見出し画像

第11回 社長のための進路相談

社長をヤメる大学の講義は、卒業式を入れて、あと3回となるはずです。
いやー、まだ終わっていませんが、それにしてもよくここまで続けてきました。自分で自分をほめてあげたいですね。

ここまで学び続けてきたみなさんも大変だったと思います。

そして、こんな孤独な取り組みを続けられた理由は、入学金を納めてくださった方がいたからです。心の支えになったというか、やらないといけない状況に良い意味で追い込まれました。まことにお金の効果は絶大です(笑) 
ありがとうございます!


社長退任に向けたビジョンを描く


さて、本日は普通の座学ではなく、このヤメ大が終わった後、皆さんがどのような計画を立て、どのように行動していくべきなのか、に着手してまいります。いわば進路相談の時間です。
引退にまつわるビジョンやイメージを描いていきましょう。

★社長ではなく、一人の人間として考えてみる

ある問題があるとき、それと同じレベルでものを考えていてもその問題を解決することはできません。解決するためには、上のレベルに登ってみる必要があるのです。

事業承継問題などの会社の着地についても同様です。会社の中に浸りきって「どうしよう?」といくら悩んでも答えは出ません。上のレベルにあがりましょう。

では、上のレベルとはどのようなものか。
社長をヤメる大学では、あなたの人生をどうするか?という視点に登ることを推奨します。

「会社をどうしなければいけないか」と、あくまで会社内部の人間としてものを考えるのではありません。
「自分の人生はどうあるべきか。どうしたいか」と、まずは一人の人間として考えていただきたいのです。それが見えれば、思考の軸ができ、会社の着地問題についても答えが導きだせるようになります。


問1.いつまで社長を続けるか?


みなさんは、私からの質問に答えながら、今後のイメージを作っていってください。
まずはこの質問です。

制限時間を作ってしまうことが有効です。締め切りがなければ、いつまでも行動を起こせません。

私たちが生きていれば、その間に何が起きるかわかりません。世の中のことをコントロールすることはできないのです。そして自分自身についてすら、私たちはほぼコントロールができません。

たくさんの社長の晩年を見ていると、急にパフォーマンスの落ち込みがやってくるようです。その原因は人によってさまざまでしょう。

とにかく、高齢になると急激に仕事のパフォーマンスが衰える時がくるのは間違いありません。
厄介なのは、それがいつ来るかがわからないことです。早い人もいれば、かなりの高齢になってもハッキリした頭脳で経営をこなす社長もいるのが現実です。

この事象に対処する方法は、締め切りを設定することだと考えます。時間はわずかしかないコントロール可能な対象なのです。
パフォーマンスが落ち込んでからどうにかしようとしたところで手遅れです。社長を辞める時期をあらかじめ想定して、それに合わせて準備を進めましょう。

Q.あなたは、いつまで社長を続けますか?



問2.社長をやめた後、何をするか?


続いて、会社の社長をやめめた後に何をするかです。
社長をやめたって、人生が終わるわけではありません。

あなたはそのとき、何をしたいでしょうか。
会社経営という重責から解放されたあなたは、何をしますか。

こう問われてすぐに答えが出ない方も多いと思います。しかし、できるだけ見つけておいて欲しいところです。ここでは、とりあえずの仮置きでもいいので、何か決めておきましょう。

これまで見てきた社長たちを振り返ると、やはり、社長をやめた後にやることを決めている人は、決断がスパッとできるし、前に進む力がありました。
逆に「やめたときのことは、やめてから考える」とか「今は考える余裕がない」なんて言っていた社長は、うまく辞められなかったり、時間を無駄にしてしまったりしがちでした。

人間には生きがいが大切です。ある哲学者に言わせると「人間の幸せとは何を持っているかではなく、何かを目指しているという姿勢でいること」だそうです。

ヤメ大の最大の目的は、社長の人生をよくすること、納得の人生を過ごすことです。だから、最後に会社をどう処理するかと同等、いや、それ以上に、会社をやめた後の社長の人生がどうなるかが大切です。

会社を手放すこと、社長をやめることには喪失が伴います。精神的な痛みも発生するのが当然でしょう。その痛みを受け入れられなければ、行動は起こせません。

なんとか痛みを受け入れやすくすることはできないのでしょうか。
次にやることを待たせておくことが、有効な方法となります。

ただ社長をやめるだけだと、失う、奪われるというマイナスの感覚だけになってしまいます。痛みが強くなってしまします。
しかし、やめた後に自分を待ってくれているものがあれば、次に切り換えるという感覚になれるはずです。社長をやめることを、“終着駅”ではなく、“乗り換え”にしたいのです。そのようなシチュエーションを創っていくことは、社長をやめることによる心理的抵抗と折り合いをつけるコツとなります。

Q.あなたは社長をやめた後、何をしますか?

問3.どんな風に会社を着地させたいか?


個人的なことを先に考えたことで、あなたの「自分は会社の社長である」という感覚が弱まったことでしょう。ここが大事です。

そのうえで、ようやく会社のことを考えることにします。

あなたは、会社をどんな風に着地させたいですか。
あなたの素直な価値観に従って答えてください。

自ら着地する場合には、3つの型があると学びました。廃業、社内承継、M&Aです。そのうちどれを、どんなパターンで実現したいですか。たとえば「会社を従業員の○○さんに引き継ぐことで社内承継を実現したい」とかです。

理想の会社の着地を実施したときの様子はどんな感じですか?
イメージしてください。

そのときのあなたの様子は?
相手がいるならその人の様子は?
従業員たちの様子は?  
周辺のことまでイメージを膨らませてみましょう。

あくまであなた個人の勝手な価値観に従ってください。本音を語ってください。
まだ、できる、できないを、今は考える必要はありません。「こうしたい!」という無邪気さを大切にしましょう。


Q.あなたは、どんな風に会社を着地させたいか?


問4.社長でいる間にかなえたいことは?
 (退職金はいくら欲しいか?)


社長をやっている間に、どうしてもかなえたいことはありませんか。

たとえば、何かの商品開発をしている方が、「社長をやめるまでになんとか発売したい」とかです。これができるまでは、引退するわけにはいかないというものです。

学長の私の例をあげれば、これまでの体験をまとめ、社長のおわりというものを体系化したいという希望があります。(ヤメ大もその一環です) やはり、この仕事を成就させないで終わりたくはありません。

みなさんにも、ここでおえることになったら心残りとなってしまうものが、きっとあることでしょう。それを意識的にあぶりだすことで、悔いを残さないで済むようになります。

つづいて「最後に会社から引き出すお金」のことにも目を向けてみましょう。

退職金であれ、会社をM&Aで売ってお金にするのであれ、希望する金額があるのならば、そのための準備をしなければいけません。

ちなみに、今すぐ社長をやめたとしたら、あなたはどれくらいの退職金等を手にできるか把握していますか。この金額は、会社の余剰価値だと思っていただければいいでしょう。

では、あなたの会社の余剰価値はいくらか?
会社の価値とは、資本金や、株式の額面ではありません。それらは会社がはじまったときの元手の金額であって、現在の価値を表すものではないためです。

では、何をもって会社の価値とすべきか。
勘の良い方は、お分かりかもしれません。「清算価値」です。廃業論の講義で学びましたね。清算価値の額が会社の価値であり、それを発行済み株式総数で割ったものが、一株あたりの価値です。

清算価値こそが、いま現在、確実になっている価値です。
もちろんM&Aで最終的に会社を着地させた場合は、価値はもっと増える可能性があります。でも、そんなのはまだ絵にかいた餅に過ぎません。今は確実な数字をあてにすべきです。このあたりの話が理解できなかった方は、ぜひ、廃業論の講義を復習しておいてください。

現在すでにおさえている退職金等の額をふまえ、あなたが社長をやめるときにいくら欲しいかも考えてみてください。

この金額を導きだすためには、個人で持っている資産や、生活費などもチェックしないといけない場合もあるでしょう。必要となる老後資金も考えてみてください。

Q.あなたが、社長をやめるまでに成し遂げたいことは?
Q.あなたは退職金等として、社長をやめるときにいくらくらい欲しいか?



問5.必要条件はなにか?


さて、ここまでの問いに対する答えを振り返ってみてください。
あなたの価値観や希望から、社長をやめる時期、やめ方、会社の着地方法などを考えていただきました。基本的には、あなたが望むビジョンであるはずです。

では、このビジョンを実現するために必要となる条件は、何でしょうか。


ビジョンを実現するのに必要となる「すべて」の条件を考えだしてください。必要条件をすべて考え尽くすことが重要です。

たしか、経営の神様と称されるドラッカーも言っていました。必要条件をすべて考えよ、と。しかし、どんなに考え尽くしたと思っても、考えていなかった状況は出現してしまうとも彼は述べています。それでもすべての必要条件を考えようとする姿勢が、現実への対応力を高めてくれるそうです。

私たちは何かを実現したいとき、常に、そのための必要条件を考える癖をつけておけるといいのでしょう。
希望だけを頭のなかでぼんやりと描くのではなく、何がそのために必要か。逆に言えば、何が欠けたらそれは達成できないのか。考察の漏れを防止するだけでなく、こう考えることで、行動が生まれます。結局、行動に落とし込まなければ、現実は何も変わらないのです。

たとえば、「社長を引退したあとに、配偶者と一緒に世界中を旅する」というビジョンをあなたは描いていたとしましょう。
本当にそれは実現できますか。

金さえあれば、実現できると軽く考えているかもしれません。でも、はたしてそうでしょうか。

あなたが健康でなければ海外旅行にはいけません。もちろん会社を着地させることができなければ、そんな時間もないでしょう。
また、あなたの配偶者がそんなことを望んでいないかもしれません。

「これまで散々家庭をほったらかしていたのに、なにをいまさら。旅行でずっと一緒にいなきゃいけないなんて苦痛でしかない」
これが配偶者の本音かもしれません。
(よくある残念なパターンです)

引退したら海外旅行と軽く考えがちですが、それですら金と健康と時間と配偶者の同意までもが必要条件になってくるのです。
希望的観測をせず、ものごとを楽観視せず、冷静に必要条件をあげてみてください。


釈迦に説法かもしれませんが、必要条件をピックアップするにおいて、受け身で、誰かに教えてもらえるのを待つような姿勢ではいけません。
自ら能動的に探ることに意味があります。

かつてセミナーでこの手の話をしたときに、「その必要条件には、何があるのか具体的に教えてくれ」と言われたことがありました。この人は中小企業診断士で、社長に経営指導をする立場の人でした。

なぜ、そのようなリクエストをするのか聞いてみたところ「社長たちは自分で考えられないため、指導者が教えなければいけないから」と答えました。

この人は、なんでも手取り足取り教えてあげないといけないという、常識に囚われてしまっていました。もちろんそれは間違いです。
ただ、そう思い込むことになった原因は、なんでも教えてもらって当然という姿勢の社長がたくさんいたことによるのでしょう。

よろしくない関係です。
自分から能動的に動かなければ、自分の実にはなりません。必要な時には自分の労力だって、お金だって、投じなければいけないのです。

もし本当に「どんな必要条件があるのか自分には見当もつかない」というならば、積極的に相談できそうな人を探してもいいわけです。
まずは自分で考える。自分から動く。このスタンスは大切です。


Q.ビジョンを実現するすべての必要条件はなにか?


問6.何を、いつやるか?


必要条件をあげたら、それを満たすための具体的な行動を考えてみてください。
現実的に、やるのです。

また、いつやるか、まで落とし込まなければ、実現はほぼできません。

何かを変えるためには、行動を変えなければいけません。行動を変えるということは、時間の使い方を変えるということです。

ところが時間は足りません。私たちの時間は、すでに満たされてしまっているはずです。根性や気合でどうにかなるわけでもありません。

本当に優先すべきことをするために、時間を捻出しなければいけないことでしょう。そのためには、何かをやめたり、手放したりする必要もあるはずです。

Q.必要条件を満たすために、あなたはどんな行動をするか?
Q.それをいつやるか。また、どうやってそれをやる時間を作るか?


そもそも、社長をやめなければいけないのか?

社長をヤメるためのビジョンづくりのための問いを発してきました。
ただ、ここで根本の話に立ち返りたいと思います。

そもそも、社長をやめなければいけないのでしょうか。

途中で社長をやめることなんて考えずに、いけるところまでいく、という考え方もあることでしょう。生涯現役というやつです。

今日の講義のラストにこのあたりを考えてみましょう。

世間は「社長は、早く会社を後進に譲ってやめるべき」という論調です。
これに対して、私の考えは「外野は黙っていろ!」です。

社長が社長をやめても、やめなくても、どっちだっていいと思っています。すべての責任は社長本人が負うのですし、社長は自分の人生をかけて仕事をしているのだから、外野にとやかく言われる筋合いはありません。

私は、自分は安全なところに立って、正論を声高に語る奴らが大っ嫌いです。

あなた本位でいい。
あなたが心底社長を続けたくて、やめたらもう生きがいをなくして不幸になってしまうというのであれば、死ぬまで社長を続けたっていいと思います。

ただし、忠告しておきたいことがあります。

まず、生涯現役社長をまっとうすることは、相当に難しいことです。綱渡りの曲芸をするような感じがあります。

繰り返しになりますが、年齢を重ねれば仕事のパフォーマンスはどこかで落ちます。これまで通りの仕事はできません。社長には代わりがいないのだから、それでもどうにか会社を操縦しなければいけません。

社長のパフォーマンスが落ちれば、業績も悪化します。そのときに「やっぱり社長をやめたい」となっても、有効な手がほぼ残されていないのが普通です。後になって「もっと前に手を引いておけばよかった」と後悔しても後の祭り。生涯現役の戦略は、なかなか修正ができないのです。このあたりは覚悟してください。


★生涯現役と備えをしないは、同義にあらず


死ぬまで社長主義を貫く以上、自分が死去した時の備えだけはしておくことをお願いします。

備えがないまま社長が死去してしまうと、会社が大混乱に陥るし、文字通り、家族や従業員を路頭に迷わせることになってしまうかもしれません。

私は一人で仕事をしていますが、私が急に死んだら、お客様に迷惑をかけてしまいます。そこで、もしもの時が起きたら、私の代わりに遺言執行者になってもらうよう他の司法書士と約束をしたりしています。
生涯現役を貫くからには、ご自身が死去したときの最低限の備えは施しておいて欲しいところです。生涯現役という言葉を、何の備えもしない言い訳に使ってはいけません。

★社長にしか味わえない充足感がある


社長をやめるも、やめないも、あなたの自由です。ご自身の価値観と責任で決めてください。

ただ、もし私が、どちらがいいのか問われたら、私は自らやめる道を推奨します。

自分でゴールを設定し、やるべきことをやり切った達成感。
従業員や顧客、資金繰り……こんな背負ってきた重たい荷を背中から降ろせる解放感。

それらを感じられるって、本当にすごい幸せなことだと思います。これ以上のものはあるでしょうか。社長をがんばってきたあなただけのご褒美です。
この醍醐味をぜひ味わっていただきたい。そのためには自分でゴールを創らなければなりません。

これまでのクライアントの社長さんたちも、やり切った後、みんないい顔していました。
「自分で自分に、よくやったとほめてあげたいよ」
「俺、はじめて社長らしい仕事ができたよ」
深く充足した喜びが顔に出ていらっしゃいました。

今回の講義はいかがでしたか。
質問に対する答えは、よく、じっくり考えてください。

おそらくヤメ大は、あと2回で終わります。最終回まで2週間猶予があります。
たっぷり時間を使って考えていただけるといいでしょう。その価値があるテーマです。

一人ではなく、誰かと話をしながら考えるのもいいかもしれません。ご希望あれば、私が相談に乗らせていただきます。

来週は相続の話をする予定です。
では来週また会いましょう。


①本日の宿題

講義中に出された問いに対する自分の答えを考えてみてください。

質問や相談も受け付けております。
奥村のホームページの問い合わせフォームからお願いします。

なお、入学金の納付をしていないと、奥村に質問や相談ができないルールにはなっていません。
お気軽にどうぞ。

 → 奥村のホームページ

②次回の講義

次回の講義は4月12日(金)の予定です。

③入学金の納付手続きについて

払っても、払わなくてもいい入学金(税込8万8000円)は随時受付中!!
ご納付は、リンク先のシステムで決済してください。

  → 入学金決済システムへ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?