片思いには不確定な希望があった

私は過去、あらゆる男に惹かれた。
若さゆえの性欲か、眩しすぎる魅力に惹かれていたのか、ライクとラブの違いも分からず、全てを欲しがった。

いちばん古く美しかった思い出は、セーラー服を着ていた頃に隣の席だった彼。
形式の挨拶を、教卓に向かい起立した時、ふと目が合ったあの瞬間。
私より背の高い彼の視線と、私の視線と、奥行きのない背景と化した橙色の夕暮。
心が高鳴った。
絵画でだって表せない美しさだと思った。
私は彼に思いを告げることはなく、だがこんなに昔の一瞬を今でも大事にしている。

まだ誰とも付き合ったことのない頃から私は恋に大きな期待を抱いていた。
恋が叶うということも良く分からぬまま、魔法のような、奇跡のような力で恋が叶えば人生の全ては幸せになると思っていた。

私は愛に飢えていた。
両親は健在だが人生ではじめて受ける愛を覚えておらず、物心がついた時には夫婦は冷め切っていた。
母親の吐く他者への愛は偽善のように聞こえた。
母親からの、私への愛の言葉は記憶がない。
覚えているのは「貴方の為を思って」命令、罵声、無視、強要。ああ、文章が汚くなる。

恋と愛の違いはおろか、愛の求め方も分からなかった。
無いものは求めることすら難しい。
恋は、片思いなら1人ででも存在していた。

今思えば私は片思いの対象に人としての憧れを抱いていた。
男になってその人ととって変わりたかった訳でなく、その人の彼女にふさわしい人になることを夢見ていた。
「付き合う」ということをよく知らなかった時は、付き合えれば私は素敵な人間になれると思っていた。

御伽話のような妄想で私の脳内はいっぱいだった。
さながらシンデレラのように王子様に見初められ、薔薇色の人生が始まるというもの。

もしもあの時、何かの拍子で彼氏が出来ていたら、即座に蛙化現象を起こしていたのだろうな、と思う。
私が知っている片思いの彼のことは、外見と声くらいで後は全部妄想で作り上げたものだったのだから。

愛を知らない。正確には他者との関わりを知らなかった。

これは親にもクラスメイトにも監視されているような気持ちで生活していた頃の懐かしい話。

家を出て母親にブスだと言われていた顔の価値を、そして女の身体の価値を知るようになってからの話はまたいつか。

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