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蛮勇(ショートショート)

ヤツは強い。
この世界を圧倒的な力で支配している。
最強の支配者だ。所謂チートといって差し支えないほどに。

そんなヤツに私は挑んだ。

何故か?
世界の平和、秩序を正すためだ。

私は無謀だ。しかし、それほど馬鹿でもない。
ひとりではなく仲間とともにヤツに挑んだ。
剣の達人、弓の名手、偉大な魔法使い、頑強な武道家…。
最高の仲間たちだ。
家族、といってもいいかもしれない。

しかしヤツは、そんな私の大切な仲間たちをいとも容易く屠っていった。
ヤツの力は想像を絶していたのだ。
私たちの如何なる攻撃も、ヤツにとっては蚊に刺された程度でしかなかった。いや、蚊以下だっただろう。
そして、ヤツが撫でるように触れただけで、私たちは鮮血とともに吹き飛ばされた。落ちているゴミのように。
そして仲間たちは、その一撃で力尽きた。

重い。重たすぎる一撃だった。
皆で挑めば勝算はある、と考えていた自身の浅はかさを呪った。
勝算など皆無だったのだ。
ヤツと戦って勝てる可能性など、毛ほども無かった。
倒れていった仲間たちに謝りたい。

私の浅慮を。

蛮勇を。

今更、仲間たちに謝ったところでどうにもなりはしないが、それでも…。

ヤツが私にとどめを刺そうとやって来た。
間もなく、私も仲間たちのようになるのだろう。
私たちは負けた。

だが、ヤツの完全勝利というわけでもない。
薄れていく意識の中で見えていたものがあった。

空から落ちてくるいくつもの巨大な隕石だった。

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