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風刺画から見る中東情勢 #2

皆さんはNetflixで『ペーパーハウス』というスペインドラマをご覧になられましたか? 原題は『La Casa de Papel』というのですが、このドラマ、中東でもかなり流行っています。

私もアラブ人の友達に勧められて、1話を見たところ、面白くてどハマりして、一気にシーズン2まで全て見てしまいました。

このドラマの中で何度も流れる印象的な歌がこの『Bella ciao』という曲です。(もともとはイタリア内戦の時に作られた、反ファシスト党の賛美歌の様です。)

https://youtu.be/spCdFMnQ1Fk

そしてこの『Bella ciao』をオマージュした、サウジアラビアのDeemahというお菓子会社のCMがこちらです。

「Bella ciao(さらば恋人よ)」の代わりに「Billah Bisshai(それを紅茶に浸せ)」と歌っています。動画を見れば明らかなように、ビスケットを紅茶に浸して食べろということですね。

このCMを見て笑えるくらいに、中東では『ペーパーハウス』が流行っているわけです!

さて、ここまでの前置きを踏まえて、今日の風刺画です。

こちらも昨日と同じく、カタールの風刺画家ムハンマド・アブドゥ=ラティーフさんによる風刺画です。右上には同じく「それを紅茶に浸せ」と書かれており、上記のビスケットのCMのリンクが風刺画と共に貼られています。

また、この風刺画を理解するために理解しておかなければならないのは、「紅茶に浸す」という表現がアラブでどのように使われているかということです。

例えば、誰かが重要な秘密書類(例えば悪い点数を取ったあなたのテストなど)を持って、あなたを脅してきたとします。その際、「お前のそんな脅しなんか怖くねえ!」というときアラブでは「そんな紙、浸して飲んでやる!*」ということがあるようです。

*بلل الورقة وأشرب ميتها

この風刺画の男性が持っている紙には「決議書」と書かれており、それをカタールの国旗の色をしたコップに浸しています。それではこれは一体何を示しているのでしょうか?

この風刺画は2019年6月3日に描かれたものなのですが、ちょうどそれはサウジアラビアのメッカでアラブ首脳会議湾岸首脳会議が開かれた直後でした。

アラブ首脳会議と湾岸首脳会議では、各アラブ諸国がイランやパレスチナ問題に関して話し合い、それらに関してある一定の合意がなされました。例えば、周辺アラブ諸国に内政干渉を行なっているイランに対してアラブ一体となって批難を行うということなどです。(これはイランと仲良くしているカタールに取ってみれば、他のアラブ諸国からカタールに対する牽制とも取れます。)

そこで6月3日にカタール外務大臣は「カタールはアラブ首脳会議と湾岸首脳会議で決められたことの一部を留保する」ことを発表しました。すなわちカタールは、それらの首脳会議で決まったことの一部に反対意見を示したのです。

つまりこの風刺画は、アラブ首脳会議と湾岸会議で決められた「決議書」を、(即ちカタールにとっては他のアラブ諸国からの脅しともとれる決定を)カタールは物ともせず、紅茶にディップして飲み干す。ということを表していると考えられます。

たった1枚の風刺画ですが、流行りのドラマ、それをオマージュしたお菓子のCM、アラブの慣用句、政治的背景、ニュース、、、と様々な要素が結びついており、それらを包括的に理解していなければ、その風刺画を理解できないのです。面白いですよね。

今日の風刺画も昨日と同じく、サウジアラビアやUAEといった周辺アラブ諸国と仲の悪いカタールのお話でした。(なかなかその原因には触れられませんが、また後々。。)

それでは、マアッサラーマ(さよなら)!



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