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マークの大冒険 追憶のバルベーロー編 | 再臨


前回までのあらすじ
ユダは最期の晩餐前夜にイエスと交わした約束を果たし、使徒を復活させ、2000年ぶりの集結を実現した。彼は自らの裏切りが師の指示であったこと、そして間もなく師が自分たちの目の前に現れることを告げた。一方、マークたちは百合の形に変形した2本の鍵が扉からなくなっていることに気づいた。そして、楽園イアルにまで届く巨大な地響きの原因を確かめるべく、ピラミッドの外に向かったのだった。


13人の男女の足元が突然、轟音を鳴らしながら揺れ出した。すると、地面が勢いよく盛り上がり、柱のように突き出していった。13人の男女は揺れに耐えながら、天へと近づいていく。空には灰色の雲が立ち込め、当たりは急に薄暗くなった。分厚い雲の間から稲妻がところどころに走っている。揺れが収まりしばらくすると、空が閃光を放った。そして、13人の男女の前にフードを被った一人の男が姿を現した。

「師よ!」

弟子たちは彼の姿を見て歓喜し、涙を流しながら跪いた。

「私の愛すべき隣人たち。キミたちと過ごした祝福の時間を昨日のように覚えているよ」

男はそう言いながらフードをおろした。その姿はイエスだった。

ペテロが一目散にイエスに駆け寄り、跪いて呟いた。

「どれだけこの日を待ち侘びたことでしょうか」

「ペテロ、ローマ以来だな」

「師よ、これは現実ですか?」

「私を幻想だというのか?」

「いえ、歓喜のあまり......」

「一度キミは私のことを知らないと言って逃げ出したが、再びローマに戻り、自分の成すべき役目を果たしたね。あの勇気は、賞賛に値する。私は最初にキミに言った。キミを魚を釣る漁師でなく、人を釣る漁師にすると。キミは見事だった」

ペテロはローマに滞在していた時、人々にイエスとの関係性を知られると自身も囚われの身になると恐怖し、イエスのことを知らないと言って逃げ出した。だが、街道でイエスと出会って諭され、自分の過ちを恥じ、再びローマに戻って処刑された。

「師よ、本当にあなたなのですね」

「トマス、キミはまた疑っているのか?私はここにいる」

「いえ、師よ。疑いなど。ですが、喜びのあまり信じられない心地で。あの時は疑って失礼しました」

トマスは疑り深いことで知られ、イエスの復活をにわかに信じられず、イエスの脇に空いた槍の傷に手を入れて確かめたと伝承されている。

「そしてユダ、よくみんなをここに集めてくれたね。約束は果たされた。感謝する」

「師よ、礼など。当然のことです」

「さて、みんなとの久々の再会に話は尽きないが、今はその時ではない。始めるとしようか、新しい世界の物語を____」




🦋🦋🦋




「なんだあれは?嘘だろ......」

マークたちがピラミッドから出ると、遠く先に地面が上に突き出て巨大な柱のようになっとているのが見えた。マークは目の前で起きている状況が飲み込めず、驚嘆の声を上げた。


「それに、あの上に人影のようなもの見える」

マークはそう言うと、双眼鏡を取り出して巨大な柱の方向を覗いた。

「1、2、3、4......全部で、13?いや、14人か?」

「14で間違いない。そんな道具より俺の眼の方が正確だ」

「さすがはハヤブサの眼」

「女が一人、男が13人いる」

「おそらく、イエスと使徒たちだろう」

「詳しいな」

「当たり前だ。ボクの学校はイングランド国教会傘下だ。彼らについては、その成立から教義まで在学中徹底に叩き込まれた。ボクらがイアルでさっきまで会っていたケイオスと名乗っていた男は、ナザレのイエスで間違いないだろう。ヤーウェ、メシア、キリスト、アイオーン。他に呼び方は複数あれど、どれも総じて同じ存在と解釈していい。もちろん、宗派によって解釈はまちまちだがね。いずれにせよ、考古学的にはヤーウェはシナイ半島の山神で、その成立は比較的新興のはずだが、あの物言いからしてやはり彼がこの世界の始祖なのか?」

イングランド国教会
英国王ヘンリー8世の離婚問題を機にカトリックから離反した分派。当時のカトリック信者は神が定めた相手である妻とは離婚できない決まりだったが、どうしても離婚したかったヘンリー8世はカトリックの教義を継承しつつも離婚を可能とする新しい宗派を創造し、これをイングランド国教会と呼ぶ。マークが通う大学はイングランド国教会傘下の学校で、必修科目で聖書講読やキリスト教史を学ぶ。本校は英語教育が強い上、考古学界のレジェンド的存在である教授や講師が多数在籍している。だが、私立大学の中でも学費が特に高いことで知られ、中小企業の経営者の子息子女が多い。実際、マークの父も病院経営者である。一般的に医師の息子は医師になるものとされるが、その道を決して強要されなかったことは、マークにとって最大の幸福だったと言えよう。

「奴はなぜ、俺様のエジプトに急に足を踏み入れてきやがったんだ?」

「答えになっていないかもしれないが、イエスは幼少期にヘロデ王の手から逃れるためにエジプトに亡命したんだ。キリスト教にエジプトのオシリス信仰と共通した点が明らかに大いのは、イエスがエジプトに長く滞在していたことによる影響と解釈されている。しかしこれが、予言書にある再臨ということなのか?」

「再臨?」

「ああ、予言書の中にはイエスの復活が仄めかされている。だが、それがいつの時代で、どこでなのかは一切記述されていない。だからもう既に再臨しているのか、再臨はもっとずっと先のことのかは、誰にも分からなかったんだ。だが、今日、今この時が再臨なのか?だとすれば、今日は間違いなく歴史に名を残す日となる。わざわざ2000年ぶりに再臨したんだ。彼は13人の弟子たちと共に、あそこで必ず何かアクションを起こすはず」

「じゃなきゃ、あんな大層なデカい柱を造ったりはしないだろうな」

「ああ。ボクらが回収したイアルの鍵の正体は、聖書内に登場する天国の2本の鍵だった。おそらく、蛇の状態では死者の楽園イアルを開き、百合の状態ではもっと高次の世界を開く、ということなんだろうか」

「もっと高次の存在?」

「......バルベーロー」

「バルベーロー?」

「異端福音書と言われるユダの福音書で言及されている世界だ。この書はエジプト中部で発見された秘密文書で、発見の経緯は盗掘だったことからよく分かっていない。だが、コプト・エジプト語で記されたその書の中で、バルベーローはイエスが来た世界とされている。つまり、この世界とは別の、いや、この世界を束ねる源......?でも、なぜバルベーローを再び開く必要があるのだろう?これから何を起こそうとしているのか、目的が全く分からない」

「なら、奴に訊きにいくか?」

「キミならハヤブサになって、あそこまで飛んでいけそうだな」

「ああ、俺のピラミッドより高くて目立つもんを勝手に造りやがったんだ。今にも飛んで行って、あれをぶち壊してやりてえ気分だ」

「本当にあそこに行くのか?想像しただけで、怖くて身体の震えが止まらない。あそこに行ったら、ボクらはきっと死ぬ」

「ビビっていたら、冒険なんてできないぜ。お前は知りたいんだろう?この世界の真実を。お前は何のために生きてるなんだ。それを思い出せ。何も知ることなく、無駄に長生きすることがお前の夢だったのか?なら、どうして俺をエジプトで呼び起こした。全てを始めたのはお前だろう?。お前が紡ぐ物語が見るために俺はここまで親切にも付いてきてやったんだ」

「ホルス……」

「だから今さら引くなんてあり得ないぜ」



Shelk🦋

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