している際、従業員たちは「俺たちが支えますので、奥さんが社長になってください」と妻に言いました。顧問税理士や銀行も社長就任を勧めます。
「私なんかに社長が務まるのか」と、不安が無いわけではありません。しかし周囲の声は、それ以外の選択肢がないかのようです。暗に強いられているような気すらしつつ、流されるように妻は次の社長になりました。

後悔のはじまりでした。
亡社長のあとの社長に妻がなったとたん、従業員の態度は一変したのです。
「新社長を支えると」言っていた舌の根も乾かぬうちに、仕事の手を抜くようになりました。ドライバーの中には、ほとんど仕事もせず、外でパチンコをしている者もいました。

こんな従業員の態度に対し、新社長が、報告を求めたり、注意をしようものなら「だったら会社を辞めたっていいですよ」と逆切れです。この従業員は、社長には自分をやめさせることができないと思っていたのでしょう。
そんな従業員の思惑どおり、辞められると仕事が回らなくなる。ひいては会社を保てなくなると、新社長は恐れを抱きました。そのため、なめた仕事をする従業員を看過するようになってしまいました。

たしかに組織のトップと構成員の関係性には、こんな傾向があります。下の者は自分たちのボスを試すため、わざと一番困ることを、一番困るタイミングで言ってきたりするのです。
組織の本質なのでしょう。世の中に転がっているきれいごとの組織マネージメント論では太刀打ちできない世界があります。

この会社は中小企業であって、運送業です。はっきり言えば、若いころは勉強なんてろくにせず、やんちゃばかりをしてきたような男たちの集団なわけです。頭脳よりも腕っぷしの強さを頼りにしてきた人たちです。
相手が社長だから、先代の妻だからという理由で、言うことを聞いてくれるような人間でもありません。
亡夫が社長だった時代に、うまく組織がまわっていたのは、あくまで、社長が亡夫だったからです。従業員が亡夫のことを認めていたから、言うことを聞いてくれていただけなのです。

会社をうまく操縦できない新社長は気を病み、ウツになってしまいました。
私のところに相談に来た新社長は「社長なんてやらなければよかった」と涙を流しました。しかし、自分と社長を代わってくれそうな人材なんていないし、会社をたためば借金が残ってしまいます。出口は見つかりません・・・

社長が亡くなって会社に起きたことの一例です。このケースでは、社長だった亡き夫の遺された妻が犠牲になってしまいました。


★株式を手に入れられない後継者


他の事例も紹介しましょう。
社長が「俺の後継者はコイツだ」と、先代が公言している会社がありました。当の従業員もそのつもりです。
ところが、本当に社長が亡くなってしまったとき、後継者候補は会社を引き継げませんでした。

亡き社長と後継者候補の間には血のつながりがありません。
社長が亡くなったことで、社長が持っていた資産は相続財産となりました。会社の株式も同様です。相続人ではない後継者候補は、この相続財産の相続権がありません。

もちろん相続財産への権利は相続人が持ちます。そこで後継者候補は、会社の株式を相続した人と交渉して、会社の株式を譲ってもらおうと考えました。
ところが、フタを開けてみたら、交渉を相続人がいません。交渉を持ち掛けようにも、その相手がいないのです。

社長が死んだ後、社長の家族たちはすぐに相続放棄を家庭裁判所に申し立てました。「自分たちは会社に関係ないし、厄介ごとに巻き込まれたくない」という肚です。
すると相続権を持つ人間は、次の順位に移ります。少し調べたところ、とんでもない人数が相続人になる可能性が出てきました。20人は超えそうです。その人たちは、生きているのか死んでいるのかもわからないし、外国に移ってしまって音信不通の人もいるようです。

「こりゃダメだ」
私たちは断念しました。法律や手続きに関することは割愛しますが、無限に金と時間をかけられるのであれば、どうにかできた可能性はあります。
しかしそれは、非現実的な話でした。本気でやろうとしたら、金がどれだけかかるか、時間がどれだけかかるか、底が見えません。そして、そこまでして話を詰めたところで、後継者候補が株式を買い取れる保証はなかったのです。

株主が不明なままなので、次の社長をはじめとした役員を選任することもできません。
会社は生きています。社長が不在のまま、どうにかやり過ごせる時間なんて限られます。

様々な検討をした結果、後継者候補が株式を手に入れることは断念しました。
先代の遺した会社を見捨てました。
遺言の一枚でもあればあっさり回避できた問題だったのですが・・・


★銀行のお金を降ろせないで会社も即死


また別のケースです。
社長が急逝したと同時に、事実上倒産した会社もありました。

お金回りのことはすべて社長が担っていて、他の人には一切触れさせていない会社でした。そのため、社長が死んでしまったことで、すべての支払いができなくなってしまったのです。
社長以外の人間には、銀行の暗証番号も、通帳や実印のありかもわかりません。遺族ですら知りません。
そのために、お金はあるはずなのに、買掛金や従業員の給与も払えないという事態になりました。会社の血液たるお金の流れが止まってしまった状況では、長くはもちません。従業員や取引先は離散し、会社は体をなさなくなりました。事実上の倒産です。

かつて私が読んだ『町工場の娘』という本では、先代社長が死ぬ前日、ようやく娘に銀行口座の暗証番号を教えてくれた。その番号が家族に縁がある数字でジーンときたみたいなことが書かれていました。
アホか、と言いたい。こんなのを美談にしちゃいけないわけです。
たまたま運よく暗証番号を聞き出せただけです。もし聞き出せていなかったら、一発で会社まで即死させてしまっていたかもしれないわけです。

社長が死去した事例を3つご紹介しました。
少しは社長の死亡問題について、危機感を持っていただけましたか。

会社経営をしている社長が在職中に亡くなるというケースは、それなりに起きています。起きる確率と、事が起きたときの問題の深刻さを考えれば、リスク対策をしておく価値は十分にあるはずです。地震などの災害リスクに備えることと比べれば、備えるべき対象もわかりやすいものです。

しかし、多くの会社では社長の死去に対して備えがありません。
やっていたとしても「うちは生命保険に入っているよ」くらいです。ところが、生命保険を社長にかけていても、いざというとき、死亡保険金を請求する手続きができない場合もあったりします。

社長が亡くなったら、会社にどんなことが起きるか点検してみてください。
そして、必要に応じて備えをしておきましょう。ご要望があれば、私も相談に乗らせていただきます。


亡くなった社長を相続する危険性



社長の死が、会社経営に悪影響を及ぼしたケースについてお話してきました。次に、社長の死が、その家族に悪影響を及ぼしたケースをご紹介します。
社長には、会社の社長という一面だけでなく、当然ながら、一人の人間という一面もあります。その人間が亡くなった時、相続という問題が起きます。

印刷会社を経営している原田良子さん(仮名)という社長がいました。
会社の経営は行き詰まり、資金繰りを補填するため銀行から可能な限り借金をしました。しかし、それでは足りなくなったため、個人名で消費者金融から借金を重ね、会社の運転資金に充当するようになりました。

いつしか消費者金融から借金をすることもできなくなりました。
借金で借金を返済することに限界を迎えたのです。ついに良子さんは、会社を断念。債務整理を依頼するため、私がかつて経営していた司法書士事務所にやってきました。(20年前の私は、破産や債務整理を仕事にしていました)

良子さんは、社長であった夫が亡くなったことをきっかけに、社長になりました。「夫から引き継いだ会社をどうにか維持しなければ」と思い、無理を重ねたのでしょう。
良子さんは債務整理に入りました。その旨の通知を私の事務所から銀行に送りました。

すると今度は、銀行から良子さんに内容証明が送られてきました。「会社が借金を返済しないため、連帯保証人に借金の請求をします」という内容です。
銀行がこのように、連帯保証人に内容証明を送ってくることは普通で、お決まりのパターンです。

ただし今回は特別です。問題は、内容証明の宛名にありました。良子さんとともに、2人の娘の名前まで書かれていたのです。
「なんで?」という感じです。
借金をしている会社の社長は良子さんだけ。二人の娘は会社には全くかかわっていません。会社の借金を連帯保証した記憶もありません。
娘の一人は専業主婦をしていて、もう一人は、最近大学を卒業して社会人になったばかりです。

内容証明を見たとき、私はしばし悩みました。
そして、良子さんが社長になったきっかけを考えていたときに、ピンときました。良子さんは夫が死去したことで社長になったのでした。夫から株式を相続して会社の株主にもなっています。

そう、「相続」が原因だったのです。
夫が亡くなったとき、良子さんだけでなく、二人の娘たちもまた父を相続していました。
娘たちは、相続人として遺産分割協議書に署名押印をしています。



★悪いところまで引き継いでしまう相続の性質


相続というものは、包括的に権利も義務も引き継ぐ性質があります。美味しいところだけ相続するというわけにはいきません。預金も引き継げば、借金だって引き継いでしまいます。
そして連帯保証という義務も引き継ぎます。

良子さんの夫が亡くなり、良子さんと2人の娘は、銀行の借金の連帯保証まで相続した。その後、借金の返済をしてもらえなくなった銀行から、連帯保証人に請求が来たという流れでした。
銀行が主張する事実が正しく、「うっかりしてました」「そんな法律は知りませんでした」なんて言い訳は通じません。

ちなみに、娘たちは父の遺産を一切引き継いでいませんでした。会社の株式や自宅など、遺産はすべて母の良子さんが引き継ぎました。
しかし、遺産を引き継がなかったからといって、「自分は相続人ではない」とは主張できません。(話がややこしいですね)

娘たちの立場は、いわば、遺産をもらわなかっただけの相続人です。相続人に変わりないのです。
もし相続をしたくなかったのであれば、相続放棄をすべきでした。
相続放棄は、家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。相続放棄には積極的なアクションが必要なのです。

このあたり、巷の中小企業の社長の相続はどうでしょうか。しっかり確認もしないで、遺族は亡き社長を相続してしまっているケースも多いような気がします。実に危険です。

亡き父を相続し、知らぬ間に連帯保証人となっていた良子さんの2人の娘です。
請求をされたところで、会社の借金を肩代わりできるような資力なんてありません。最後は、自己破産をしました。

借金の責任を取って破産することも、経営者の良子さんならば仕方ない面もあるでしょう。しかし、会社に無関係だった2人の娘には、本当にかわいそうなものがありました。
人生これからという希望に満ちた時期に起きた悲劇です。


相続放棄じゃ、もったいない?


遺族が相続放棄さえすれば、借金を背負わされることはありません。相続放棄すれば法律上は他人です。たとえ父の借金や連帯保証であっても、代わりに払わされる筋合いは無くなります。

ただ、相続放棄をしたら、資産も相続できません。預金も、自宅不動産も、です。
相続放棄でリスクを回避するのはいいのですが、それで目の前の価値ある資産までドブに捨てることになったら、それはそれで悔しいし、もったいないところ。

この問題も、事前に手を打っておけば資産だけをもらえる(あげられる)可能性はあります。こういうのはなんでも先に仕込んでおけるかが勝負です。
相続放棄に対して、生命保険は良い仕事をしてくれるツールです。

例えば、社長である父を被保険者として生命保険をかけておく。受取人は子供です。そして、父が亡くなったとき、子供は相続放棄をする。
それでも、父にかけられていた生命保険は受け取とることができます。

保険金は生命保険会社から払われるものであり、相続財産ではないから、という理屈です。これは面白いですよね。
普通に預金として金を置いておいたら親族の手に渡らないけど、生命保険にしておくだけで親族がお金をもらえるのですから。もっと活用されたらいいやり方だと感じています。



いったんふりかえりましょう。

社長が死去したどうなるか。会社経営には多大な影響が起きることをお話しました。社長の死亡は、最大の経営リスクです。
また、社長の相続によって引き起こされる悲劇の可能性についてもお話しました。

ここまでの話を聞いて、どう感じましたか。
少しでも相続セミナーの類を受けたことがある方であれば、そこで聞いた話とはまるで違う話を聞いたのではないでしょうか。

私がお話したことは、一般人とは異なる、社長の相続特有の話でした。
相続の専門家を自称する人でも、中小企業の社長の死去について語れる人は、そんなにいいません。そのために、私が語ったような話を聞く機会は少いと思われます。



相続にかかわる論点



もちろん特殊な話ばかりでなく、一般的に語られる相続の話だって、社長に関係します。
では、何が相続の一般的な話なのでしょうか。

一つは、相続税の話です。
遺産が増えると、納めなければいけない相続税も増えます。その税金の計算方法と節税方法についてのセミナーや本などは、たくさん出回っています。
代表的なスキームは、預金1億円ではなく、その金で1億円の不動産を買えば、評価が7000万円に下がるから税金を600万円減らせます、みたいなものです。

個人資産の節税対策については、ここでは詳しく話しません。興味ある方は別の本などで学んでください。
ただ、忠告だけはしておきます。節税にのめりこむのはほどほどにしておきましょう、と。

「とにかく最大限の節税をするんだ」と躍起になると、いざ相続が起きた時に「納税用のお金がない!」なんてことになります。現金が手元にないということは、精神衛生上も良くありません。
どうあがいたってある程度の税金は払わなければいけないのですから、仕方ないとあきらめてしまった方が得策です。「1円でも安く」なんて眉間にしわを寄せて生きるようでは、ストレスばかりが積み重なってしまいます。


★会社の株式にだって相続税がかかる


社長の場合は、資産の中に会社の自社の株式が含まれます。
これも資産にカウントされ、ひいては相続税の上昇につながります。会社によっては、社長の持っている株式が3億円だ、5億円だと評価されることもあります。

なんとも腑に落ちませんよね。
中小企業の株式なんて、当事者からしたら価値なんて感じられません。不動産や預金なら価値を評価されて税金が増えるのもまだわかります。
でも、会社の株式です。ある意味、持っていることがあたり前すぎて、空気と同じような感覚です。それに「価値があるから税金払え」って言われても・・・。換金しようにも、そうそう誰かに売れるものでもないわけです。

と、文句を言ってもしかたないところです。
税金計算のルールには、株式価値の評価方法が決まっていて、それによって税額も増えたり減ったりします。だから、株式の価値(=株価)を意図的に下げようとすることがあります。このあたりは非公開のオーナー企業だからできることでしょう。

株価を引き下げる対策も、どこまでやるかの見極めが肝要です。結局、業績や財務内容が悪くなれば、勝手に株価は下がるのです。それで会社がつぶれてしまったら本末転倒です。

★事業承継税制の特例で株価は0円に?


株価がらみの打ち手としては、事業承継税制といったものもあります。これを使えば、相続時の株価評価を0円に引き下げられたりします。
目先の利益だけを見たらすごい得になります。

でも将来、これを使ったことで、別の有効な選択肢が制限されてしまうこともあり得そうです。
旧ジャニーズ事務所の問題のときも、ジャニー北川の死亡時に、この事業承継税制を使っていたため、会社をたたんだり、M&Aをすることになったらとんでもない税額を納めなければいけなくなるという話があったりあしました。

この手の特例とか、補助金、助成金の類は、いつも長い目で見た将来のリスクを見て、利用の可否を決めるべきです。
最新のテクニックを使うことが得意な専門家(このケースでは税理士)がいます。頭も切れるし、たしかに知識は豊富だったりします。
ただ、この手の人種は、得意な技を使いたがるのです。そして、目先の利益に偏りがちです。

世間を見回してみると、アクセルを踏むことに力を貸してくれる人は結構います。しかし、本当に必要なのはブレーキのほうだったりするジレンマがあります。
「それはやめておきましょう」と助言したところで、専門家は金を稼げません。
だから、あなたが注意をしないといけません。相談相手にはじまり、専門家の使い方、短期利益と長期利益のバランスのとり方など。

使わないでいい技は使わないほうがいいのです。結局、長い目で見たときの利益になります。
そのためには完璧をもとめず、ほどほどのところで止めておく心がけが大切なのでしょう。



★遺産分割はけっこう揉めてます


税金の次によくある相続の話題は、遺産分割です。
遺産分けでもめたとか、調停になったとかいうやつです。相続が「争続」になったとか言ったりしています。

この相続紛争が起きる可能性は、社長だけに限ったことでなく、一般の人の相続の場合も起きます。遺産がたくさんあっても、少ししかなくても、揉めるときは揉めます。案外、遺産が少ない方が、自分の取り分を増やさねばという意識が強く働くのかもしれませんね。

昔は、長男が家も継いで遺産も継いで、というのが当然だったことでしょう。
でも今は、みんなが平等の権利を持っていると思っています。
しかも、ネットで簡単に情報が取れます。だからみんな、自分に都合の良い話ばかり集めていたりします。本当に笑っちゃうほど、自分に都合の良い主張ばかりなんですよね。義務とか、責任ということは棚の上にあげて……。現代社会の特徴でしょう。

相続紛争は増えてきました。権利意識の高まりや、情報の普及という理由が影響していることは間違いありません。

でもやっぱり、一番の引き金は感情問題なのでしょう。傷つけられた人がいて、「なんで私ばかりが?」みたいな感覚が、相続の機会に噴出してしまうのだと思います。故人への生前の不満とか、他の遺族との不平等な扱いとか。このあたり「自分に相続が起きたって、子供が揉めることなんてありえんよ」と軽く感じている人は多いのですが、当人たちはものすごく繊細です。

一般の方が想像するより揉める可能性は高いものですが、相続で揉めたところで得なんてちっともありません。

遺産という限られたパイなのですから、ゴネたところで全体は増えません。誰かが引き継ぐ遺産が増えるということは、他の誰かの取り分が減るのです。もちろん、必死の抵抗を生みます。誰かが弁護士に依頼して、そしたら仕方なく別の遺族も弁護士を雇って……。こうして全体的な利益が損なわれていきます。美味しい思いをするのは弁護士だけという構造です。

揉める可能性を低くするために、話し合いのスタート時におけるマインドセットやルール作りを推奨します。
そして究極の遺産分割対策は、話し合いの機会を奪うことにつきます。そもそも、故人が公正証書遺言を作成するなどして、遺産分割の話し合いの場をもうけないで済むようにしておいてくれれば、この問題はほぼ解決です。


★民法どおりだと、後継者が損な役回りに


社長の遺産分割の場合は、通常、遺産の中に自社の株式があります。これは厄介になる場合があります。
株式は基本的にお金になりません。でも価値の評価はされます。

たとえば、すべての遺産総額が2億円、うちわけが1億円と評価される自社株式と、現金1億円だったとしましょう。相続人は、会社の後継者たる長男と、長女の娘です。

民法上の法定相続分で分けるならば、半分ずつなので、兄弟は1億円分ずつの遺産を引き継ぐことになります。
息子は会社をやらないといけないので、株式を引き継がざるを得ません。すると法定相続分の1億円が株式だけで満たされてしまいます。残りの預金1億は娘が相続します。


これって、なんだか不平等じゃないですか。
普通の感覚だと自由に使える預金1億円のほうがずっと価値があると感じます。
相続税だって納めなければいけないのですが、株式だけを相続する息子は、納税の資金を他のところから調達してこなければいけません。一方の娘は、現金があるので悠々と納税ができます。

法律のルールにまかせるのではなく、何かしらのケアをほどこしてあげたいところです。
会社の社長というのは、会社に関係しなかった者からすると、ひがまれたり、うらやましがられたりしがちです。

「お兄ちゃんは会社を継がしてもらったんだからお金持ちでしょ!? うちなんてただのサラリーマン家庭なんだから。さらに遺産をもらおうなんて、ズルすぎる」
とでも思われてしまったりしがちです。
本当はそんなに楽でも、稼げたりもしないのですが・・・

これくらいで社長の相続の話は終わらせましょう。
まだまだ語りたいことはあるのですが、いい加減このあたりで止めておかなければキリがありません。個人の相続というテーマだけで飯を食べている専門家だって何人もいるし、一冊の本になってしまうくらいの分野です。
ヤメ大では効率よくエッセンスを押さえて、しかるべき姿勢をとれるようになっていただければ十分です。

相続を起こさないことはできなくても、備えることはできる



みなさん、今日の講義で少しは自分の亡きあとのことについて関心を持ってもらえるようになりましたか。

死というものは突然にやってくるかもしれません。避けようと思っても避けられるものではありません。
強制終了パターンの2つのうち、倒産は意識しておけば避けることができます。危なくなったときに、早めにリセットボタンを押して廃業に転じさせればいいのですから。

でも、会社のパイロットたる社長の死は、自分では避けられません。
それでも備えることはできます。そういった事態がおきたときてしまったときの準備しておくことはできるのです。

今日の講義はこれでおしまいです。次回はついに最終回。
長かったような、短かったような。
ここまできたら皆さんにお教えできることは、もうほとんどありません。


事務局からの連絡

①本日の宿題

「もし自分が死んでしまったとき、何が起きるか?」
こんなテーマで考えてみてください。
会社に起きること、家族に起きること。
また、起きる問題への対策も考えてみましょう。

前回の講義の進路相談に関する質問への回答も引き続き考えておいてください。

質問や提出は、ホームページの問い合わせフォームからお願いします。
入学金納付の有無にかかわらず、質問等は受け付けています。

 → 奥村のホームページ

②次回の講義

次回の講義は4月19日(金)の予定です。

③入学金の納付手続きについて

払っても、払わなくてもいい入学金(税込8万8000円)は随時受付中!!
ご納付は、リンク先のシステムで決済してください。

  → 入学金決済システムへ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?