ふぇのたすが復活するというニュースが出た時はとてもたまげた。2012～2015年までの短い活動期間ながらインパクトの強い楽曲を多く残し、ビジュアル面やその"ポップさ"と"可愛さ"の意識的な打ち出し方は、当時盛り上がりを見せ始めたアイドルシーンとは一線を画す魅力が溢れていた。解散後もヤマモトショウはソングライターやプロデューサーとして”かわいい"を様々なシーンに宿し、みこは2021年まで「SHE IS SUMMR」として音楽活動を続けつつ、ファッション方面でのインフルエンサー的な強みも携え続けた。

配信の画面越しであるが、入場SE「たす+たす」に乗せて後ろのスクリーンにこれまでのアー写などが流れる中でTシャツルックのヤマモトショウ(Gt)、青いドレスのみこ(Vo)が出揃っていくオープニングの感激ったらなかった。個々での活動は追っていたし、2人が共作することも少なくはないが、ふぇのたすとして集うことで生まれる喜びがこんな強いとは。「東京おしゃれタウン」や「すしですし」といった、キラキラでちょっとヘンなポップソングが色褪せることなく投下されていく。楽しくて可愛い、が基本コンセプトなはずなのに、「すしですし」のギターリフでなんだか泣きそうになっていた。

以前書いたガールズポップの記事を参照すると、ふぇのたすが世に出たのはタイミング的にはアイドルブームとガールズポップとフィメールラップの過渡期にあり、その中でもしっかりと"可愛い"に寄せた非アイドルのガールズポップという点で物珍しさがあった。みこの舌足らずな歌声とヤマモトの作り出すレトロなシンセポップの記名性の高さ。今回のカムバックにあたって再録された「なるはや」や、まさにふぇのたすという枠組みだからこそ描けた「かわいいだけじゃダメみたい」などオリジナリティ溢れる楽曲が続く。みこの歌声も、あの頃にしっかりと寄せてくれているように思った。

個人的には出会いの1曲だった「スピーカーボーイ」も聴けたのが嬉しかった。初めて聴いた時から妙に懐かしい曲だなと思っていたので、9年の年数が足されるとより一層ノスタルジック。というかやはり歌詞が凄い。いじらしい片思いソングに見せかけ、ただひたすら自分の意見を強固に述べ続ける話者への眼差しのダブルミーニングであるという、ヤマモトショウの書く強烈に意図的な歌詞の凄みだ。プルースト効果を味覚で用いた「いたずらマドレーヌ」(これも再録に歓喜！)もじっくりと聴かせてくれるし、このあたりのエモと理屈のバランス感がやはり巧みすぎる。起伏のつけ方が抜群なのだ。

メジャーデビュー曲「今夜が終わらない」や、新作『ピース2022』に収録された楽曲の後で「おばけになっても」も聴いて思い出す。ふぇのたすを語るうえで、澤"Sweets"ミキヒコ(Dr)の存在だろう。2015年のメジャーデビュー直後に急逝し、その後2人で活動を始めるも3人でこそふぇのたすだという想いを強めて解散を選んだ経緯がある。《おばけになっても好きだよ》というフレーズはとてもユーモラスに思っていたが、彼亡きあとはすごく意味をもって届く曲になっていた。時を超えてTikTokでバズったりもしたけど、やっぱりこれはミキヒコくんを想う曲だなぁという認知を強固なものにした。

ライブ終盤、「ピース」は今回のカムバックのために書き下ろされたまっさらな新曲だ。みこの歌声も、ローを生かしたセクションもあったりして過去と現在がしっかりと息づいている。弛まぬ活動を続けてきた2人だからこそ作り得た2022年仕様のふぇのたすだ。そして本編ラストは「夜更かしメトロ」。個人的にも大好きな1曲だ。見果てぬ未来への羨望と迷いを混ぜ込んだブライトで切ないこの曲。2人がまたこれから別々に歩む道を照らすようにも聴こえてこの日限りの再結成のラストにはあまりに相応しい。仄めかされていたけど20周年、2032年での再結成だって期待してしまう、そんなシメだった。

アンコールでは急遽「たす＋たす」を披露。そのゆるやかな雰囲気はどこかさっぱりしていてこの日で再び解散する空気感ではない。年末に飲み会グループとして存続していることが影響しているのかもしれないが、このムードなら来週もどこかのライブハウスで、、と思ってきてしまう。この日2時間のライブを観て思うのは、やはりあまりにも似た存在のいないグループだということ。ふぇのたすが続いていればガールズポップの未来にも何か別の分岐点があったのでは？と思うほど、クオリティの高さと求心力は異様なレベルだった。物語化せずあくまで良いポップミュージックを届ける存在であった点も潔く、今回の再結成を熱く思えたのも意外なほど。惜しいけど、また何度も再生しながら次の再結成を待ちたいと思う。

<setlist>
1.東京おしゃれタウン
2.すしですし
3.なるはや
4.かわいいだけじゃダメみたい
5.スピーカーボーイ
6.いたずらマドレーヌ
7.今夜が終わらない
8.すてきな人に出会った時
9.ラブラブってこと
10.おばけになっても
11.ピース
12.夜更かしメトロ
-encore-
13.たす＋たす

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