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第4回 会社の清算を見すえれば経営と人生の質が変わる【廃業論】


学生のみなさん、おはようございます。
前回までで、皆さんに社長をヤメる大学で学んでいただきたいものの全体像をお見せしました。
とても大切なはずなんですが、ちまたでは語られない内容なんですね。みなさん視野が狭いし、自分の仕事になるところ(稼げるところ)しか興味がありません。だから一番儲かる「会社はM&Aで売りましょう」というメッセージばかりが喧伝されたりします。
我らヤメ大の学びは王道を歩んでいきますよ!
いつか社長をヤメるときは絶対にやってくる。そのおわりをGOODなものにしようではありませんか。良きおわりを知ることで、経営や人生のかじ取りまでうまくなるという効果があります。今日のテーマである廃業論なんて、まさにそれです。

なお、このヤメ大の講義はいつまで続くのかと気になっている方もいらっしゃるかもしれません。語りたいテーマをざっと考えてみたのですが、全10回以上になりそうです。とはいえ、学長のモチベーション次第では、長くなることも短くなることもあるでしょう。


いつでも、自力で、確実にできる廃業



4回目となる今回からは各論に進みます。まず、会社の着地のツールである廃業、社内承継、M&Aを学んでいただきます。。
ここでご注意いただきたいことは、学びのための学びにしないことです。あくまで実践のために学んでください。学んだことを行動につなげてください。パイロットたる皆さんが、会社を上手に着地させるための方法論を、リアリティと切実さをもって学びましょう。

今回は廃業論です。
世間からの廃業への評価やイメージとは異なり、ヤメ大ではこの廃業をとても重視しています。
野球でいえば、どんな時でも確実に送りバンドを決めてくれるようないぶし銀な存在です。目立たないけど、確実に仕事をこなしてくれるから頼れるヤツなのです。
廃業を、「いつでも」、「自力で」、「確実に実現できる」会社の着地方法と定義します。こんな廃業を理解し、使いこなせるようになれば、会社の着地のレベルは爆上がりです。会社の着地パターンの各論のスタートにふさわしい学びの対象でしょう。

ところが、ちまたで会社の着地といえば、事業承継やM&Aが基本であり、また当然のように思われています。これは1000社以上の着地現場を支援してきた私からすると違和感しかありません。


仕事や会社は他人に継げるようにできていない


本来、人の仕事というものは誰かに引き継げるものではありません。
たとえば学長である奥村聡の仕事は、私が試行錯誤し、腕を磨いて、時間をかけて創られてきたものです。これを「はい、あげる」と言って他人に譲ることはできません。あなただって日々、他人にはまねできない仕事、自分だけの仕事を創ることを目指していませんか。
仕事は多くの部分で属人的なものです。中小企業の仕事となれば、大企業にくらべて、より社長の個性や能力に依存します。

基本的に、仕事というものは譲れるものではないと理解しておくべきです。そして、簡単には譲れないものである以上、自分で片づけることが前提になります。
自分が散らかしたものを自分で片づける。とても真っ当な話ではないでしょうか。その実現ツールが廃業ということになります。
世の中には、自分が散らかしたものを片付けようとさえしない社長がたくさんいます。


相手次第の着地方法はあてにできない


世間では会社の着地の基本とされる社内承継やM&Aは「相手がいてなんぼ」だという点も見逃せません。会社を継ぎたいと考える人間や、買いたいと思う会社がいてはじめて実現できるものなのです。
他者だよりのものを、よりどころにはできません。
社内承継やM&Aありきでものを考えていては痛い目にあいます。相手すらいないのに、結婚に囚われてしまっている人が目の前にいたら、「現実見ろ!」ってツッコミたくなりますよね? 同じことです。

廃業ならば、相手がいなくても、自力で実行できます。だから会社の着地の基本になり得るのです。確実に状況をリセットしてくれる手段です。
このように考えたら、少しは廃業に対するイメージが変わりませんか。


社長の心理的ストレスが大きい・・・


ただ、廃業を実行するのは難しいというのもまた事実です。いくら自分一人で、いつでもできるからって、それをやるのは簡単ではありません。過去から続く会社の足跡、顧客や取引先などとの関係性、それらを断ち切って終わらせるためには相当な覚悟がいります。
廃業は、意思決定者であり実行責任者である社長へのストレスが強いのです。

私の過去のお客様には、ずっと決断できない社長がいました。
状況やこれまでの経緯を考えたら、客観的には廃業しか道は残っていません。社長本人だってそんなことはわかっていたのでしょう。でもいつまでも、あと一歩が踏み切れないのでした。
結局、私のコーチングを1年近く受けて、ようやく廃業の決断ができました。終わった後には「しんどかったけど、スッキリした。なんだったら、もっと早く実行してもよかったよね」と苦笑いしていました。
廃業を決断できないままズルズル行ってしまい、傷口を広げてしまう社長がたくさんいるのも、このあたりの難しさが原因になっているケースは多いのでしょう。

廃業の決断に対して、周囲の理解がなかなか得られないこともストレスになります。
相談にやってきたある社長に、私は「廃業してもいいと思いますよ」と答えました。すると社長は涙を流しはじめました。「はじめて、廃業してもいいと言ってもらえた」と。
経営者の仲間や顧問税理士に相談しても、みなが「もっとがんばれ」や「廃業なんてもったいない」としか言わなかったそうです。誰も社長の気持ちをわかってくれなかったそうです。孤独だったのでしょう。

廃業を決断し、実施する段階になっても、やっぱり強いストレスが待っています。
一番の山場は、従業員に廃業の決定を告知し、会社を辞めてもらうときです。「廃業を伝える集会の前日は、不安や恐れで眠れなかった」なんて話は、経験した社長から何度も聞きました。これまで自分についてきてくれた人材を切るのは、社長だって悲痛なはずです。

会社を辞めさせるという意味合いでは、社長一人に対して、従業員は多数となるケースが普通です。たった一人で複数の人間と対峙しなければいけない社長が、不安になるのも当然です。
私が廃業のコンサルティングの仕事を請けたケースでは、できるだけ従業員告知の機会に立ち会うようにしてきましたが、本当にありがたがられます。社長にとっては唯一の味方であり、理解者というところなのでしょう。

コンサルタントとして、従業員を辞めさせることに付随する不安やストレスをいかに軽減させられるかいつも腐心しています。
廃業における社長の最大の敵はストレスです。山場を超えれば楽になるのですが、そこまでが辛い時間となります。

清算したらお金(借金)がいくら残るか?


話を進めます。
廃業をするとき、ものごとはどんな風に流れていくのでしょうか。

「うちの会社を廃業させる」と決めたら、どこかで新規の仕事を受注しないようにして、残務を処理します。
会社の資産は処分します。売れるものは売って、売れないものは捨てます。そして、手元に残ったお金で借金をはじめとする負債を支払います。
清算処理を進めて、もしお金が残っていたらそれらは株主に還元されます。
この作業が、いわゆる「清算」です。

廃業のざっくりとした流れをお話しましたが、注目は、負債を返済した後に残るお金がいくらになるか?でしょう。お金は残らず、むしろ負債が残る場合もあります。この結果が社長の運命を左右することになります。

もし会社を清算することになったら、はたしてお金がいくら残るのか(または負債がいくら残るのか?)。この考えに基づくシミュレーション結果を『清算価値』と言います。ここ超重要です。テストに出ます。

清算価値は、会社の決算書の中のバランスシート(貸借対照表)の純資産に近い概念です。純資産もバランスシートの資産から負債を引いた数値です。ただ違うのは、清算価値の場合、「会社をたたんだ時にどうなるか?」という修正が加えられる点にあります。

たとえば、バランスシートに載っている土地の評価。これが5,000万円だったとしても、それは帳簿上の価格(=簿価)に過ぎません。買った時の金額です。今の価値とは違うケースも多いでしょう。
それゆえ、清算価値を導き出すときは「これを本当に今売ったらいくらになるか?」で数字を修正するのです。値下がりしたため4,000万円に目減りしているかもしれません。であれば、簿価の5000万円を時価の4000万円に引き直します。
他にも、電話加入権が数十万円でバランスシートに計上されている会社もありますが、今となってはほぼ無価値の0円です。やはり時価の0円に修正です。
このような要領で、すべての資産を現実の価値に引き直します。

逆側の負債も調整が必要です。ただ、負債は簿価と時価が乖離しているケースはほぼないはずです。
ポイントは、バランスシートに計上されていない隠れ負債の存在です。帳簿には載っていないけれど、会社をたたむときには登場する負債があります。清算価値を知るためには、これらを顕在化させてなければいけません。
たとえば、店舗などの撤去費用や賃貸借契約の途中解除の違約金はどうでしょうか。また、従業員の退職金を積み立てていないのであれば、それも隠れ負債です。廃業時には通常、本来の退職金よりも多めに手当てを出すケースが多いので、そのお金も想定しておきたいところです。会社をたたむときにも何かと費用がかかります。

変化の時代の経営は清算価値をものさしにする


こんな作業をして、資産と負債の値を修正し、修正後の資産から負債を引いて出てきた数字が清算価値です。私からすると、会社経営で最も重要な数字です。
中小企業の社長さんは、自社の決算書すらちゃんと理解していない場合があります。年間の収支である損益計算書は見ていても、バランスシートとなるとまったく気にしていなかったり。でもこれ、本当は間違っています。会社実力はバランスシートにこそ描かれているのであり、銀行員なども、金を貸すか貸さないかはここに注目します。

ただし、繰り返しますが、バランスシートの数値はあくまで簿価です。だから、これを時価に引き直しておいたほうが、より現実的です。そこで清算価値なのです。

戦に臨むならば、退路を常に確保し、いつでも撤退できるようにしておくべきです。この退路が、会社経営では廃業です。そして、廃業するか否かの判断材料として清算価値をモニタリングし続けていただきたいのです。
撤退すべきタイミングは急にやってきます。特に、現代のように変化の大きな時代ではなおさらです。

清算価値を押さえていれば、落ち着いて判断ができるし、判断を誤りません。
会社の着地が視野に入ってきているのであれば、自社の清算価値を把握しておくことは必須と言えます。
今日は、清算価値を計算することを宿題としましょう。

廃業は計画的に!



廃業を決断したら、しっかり戦略を練ってから実行することが大切です。
過去に会ったことがあります。思い付きで廃業を決めて、計画性なく周囲に宣言してしまった社長と。

従業員は、廃業すると聞かされた翌日から会社に来なくなりました。
一方、廃業を告げられた顧客は「商品在庫に穴をあけてはいけない」と、いつもより大量の発注をしてきました。取引契約書があるので、顧客からの注文には答えなければいけません。
でも、それを処理するスタッフはいない・・・。どうにもなりません。

私は、知り合いの税理士からの依頼で相談に乗ってあげることにしましたが、もう手のつけようがありませんでした。ここまで事態を悪化させてしまうと、できることはほとんどありません。
当の社長は錯乱状態でした。テンパっちゃって、発言は支離滅裂。私が言うことなんてちっとも聞こうとしません。常に瞳孔が開きっぱなしです。「目が血走る」なんて表現がありますが、比喩でなくて、人は本当に目が血走るんだと変な感心をしてしまいました。

本当に計画が大切です。誰から告知するか。どのように伝えるか、などです。下手を踏むとすべてが崩壊してしまいます。
具体的にどのように廃業計画を立てればいいのか。そこまでの深い話には、ヤメ大では踏み込みません。お届けする情報量が膨大になってしまい、重要な話が埋もれてしまう恐れがあります。

廃業計画の立て方はここで学ばなくとも、実際に廃業をすることを決めてから検討してもらえれば間に合います。ヤメ大での学びとしては、場当たり的な対応はNG、しっかり計画を練ってから廃業を実行すること、とだけ押さえておいてください。
少々宣伝になってしまいますが、廃業の具体的なやり方については、奥村が教材DVDを用意もしています。必要となったときにご覧いただけるとよいでしょう。

 → DVD『廃業を学べば、中小企業経営者は自由を手にできる』


事業譲渡と清算を組合せば楽チン



廃業では手元の資産を換金して負債を返済するという話はすでにしました。そのとき『事業譲渡』が便利です。
事業譲渡では、資産と負債、顧客や従業員などをひとまとめにして他社に譲ります。
これは、資産をひとつひとつ売却しなければならない手間が無くなることを意味します。従業員の解雇においては、雇用を引き継げるので、辞めさせるための心理的負担や退職手当等のコスト増から解放されることでもあります。
「良い部分だけ継げるならば、ぜひ欲しい」という同業他社ならば、きっといることでしょう。借金など、会社全体を引き継ぐことはしたくないけれど、良いところだけを部分的にならば、という発想です。

これは使わない手はありません。実際、私が手掛ける廃業案件では、事業譲渡もセットで併用するケースの方が多いところです。シンプルに廃業をするというケースは少なく、顧客や従業員などを他社に継がせて、残った部分だけを清算するという感じです。

事業譲渡は、ある種のM&Aです。会社をまるごと売るのではく、会社の中にある事業だけを売るというM&Aです。
面白くないですか。廃業という会社を終わらせる取り組みと、価値をつないで残していこうとするM&A的な取り組みが両立するのです。ふつう相反する選択肢だと思われていた2つが、本当は仲良しなのです。

だから、廃業を恐れる必要はないし、悪者扱いする必要はありません。たとえ廃業に舵をとったとしても、普通にやれば、残るべきところは世の中に残るのです。廃業+事業譲渡で、悪い部分は捨てられ、良い部分が残る。そんな取捨選択、断捨離が行われるのです。
地域経済という単位で見れば、風通しもよくなり、新陳代謝も進みます。
メリットだらけではないでしょうか。メディアなどは、条件反射で「廃業はダメなもの」とレッテルを貼りますが、ちゃんと現場を見ればただの悪いことではないことがわかります。


傷口をひらかないために撤退ラインを引いておく



今日の講義の最後に、廃業の知識を今の経営に活かすための話をしましょう。

「どういう状況になったら廃業をするか」を、社長はあらかじめ決めておくといいでしょう。撤退ラインを先に引いておく、という話です。

人間、状況が悪くなって追い詰められ、苦しくなってからでは、適切な判断ができないものです。
撤退ラインは、社長の年齢などの「時間的要因」がひとつ。また、預金残高や従業員の欠員などの「内部環境的な要因」がひとつ。これらの2つの要因から「こういう条件になったらリセットする(=廃業する)と決めておくことがお勧めです。

清算価値がマイナスだったら?


清算価値の話はすでにしましたが、もし清算価値がマイナスだったらどうなるのかが気になる方もいらっしゃるかもしれません。
実際に廃業したら借金をはじめとする負債が残ることになります。借金については、社長が個人保証をしているケースが多いので、会社で支払えない以上、社長の個人資産を費やしてでも支払わなければいけません。もちろん、社長の個人資産を全部使っても、負債を支払いきれないケースは多いでしょう。

さて、どうするか。
ひとつは、経営的努力を積み重ねて、清算価値をプラスに転じるようにすることです。収支が赤字だった会社を黒字化させ、利益を出す。この積み重ねで、清算価値のマイナスを解消する。それができれば、負債を残さないで廃業することができます。清算価値を計器とする意義がここにあるわけです。利益が出るようになれば、M&Aという道も拓けてくることでしょう。


もうひとつは、いつ廃業しても大丈夫なように備えておくという発想です。

いつか廃業をしないといけないかもしれません。その時の清算価値がマイナスだったら、個人に請求が及ぶ可能性があります。ここまでは致し方ありません。
それでも、守りを固めておくことはできます。退路を作っておくことはできるのです。

たとえば社長個人にめぼしい財産が無ければ、債権者としてはどうすることもできないわけです。たとえ裁判を起こしたって、無いところから金は取れません。
であれば、いつか廃業し、負債が残ってしまう事態を想定して、自身の状況を整えておくという発想ができるはずです。ここが倒産と大きく違う点です。時間も状況もコントロールできる余地が廃業にはあるのです。

たとえば、社長が社長名義の自宅を持ったまま何もしないでいたら、最後は債権者に競売にかけられることになるかもしれません。
でも、こんな状況を想定し、あらかじめ他者に(たとえば配偶者)の名義で家を持つようにしておけば、自宅に対して債権者は原則手出しができないわけです。こんなイメージで準備しておけばいいでしょう。私が言う、退路を開拓しておく、という意味です。

もちろん、思い付きで名義を変えればいいという単純な話ではありません。
どのような法律的な原因で名義を変えるのか、いつ実施するのかといった論点はあります。資産の移動には、税金への用心も必要です。
借金が払えなくなる直前に焦って他社に贈与をしたとして、そんなの債権者は許さないでしょう。緻密な計画をたてて、前もって上手に実施する必要があります。

じっくり落ち着いて作戦を練らなければいけません。
焦って目の前の解決策っぽいものに手を出さないこと。これ、超大切です。みんなやっちゃうのです。苦しいときに、転がってきたおいしそうな話に飛びついて、後で泣きを見ることになって……。
資金繰りが苦しくなった社長が、どこかから降ってわいたカラオケボックス建設の話に熱狂し、結局すべてを失ったケースがありました。
一発逆転を夢見ちゃうんですね。こういうのは攻めているようで、現実を見ることから逃げているだけなんです。
苦しいときほど「これだ!」と思っても反射的に動いてはいけません。 

あと、負債が残ったとして、必ずしも破産になるわけではないという点もお伝えしておきます。実際、とても返済しきれない借金を背負っているけれど、破産はしていないという元社長はいます。この点は後日の講義でもお話しするかもしれません。


以上、廃業論でした。
廃業というのは、社長が責任をもって自分の手で片づけを行うことです。廃業を体験した社長のなかには「自分、はじめて社長らしい仕事をした気がする」なんて方もいました。わかります。それくらい、重大で責任のある役割ですし、本当に社長以外の人間にはできない仕事です。

ではまた次回の講義でお会いしましょう。


事務局からの連絡


①今回の宿題

自社の決算書のバランスシートを使って、清算価値を算出してください。
なお時価への引き直しなどについては、ざっくりとした数字で十分です。
大まかな数字を押さえておくことが大切です。

②入学金の納付手続きについて

入学金は随時受けつけています。
入学金というか、ヤメ大への寄付であり、奥村への応援なのですが・・・
なんと二人目の入学金を納付してくださった名誉学生が誕生しています!

納付は、リンク先のシステムで決済してください。
  → 入学金決済システムへ

③次回の講義

次回も来週の金曜日にアップする予定です。


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