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イノセントカルト誕生〜2019.5.25 眉村ちあき1stツアーファイナル@福岡graf

令和元年は彼女にベットしたい。弾き語りトラックメイカーアイドル・眉村ちあき。ひとまず僕の好きな「サイコパス」という曲の良さを伝えたい。

虚空を掴むようにとりとめのない歌い出し、なぜか急に毒を吐き、サビでは丸美屋の混ぜ込みわかめのCMソングとかいけつゾロリを引用して、謎の擬音連発で締めてしまっている。語ることを拒んでくるような、論理もルールも何もない歌詞。これが妙に無機質でボイスサンプリングなんかも用いた穏やかなトラックの上で歌唱されることで不思議な聴き心地。脳をほぐされていくような心地になる。カルチャーの引用とか、文脈の継承とか、そういうのを考えることの意味とは、、となるほどに、この思いつくまま(のようにしか見えない)に歌われたことが素晴らしい音楽になっていることに興奮。

初めて彼女のライブを観たのは3月、その時のことはここに記してあるのだけど、その時の予想通り、『ぎっしり歯ぐき』を聴けば奇天烈な振る舞いのそばでがっしりと真理を掴むことを歌うタイプのシンガーだと分かった。ムロツヨシやコッシーを通過しながらクソリプやヘイトに怒りつつも<好きなことする君はきゃわいいよ><生きるって悪くないな>と肯定してみせる「ツクツクボウシ」や、ギュウ農フェスのメインステージに出れなかった悔しさを昇華して<僕ら真っ暗にされたって踊ることはできる>というポジティビティでかっ飛ばす「ナックルセンス」など、生きる上での大事なことを沢山歌ってくれる。ちなみにこの2曲とも、途中で完全にマキシマム ザ ホルモンが登場してしまっていてその部分がめちゃくちゃ面白い。

日に日に高まっていく期待感の中でリリースされたメジャーデビューアルバム『めじゃめじゃもんじゃ』本当に素晴らしい内容で。本作を引っ提げて行われた初の全国ワンマンツアー、そのファイナルが福岡grafで開催。フリーライブではコールとかちちゃんの客席乱入が封じられていたので、ようやくその本領発揮の現場で2曲目の「荻窪選手権」でもう客席に飛び出してしまってたし、その後も2,3曲に1回は降りていた。「ほめられてる!」にもある通り、彼女は"褒め"により育つアーティストであり、そんな彼女が我々のことも褒め返す。すると生まれるカオスとハピネスが渦巻く異様な空間。こんなずっとニコニコしながら見てたライブあんまり無い。なんか笑っちゃうんだよな。演者も客席もみんな幼児になってしまっていて楽しいのだ。

理解するより先に浴びてしまったほうがイイ、と思わせるような多彩な楽曲の畳み掛け方が素晴らしい。基本的にはがちゃがちゃしているのだけど、そんな中でアコギ弾き語りのみで披露された「おじさん」は、九州に転勤するおじさんについて淡い思いを歌った楽曲ということもありシチュエーションもばっちりで、シンプルに心に刺さってきた。しかしその数曲後に歌う「奇跡・神の子・天才犬!」で、全編に渡り観客の頭上をクラウドサーフしながら歌唱。これがどちらも平然と共存している空間が彼女のライブなのだ。様々な切り口で、苦楽も等しく題材(意外にも彼女の曲にはマイナスで暗い感情を出自とするものも多い、天真爛漫だが負けず嫌いっぽいので気に食わないことにはしっかり怒るアイドルのような気がする)にしてしまえる強み。

5/13の生放送ラジオで投稿してきたリスナーのラジオネームをそのままタイトルにした新曲「おばあちゃんがサイドスロー」はトラップを取り入れ、タイトルを一発ギャグみたいに連呼するサビを持ち、こちらにコールさせるワードは「おじいちゃん!」であるという、ほじくっても答えの見えてこない素敵な楽曲だった。2週間足らずでパフォーマンスできるまで曲を仕上げるって離れ業だと思うのだが、彼女のクリエイトのスピード感からすれば当たり前のことなのだろうか。この日のアンコールで会場を黙々とスクワットさせるに至った「スクワットブンブン」は、既にライブ定番曲だが(3月のフリラで聴いた時に古くからお馴染みの曲だと勘違いした)、これも今年の2月に生まれた未音源化の新曲で、彼女の曲の鮮度を物語っている気がする。

フリーライブで観た時、彼女にハマるきっかけになったのが「ピッコロ虫」で。歌い出しは長尺のアドリブによる歌唱で、このツアーで得たスタッフやファンとの信頼感(と沢庵)について語りながら突入していったこの日のハイライトだった。「ピッコロ虫」の誕生秘話は、この面白すぎるコラムに詳細に記されているのだけど、やはりネガポジ変換のスピード感が彼女の魅力だ。<小指の縫い目>とは彼女の実際のけがのことだが、直後になんの脈絡もなく<再来年流行るぞ>と自身の2020年ブレイクを宣言。あと、<明日朝起きたら小松奈菜になってますように>も最高だけどやっぱり各サビを締めくくる<人に聞いた話は全部嘘だよ>があまりにも頼り甲斐ありすぎて泣きそうになる。それを全員で合唱するラスサビ、これは一大アンセムになるはずだ。

この日、本編を締めくくった「大丈夫」は元々「ゴッドタン」出演時にフルーツポンチ村上に贈った即興曲だが、"もう共感はできないけど、私が共感するために歌うのでなく、みんなに共感してもらうために歌う"という旨がMCで語られていた。腕白な振る舞いは当分は変わることないと思うのだけど、確かな覚悟が芽生えていて、そんな姿が頼もしいのであった。思いつくままのめちゃくちゃ単語でコール&レスポンスを行ってから突入した「ビバ☆青春☆カメ☆トマト」の最後なんて、何かを変えてしまいそうな爆発的なエネルギーがあった。メジャーデビュー時のイベントで南波一海氏が彼女のライブを「カルト誕生」と称していたけど、僕はそこにイノセントとつけたい。意図も意味もなく、ただ無垢に、歌を頭に植え付けつづけてほしい。

2019.5.25 CHIAKI MAYUMURA 1st Tour「めじゃめじゃもんじゃ」@福岡graf セットリスト
SE:オンタイムで始まるぞ
1.ブラボー
2.荻窪選手権
3.Queeeeeeeeeen
4.ほめられてる!
5.インドのりんご屋さん
6.ナックルセンス
7.東京留守番電話ップ
8.おばあちゃんがサイドスロー
9.ツクツクボウシ
10.開国だ
11.おじさん
12.ピッコロ虫
13.代々木公園
14.MCマユムラ
15.奇跡・神の子・天才犬!
16.大丈夫
-アンコール-
17.書き下ろし主題歌
18.スクワットブンブン
19.ビバ☆青春☆カメ☆トマト
-ダブルアンコール-
20.メソ・ポタ・ミア

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