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鑑賞した展覧会の感想などを中心に投稿していきます。

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最近の記事

文体から抽き出される身体 ーー島口大樹『鳥がぼくらは祈り、 』ーー

映画を撮りたいと考え、いつもビデオカメラを回す高島。実家の電気屋の応接室が溜まり場になっている池井。その池井と芸人を目指し、仲間内で時折漫才を披露する山吉。そして“ぼく”の4人は、日本一暑い街、熊谷で生まれ育った。なんてことのない日々を過ごす「ぼくら」はその一方で、皆それぞれ過去に囚われ、影を抱えて生きている。  島口大樹『鳥がぼくらは祈り、 』は地方都市に生きる少年たちのなんでもない日常を生々しく、克明に描き出す。精巧に設計された物語が生む独特なグルーヴ、疾走感は読む者を

    • いつ、何を、どうつくって、食べる?

      きのう何食べた? 最寄駅には本屋が併設されている。  改札を出てすぐの突き当たりにその本屋はある。品揃えは大したことないのだが、何せ最寄駅なので帰りがけに立ち寄り、何の気なしに立ち読みだけすることも多い。先日も冷やかしのつもりで入店したところ、ちょうど発売日当日の『きのう何食べた?』の最新22巻が店頭に平積みされているのが目に入った。  『きのう何食べた?』は私が現在唯一コミックスを集めているマンガだが、新刊発売日をまめにチェックしているわけではなく、店頭に並んだ物を発見し

      • 渋谷駅のファンネルーーいくつかの明滅

        長らくなにも書いていなかったが、コロナ禍や遠方への出張続きでガタガタになった生活のチューニングが最近になってやっと整いつつあるのでまた書いてみる。 Twitterの方は文字数制限が枷になり、まとまった文章を投げられないのが不便だ。 このnoteは日記のようなものでありリハビリのようなもの。 なので本当にどうでもいいことが書かれる。 余裕が出たらまたレビューでも書く。********************************************************

        • 乗り越えられなさの可能性 ––小泉明朗《縛られたプロメテウス》––

          映画やドラマなど、映像メディアには主観ショットと客観ショットと呼ばれる撮影技法が存在する。主観ショットとは登場人物の視線と一致したショットを指し、客観ショットとはそれ以外を指す。前者は人物の肩越しのカメラの視線、後者は登場人物の会話を映すカメラの視線などが該当するだろう。映像表現における主と客。しかし、これらは常に第三者的視点(神の視点)からなり、基本的に全て客観ショットからなる。つまり、私たちは映像内で起きている事象と確実に距離を持ち、実際に接触することはない。旧来的な「映

        文体から抽き出される身体 ーー島口大樹『鳥がぼくらは祈り、 』ーー

        • いつ、何を、どうつくって、食べる?

        • 渋谷駅のファンネルーーいくつかの明滅

        • 乗り越えられなさの可能性 ––小泉明朗《縛られたプロメテウス》––

          欲望をまなざす–百瀬文 《I.C.A.N.S.E.E.Y.O.U》−

          AI美空ひばりは、戦後日本を代表する歌手、故・美空ひばりの歌声を人工知能(AI)の技術を駆使し、現代によみがえらせるプロジェクトだ。美空の生前の膨大な音声データをAIに学習させた音声ソフトによって、彼女の歌声を再現することができる。  2019年9月に放送されたNHKスペシャル[1]では新曲「あれから」が披露されCGで再現された美空が4K・3Dホログラム映像としてステージに立った。  この曲の作詞を担当したのは美空の生前最後の曲「川の流れのように」を手がけた秋元康だ。 「あ

          欲望をまなざす–百瀬文 《I.C.A.N.S.E.E.Y.O.U》−

          上書きされたコードと強制されるモード −目[mé] 《非常にはっきりとわからない》−

          千葉市美術館は2020年5月を目処に改修工事を行っており、美術館の周辺は仮囲いで覆われ、時たま工事車両が出入りする。館内の柱は薄いビニールで覆われ、床はシートが敷かれ、普段見ることのない美術館の裏側を垣間見るようだ。  この改修中の美術館の7階と8階の二つのフロアで「目」による展覧会《非常にはっきりとわからない》が開催される。私はまず7階へ向かうためにエレベーターに乗る。  エレベーターの扉が開くと1階と同様に養生された空間が広がる。用意された3つの展示室内も壁や床は覆われ、

          上書きされたコードと強制されるモード −目[mé] 《非常にはっきりとわからない》−

          岡山芸術交流2019 《IF THE SNAKE/もし蛇が》

          はじめに-示された蛇の頭- 岡山芸術交流2019が開催された。第2回を迎える本芸術交流は3年毎の開催を目標とする現代アートの国際展であり、世界的な現代アーティストの作品が展示される。会場となる岡山市内には岡山城や後楽園といった歴史文化施設のほかにも、屋外常設作品A&Cや建築家とアーティストによる共同設計の宿泊施設A&Aが点在する。  2016年に開催された第一回岡山芸術交流は、リレーショナル・アートの第一人者として知られるリアム・ギリックがアーティスティック・ディレクターを務

          岡山芸術交流2019 《IF THE SNAKE/もし蛇が》

          あいちトリエンナーレ2019-nowhere/now here, Y/Our-

          レビューを始める前に-都市再考- あいちトリエンナーレは愛知県名古屋市を中心に2010年より3年に一度開催されている地方芸術祭であり、4回目にあたる今回は国内外からアーティストを招聘し、大々的な国際現代芸術展の様相を呈す。地方芸術祭という言葉を使用したが、「あいちトリエンナーレ」をその枠に入れ込むのには少し抵抗がある。  「地方」とは一般的には東京都、もしくは首都圏以外を指す言葉であるが、会場となる名古屋市と豊田市は愛知県内における人口ランキングでは上位2つの都市であり、名古

          あいちトリエンナーレ2019-nowhere/now here, Y/Our-

          Reborn-Art Festival 2019

          Reborn Art Festival(以下RAF)は、宮城県石巻市を中心に2017年から開催されている、アート、食、音楽の総合芸術祭である。今回は「いのちのてざわり」を全体のテーマとし、石巻市街地から牡鹿半島までの7つのエリアで開催され、各エリアに一組のキュレーターを配置し、7つのテーマ展が展開される様式となっている。  RAFは、2011年3月11日に起こった東日本大震災の被災地での開催という点で、他の地方芸術祭とは性格が異なる。  このテキストでは、鑑賞時(8/12,1

          Reborn-Art Festival 2019