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注文の多いサウナ

上方落語台本大賞&池田社会人落語コンテスト落選作

甲「いや〜楽しかったなあ」
乙「今日もいい汗かきましたね」
甲「そや、最後にもうサウナにいってもう一汗かかへんか?」
乙「いいですね!僕最近サウナにハマってるんですよ」
甲「お〜最近なんやら若いこの間でもサウナが流行ってるってようきくもんな。なんやサウナーとかいうて」
乙「そうなんですよ。そういえば、この近くに僕の行きつけのサウナがあるんです。もしよかったら行きませんか?」
甲「おお、そうなんか!じゃあいこうやないか」

ーーーー
乙「ここです」
甲「へえ〜なになに、『注文の多いサウナ』なんやけったいな名前やけど。大きい建物やないか。(中に入り)大人二枚で」
乙「(服を脱ぎながら)ここはたくさんの種類のサウナがあって、サウナのはしごが楽しめるんです」
甲「おお!それは楽しみやな!さあ、じゃあまずひとっ風呂浴びてから」
主「ちゃんとかけ湯し〜や!」
甲「うわっ!びっくりした」
乙「あれはここにいつもいる風呂のヌシです。ああやって風呂の入り方のマナーを注意するんですよ」
甲「ヌシ?へえ、変わった人やなあ。まあ言われたとおりにかけ湯をして…あと先に体を洗わんとな(体を洗いながら)しかし、あのヌシいうんはずっとおるんか」
乙「自分が行くときは必ずいますね。他にもサウナにはサウナのヌシもいますし、水風呂には水風呂のヌシがいます。その人はずっとそこにいますね」
甲「サウナにずっと居るのも大変やけど、水風呂は水風呂でしんどいな。おし、体も洗ったし、サウナに行こか」
乙「ここは普通のサウナから、100度を超える灼熱サウナ、スチームサウナといろんな種類のサウナが選べるんです。イベントも色々やってるんですよ」
甲「おお、それは楽しみやなあ!まあまずは普通のサウナ行こか。ちゃんと汗を拭いて…っと。よいしょっと。ふう。あー体がジリジリしてるこの感じがほんまええな」
乙「(扇子をサウナハットに見立てて)ほんまそうですね」
甲「おい、なんやそれは?」
乙「サウナハットですよ。これで髪の毛を熱から守るんです」
甲「君、守るほどそんな残ってないやないか!」
乙「少ないからこそ守るんですよ!」
甲「まあな、いやーしかし、このサウナに入ったあとにやるビールの一杯ほどうまいものはないねんな。それで刺し身をちょっとつまんで・・・たまらんなあ」
乙「いいですねえ。刺し身もいいですけど、僕は氷でしめたあらいを食べるのも好きですね(棒を体に叩きつけながら)」
甲「おお、君もなかなかおつやなあ。お、それはなんや?」
乙「白樺の枝です。フィンランドではこれを体に叩きながら入るんですよ」
甲「へえ〜これか。ああ、白樺のええ香りがするなあ。普段はプロレタリアの我々も、サウナに入っているときだけは白樺派やな」
乙「だれもわかりませんよ」
甲「じゃあ、そろそろ一回出て水風呂はいろか」
主「ちゃんと入る前に汗を流しや!」
甲「おお、水風呂のヌシさん。じゃあちゃんと汗を流して、と。ううう、水風呂に最初入るときが一番緊張するな。一回入ったあとやったら平気やねんけどな。人生何事も最初が肝心。案ずるより生むが易し、や。ううう。あ〜体からストレスが溶けていくみたいやわ。は〜。さて、このあと一旦出て、外気浴や、冷えた体にじわじわと熱が戻ってきて、体の中が全部入れ替わったみたいになるなあ。ああ、ととのってきた。はあ〜。こうやってるとき、ほんまに仕事のこことか、日常のこととか忘れれるわあ。」
乙「はあ〜。僕は逆に、こうしてるときが一番生きてるなって実感しますね。毎日おなじことをこなしてばっかりで、なんやコロナでリモートで部屋から出れんようになったりして、仕事してるんか家におるんかもようわからんようになって…」
甲「若い子はそうなんか。まあ色々あったからなあ…。こうやって遊びに行けたりできるようになったのはありがたいことやで」
乙「あ、もうすぐ灼熱サウナで熱波のイベントが始まるみたいですよ!行きましょう。ここは100度を超える灼熱のサウナなんです。まず、入り口で塩を塗ってください」
甲「へえ、まあ、塩を塗ってサウナに入ると、その後肌がすべすべになるしな・・・うわっ、あっついな〜。よいしょっと」
乙「暑いでしょう?ここの灼熱サウナで30分以上入ることができると、その人は灼熱マスターとしてマスターの称号がつけられるんです。僕も持ってるんですよ」
甲「へええ、それはすごいな。」
乙「大変でしたよ。もう流す汗もなくなりかけてカラカラになって。更に、ここに一時間以上いると」
甲「どうなるんや」
乙「汗と一緒に余計な油も落ちて、塩で下味がついた見事なローストになります」
甲「それはもう焼け死んどるやないか!」
乙「マスタードがつけられます」
甲「うまいこと言わんでええねん。あ、熱波師がきよった。」
熱波師その1「本日こちらのアウグブーフを務めさせていただきます。よろしくおねがいします。ではまず、こちらのサウナストーンにアロマをかけて蒸気を発生させます…では蒸気を行き渡らせるためにタオルを振らせていただきます(手ぬぐいを振り回しながら)サウナの歴史は、北欧のフィンランドから始まります。ストーンに水をかけて水蒸気を発生させたものをロウリュ、といいます。それがドイツに渡り、ストーンにアロマ水をかけることで香りを充満させる方法が定着し、それをアウグブーフと呼びます。本日こちらは白樺の香りのアロマを使用させていただいております。おそらく、こちら初めての手ぬぐいの使い方をしていると思います。それでは、個別の熱波をさせていただきます。」
手ぬぐいを大きく振り下ろす
扇子で顔をあおぐ
甲「ああ〜この熱波になったとき、幽体離脱っちゅうんか、自分の魂だけが体から離れたんちゃうかと思うな。はあ〜。お、熱波師がもうひとりやってきた」
熱波師その2「(狂言師風に)ふぉんじつは〜熱波をつとめさせていただきそうろう。このあたりにおりますものでござる」
甲「なんや、狂言師みたいなやつが入ってきたな」
熱波師その2「では、こちらの石にお水を、じょろり、じょろり、じょろじょろじょろ。熱波をさせていただきそうろう。あおげ〜あおげ、あおぐぞ、あおぐぞ」
甲「なんや、狂言の附子みたいやな」
熱波師その2「こちら、あおぐぶーすにてそうろう」
甲「ただのダジャレやないか」

そうこうしているうちに灼熱サウナ、あまりの熱さに辛抱ならんとおもわず男が飛び出して、水風呂へ一直線へザブーンとかけこんだ。
主「水風呂入る前にちゃんと洗いや!」
乙「へえ、水でしめられて、あらいになりました」


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