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二つの「ブラックアウト」〜3.5 Cody・Lee(李) × ASIAN KUNG-FU GENERATION 『HIGH FIVE 2023』@ Zepp Nagoya

昨年末にCody・Lee(李)とアジカンの対バンが発表され、その時はその組み合わせをかなり意外に思った。李の高橋響(Vo/Gt)のコメントにあった、高校1年生の時に作った「ブラックアウト」を真似て作った曲を作ったというのもなかなか想像できない。李といえばどちらかといえば、フジファブリックやandymoriを影響源とし、映画やお笑いなどカルチャー愛に溢れた青春性を強みとしているバンドだと思っているので、アジカンとはかなり異なる位置付けのバンドとして聴いていた。ところがいざ足を運んで観てみると、今までにない感慨が押し寄せるドラマチックな2時間をくれた。


18:00- ASIAN KUNG-FU GENERATION

アジカンはこの日が2023年初めてのライブ。開幕は対バンやフェスでは馴染み深い「Re:Re:」「リライト」という鉄板のツカミで、そこに「Easter/復活祭」で続くともう感嘆しかない。太文字のロックがこちらに迫ってくるような圧巻の数分間だったわけだが、いつになく鬼気迫るように感じたのはあながち間違いではなかった。最初のMCで語られたのは、ここ2週間で亡くなった同志のミュージシャンたちについて。ライブを通し「ぶっ生き返す」感覚になったと語る後藤正文(Vo/Gt)から放たれた「少しでも良いなって思える夜にしましょう」という言葉は自分自身に言い聞かせているように聞こえた。


今世の課題は来世に持ち越し、という仏教の教えを語った後で聴く「宿縁」はこの曲の持つ緊張感を際立たせていた。シングルとしては地味めな曲だなと思っていたのだが、ライブ初披露のこの日、曲に込められたジリジリと心を焦がすような怒りと苦しさの先にあるカタルシスを知ることができた。その後で大歓声に迎えられた「ソラニン」がひときわ優しく響き渡る。浅野いにおの言葉を背負う青春の痛み。アジカンの中では李のテイストに最も近い曲だが、この曲でもやはり生と死の容赦ない移ろいが描かれる。アジカンは常にこの世の際で死を想い、生を抱きしめる歌を歌ってきたのだと思った。


ここで「ブラックアウト」が久しぶりに演奏された。2006年の『ファンクラブ』収録曲で、最近では若林正恭がこの曲の“反復されるリフ”からオードリーの漫才のテンポのヒントを得たというエピソードも語っていたが、この点滅のようなリフはこの日の流れで聴くと、ぐるぐると堂々巡りする思考のメタファーとして聴こえる。温度感を失う情報化社会、そこで目撃する《灯火が此処で静かに消える》という光景。反復を抜けエモーショナルなサビに抜けるあの開放感。李からのリクエストがなければセトリに入ることもなかったはずだが、この日演奏することに特別な意味が含まれることになった。


そこに続くのが同じ『ファンクラブ』から「ブルートレイン」だったのも意味深だ。緊迫感のあるセッションから疾走するように駆けていくこの曲は、狂おしいほどに“生”にしがみつこうとする歌だからだ。そんな切実でシリアスな流れを締めくくるのが「転がる岩、君に朝が降る」だったことはあまりにも美しかった。この曲は年末年始にかけて新たな代表曲にまで育ったわけだが、観客の期待に応える意味でも、そしてこの日鳴らされるという意味でも完璧だった。心を丸裸にし、素のままで歌うことでしかこの世界と対峙できない。その決意を後輩バンドの前で新たにする姿はとてつもなく眩しい。


最後はゴッチがハンドマイクに持ち変え、最新アルバム『プラネットフォークス』のクロージングナンバー「Be Alright」を歌う。ステージ上を練り歩き、優しくシンガロングに誘うゴッチはライブを通して息を吹き返した、というに相応しかった。この日のアジカンはじっくりと自分達自身をケアをしていく姿を素晴らしいライブとして届けてくれていたと思う。そんな時間が若いバンドに呼ばれた場所で成立していたことも意義深い。先輩として風格を見せつける、というよりも音楽を鳴らすことを生き甲斐とする同志としてかけがえのない時間を共有するような50分だった。

<setlist>
1.Re:Re:
2.リライト
3.Easter/復活祭
-MC-
4.宿縁
5.ソラニン
-MC-
6.ブラックアウト
7.ブルートレイン
8.転がる岩、君に朝が降る
9.Be Alright


19:10- Cody・Lee (李)

Cody・Lee(李)は幕開けから「愛してますっ!」を軽やかに鳴らし、先ほどまでの空気を一変させていく。恋と青春と生活の風景。具象的で、ささやかで、恥ずかしくなるくらいの甘酸っぱさをバンドの持ち味に、迷いなく歌を奏でていることが伝わってくる。どたどたと突っ走っていくニューウェイブパンク「W.A.N.」、オリエンタルなギターがギラつく「悶々」を続け、個性の色濃いアッパーナンバーばかり。こうやって聴いてみると、アジカン直系というよりは雑多に様々な音楽を消化してきた貪欲さを感じる。そしてすっかりZeppを沸かせるバンドとしての気風を携え始めている、と強く感じた。

MCでは高橋が高校時代、2015年の『Wonder Future』ツアーに行ったこと、そしてニシマケイ(Ba)は2012年の『ランドマーク』ツアーに行ったこと(高橋曰く「めっちゃ良いツアー」、私もそう思います)を語り、感慨を溢れさせていた。そしてこの2人は岩手の出身で、東日本大震災以降アジカンが頻繁に東北を訪れる機会を楽しんでいたとのことだった。何だか、不思議な気分になる。彼らはあの日を生き抜いた東北の子供たちで、アジカンの音楽とともに育ち、そして音楽を鳴らす道を選んだのか、と。絶え間ない音楽の連なりをゴッチは大切にしているが、ここに連綿と繋がる意思があると思った。


このMCに続くのが、銭湯と君への愛を沸かせる「DANCE風呂a!」なのもとても良い。こんな、李しか作れないようなカルチュアルなダンスチューンを思い出話の後に持ってくるって、何よりも今を最も肯定している姿だろう。サマーアンセムとなった「異星人と熱帯夜」もメロウに小躍りを誘ってくる。季節感と瑞々しい恋慕が零れる、暮らしの歌たち。もしかすると、李の曲で描かれている生活にはアジカンが溶け込んでいるのかもしれない、と思った。昨夏観た、先輩と対峙するベボベとは違い、暮らしの中に当たり前にあったアジカンと対峙しているという事実がこの夜を特別にしていたのだ。

ここで、高橋が大好きだというアジカンの「ブラックアウト」のカバーを披露。歌はかなり若々しいが、演奏は原曲に入っているアコギの音も尾崎リノ(Vo/Gt)が再現しておりかなり忠実なアレンジでアジカン愛を捧げていた。ここで驚いたのは、サビの歌詞にある《灯火》を《悲しみ》に変えていたことだ。単なる歌い間違いなのかもしれないが、サビが《今悲しみが此処で静かに消えるから/君が確かめて》と変わり、意味が丸ごと反転していたのだ。高橋にとっては中退した高校時代の思い出である1曲に悲しみの浄化を託す、そんな想いを強く感じた。偶然なのかもしれないが、そう思わせてくれた。


間髪入れずにアッパーナンバー「我你」で、自分たちのオリジナリティを叩きつけたのも素晴らしかった。ひとしきり盛り上げ尽くした後、「世田谷代田」で一気に感傷を募らせていく流れも李らしさだろう。ひたひたにしみいる中、ヘヴィなロックバラード「LOVE SONG」が轟く。李は、愛する君との暮らしを最重要事項として歌い続けるバンドだ。その純粋な表現欲求が、今を生きる若者たちの生活を彩り、そして大人たちの追憶をくすぐっていきながら、多くの人の心に届いているのだろう。言葉にならない想いを溢れさせる最後の猛烈な合奏は、強烈な生の実感を浴びることができた。

ラストは「初恋・愛情・好き・ラヴ・ゾッコン・ダイバー・ロマンス・君に夢中!!」、そしてアンコールでは「When I was Cityboy」とどこまでも突っ走っていくようなナンバーで締め括られた。「When I was〜」の劇中の語りでは、”君に借りたアジカンのアルバム“について思いを溢れさせ、あの頃を思い出しながら、今ここに居る誇りを爆発させるようなかけがえのない瞬間が生み出されていた。本編最後のMCでニシマがこぼした、「友達のいない休み時間に聴いてたアジカン、アートスクール、Syrup16gみたいなバンドに近づけてたら嬉しい」という言葉の、紛れもない保証としてこの爆裂アンセムたちは鳴り響いていた。

<setlist>
1. 愛してますっ!
2.W.A.N.
3.悶々
4.DANCE風呂a!
5.宇宙人と熱帯夜
6.ブラックアウト(cover)
7.我爱你
-MC-
8.世田谷代田
9.LOVE SONG
10.初恋・愛情・好き・ラヴ・ゾッコン・ダイバー・ロマンス・君に夢中!!
-encore-
11.When I was Cityboy


アジカンのゴッチはこのライブを振り返って日記の中で「ブラックアウトの歌詞が迫ってきて、想像以上に身体や魂がエモーショナルに反応してしまった。」と記していた。灯火が消える、という逃れられない事象を実感する数週だったからこそ芽生えた思いだろう。そして李は、思い出の1曲として「ブラックアウト」を、あの日々の悲しみを消す曲として演奏していた。この日放たれた二つの「ブラックアウト」は偶然にも鏡像のように並び立っていた。『HIGH FIVE』(ハイタッチ)という、とびきり元気なイベント名にはそぐわないかもしれないが、そこに確かな魂の交わし合いがあるように思えた。忘れられない、特別な夜になった。


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