003-悪の組織の世代交代(サブプロット1)

デスブラック戦闘員が地下基地に戻ってきた。
今回もまた、うちの怪人が負けた。
色彩戦隊カラレンジャーのアイボリーは強い。
現在、カラレンジャーはアイボリーのみが確認されているが、
あんなのが何人もいたらたまったものではない。
何としても今のうちに倒しておきたい。

だってめんどくさいから。

悪の組織『デスブラック』の総帥たる私、岸川が
スーパーヒーローと戦うなどという七面倒臭いことは
断じて阻止せねばならぬのだ。
FORTの連中とのいざこざは部下に任せて、
私は遊びたい。遊び呆けていたい。

一応、デスブラックの世界征服という野望はある。
だがあれは、先代の総帥の仕事を引き継いだだけで
私個人としては、キャンプとかご当地グルメ食べ歩きを
満喫して日々を過ごしていたい、というのが本音だ。

「申し訳ございません、総帥!」

戦闘員のリーダーである岡本が、怪人敗北の謝罪をしてきた。
声がでかいんだ、コイツは。

「ああ。まあ、お疲れさん」
「誠に、誠に申し訳ございません、総帥!」

めんどくせー。

私と違ってこいつら戦闘員たちは
本気で世界征服を考えている厄介な連中だ。
暑苦しくてかなわん。
若者のやる気を削ぐつもりはないが正直なところ、
あちこちで暴れるのはほどほどにしてほしい。

そういえば以前、
私の行きつけのラーメン屋を破壊した戦闘員がいたが
そいつは後々、私の名前を聞くだけで
ゲボ吐いて過呼吸になるくらいシバき倒した。
怪人4人が止めなければ殺していたところだった。

「今日の怪人、誰だっけ?」
「デスパパさんです」
「ああ、そうそう。さすがにちょっと弱すぎたな。
年齢的にきついってのもあるんだろうが」
「はい。デスパパさんはバブル世代でしたから」
「その前の怪人がデスオスカーだっけ?
アイツも結構な年だったよな」
「はい。あの方は老眼鏡が必需品でした。あと、
ノートのことを帳面と言っていました」

私はため息をつきながら、部屋に飾られている
歴代怪人の遺影を眺めた。
デスマイク、デスノーヴェンバー…
皆、年を経るたびに様々な医療機関の診察券が増えていると
言い残して戦いのなか散っていった。

「うちもいい加減、世代交代しないとなあ」
「はい」
「岡本って今いくつ?」
「24歳です」
「そうか。ちょっと早いけど怪人昇格するか」

デスブラックの怪人昇格は、26歳からなのだが
岡本なら、まあ充分やれるだろう。

「ありがとうございます!!!!!」

だから声がでかいんだって。

「必ずや!私がアイボリーの首と!えぐり出した心臓を総帥の御前に…」

岡本が昇格の喜びにうち震えながら物騒なことを言い出した。

「あのさぁ、岡本。そういうのグロいから要らないぞ」
「失礼いたしました!!」
「普通に倒してくるだけでいいからな」
「承知いたしました!!!」
「あと、ジンジャーエール買ってきて」
「直ちに!!!!」

猛烈に退室する岡本を見ながら私はふと思った。
怪人昇格させたものの、本当にあのアイボリーを
倒せるだろうか。
少々不安になったてきた私は、内線通話で総務部へ連絡した。

「岸川だが、フリーの強怪人を呼び出してくれ。
ああ、アイツなら申し分ない」

運よく腕の立つフリーランスの怪人がつかまった。
現状、私の知る限り最強の怪人だ。
アイツならばアイボリーにも勝てるだろう。
そんなことも知らずに岡本が戻ってきた。

「買って参りました!淫乱テープ!!」

大丈夫なのか、コイツは。

淫乱テープって何だ。聞き間違え方が独特すぎる。
というか、よく見つけて買ってきたな。
淫乱のテープ?そんな商品見たことも聞いたこともないし、
用途がさっぱりわからん。
これが正解だと思った岡本の思考回路を疑う。
どうするんだ、こんなわけのわからない物を
買ってきやがって。


まあ、一応もらっておくが。

岡本の怪人昇格は時期尚早だったかのしれない。
世代交代はむずかしい。


<ミニ情報>
怪人の名前は、NATOフォネティックコードから付けています。

<登場人物>
岸川総帥…
デスブラック総帥。でたらめに強いがものぐさ。顔に大きなバツの傷。FPSの猛者。

岡本…
デスブラック戦闘員のリーダー。実直で規律を守るタイプ。悪の戦闘員なのに。

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