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【新説】石の上にも3年

北国。年中凍えるような寒さで有名な町を訪れたときの話。その町にはたいそう変わり者がいて、町はずれの大きな石の上にかれこれ3年、座り続けているという。わたしは、興味本意から、石に座るその男を訪ねた。「こんにちは」「......」微かに聞こえる声は、吹きつける北風に打ち消される。男の頬は大きなスプーンで削り取られたように痩せこけ、胴体はあばら骨が浮き上がり、手足はほんの少し力を加えれば粉々になってしまいそうに細い。「どうしてこの石の上に座っているんですか?」そう尋ねると、男はにっこり笑ってこう答えた。「この石は座る前はキンキンに冷たかったのですが、3年座った甲斐があり、温かくなりました。わたしはそのためだけに座り続けてきたんです。どうです? 座ってみますか?」。男の眼は私がかつて見たことのないくらいに澄んでいて、その言葉が男の心からの言葉だとわかる。たとえ他者からどんな目で見られようとも、自分の望みを実現するために、自らの道を淡々と歩み続ける。その姿に私は心が慄えるのを感じた。「石の上にも3年」今回の体験をそう名付けたいと思い、ここに記す。

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