見出し画像

令和ロマン、爆発の夜を終え

あれはそう、とても暑かった日。三密回避でステイホームな日々が続いたコロナ初年、夏にオープンしたよしもとの福岡劇場。間引かれた席の寂しげな光景。チョコレートプラネットを観に行った寄席にて私は出会ってしまう。1組目に出た令和ロマンの漫才「ナンパ」に全くの初見で心奪われたのだ。

競技漫才的な熱量とは無縁の放課後ユートピアのようなニコニコできる楽しさ。おもしろフラッシュ的な感性と「ボボボーボ・ボーボボ」的疾走感。近年のインターネットお笑いの潮流にもハマリ、昨年の敗者復活→今年の初決勝。この漫才がどのように評価されるか。その1点が注目ポイントだった。


笑御籤で最初に令和ロマンが引かれた時は本当に落胆したが、その分、あの爆発は胸いっぱいだった。ツカミでまず高比良くるまがお客さんに語りかけたことが快進撃の幕開けだったと思っている。たっぷりと時間を取り、観客と目を見てコミュニケーションを図ろうとする、あの瞬間に令和ロマンと客席で生まれた突発的だが強固な愛着形成こそが優勝を決めたのだと思う。

忙しなくコントインするタイプの漫才ではできない、初めて寄席で観たあの日と同じ調子の不気味な親密さでこちらの心へ忍び込んだのだ。そして集合的無意識に刺さるようなあるあるの重箱つつき+観客巻き込み型の議論系ラリー。最初ですっかりくるまに心奪われている我々があの店舗にノれないわけがなかった。オチでメタ視点へ飛ぶ展開も漫才を根幹ごと揺さぶった。


綱渡りの先にファイナルラウンドで1組目を取れたのも大きかった。愛着形成を終えていた観客は約2時間半ぶりの令和ロマンとの対面によって親密さが沸き立っていたのだと思う。しかもここで漫才コント。松井ケムリを同じ世界に引き入れず、くるまが1人で大立ち回りを行い、ケムリが翻訳を兼ねたツッコミを行う彼らの持ち味と言える形式。内容は鉄壁の「町工場」だ。

ここで効いたのはケムリの位置づけである。くるまと観客を繋ぐ中立の役割でくるまのボケから我々を置き去りにさせてはくれない。大きなボケを重ね続け、最後にもう1度"吉本興業の社員"で大きくメタ視点へ飛ぶ。M-1を丸ごとおちょくっているようにも見えるあの邪道な一撃は、昨年のウエストランドを彷彿とさせた。ただただふざけて面白い、全てを刻む覚悟が見えた。


ウエストランドがひびを入れた、苦労ヒストリーや物語的エモさ重視のM-1グランプリは令和ロマンの快勝によって完全に崩れ去ったように思う。この軽妙な余韻、あの剽軽な立ち振る舞いこそが「とにかく面白い漫才」とみなされた今年は新たなM-1元年と呼べるかもしれない。可愛げがない、だとか、鼻につく、だとか。そんなことを言っちゃう時点でもう"旧M-1"へと取り残されているのだろう。可愛げがなくとも鼻につこうとも面白ければ良い。それだけを純粋に追い求めてしまうタフな特性を抱えてしまったエリートの勝利はまさしく令和の浪漫として語り継がれるだろう。クッキーにはないかもしれない未来が、こんなにも彼らには開かれてしまった。最高!!


#お笑い#賞レース#漫才 #M1グランプリ #芸人#お笑い芸人#令和ロマン #M1グランプリ2023

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?