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男やもめに蛆が湧く_孫から思う祖父の孤独

男やもめに蛆が湧き、女やもめに花が咲く

妻を失った男や一人暮らしの男は不精で不潔な環境にあるのに対し、夫を失った女や一人暮らしの女は身綺麗で華やかであること。
(参照: http://kotowaza-allguide.com/o/otokoyamomeniuji.html)

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2、3年前に祖母が倒れて入院してから、祖父は一人暮らしだ。
御年85くらいの立派な爺さんである。

最近の口癖は「料理教室に通いなさい」
恋人の「こ」の字も出てこない23歳の孫(私)を思って、
遠回しにアピールをしてくる爺。
「料理上手な人と付き合いますので〜!」
と悪態をつき続けて、それとなく回避している。

それでも爺をはじめ家族のことは好きだから、
今年の年末年始も地元に帰っている。

帰省と書いて掃除と読む

一人暮らしの爺の家は正直言って汚れている。
物の整理整頓はできているが水回りの掃除ができないので、
一見綺麗にしまってあるコップを見ると
どこから湧いたのかわからない汚れが頑固にこびりついている。
家が全体的にザラザラ、ベタベタしている。

当然、私が使える(清潔な)家財道具はないので、
掃除から始まると言った具合だ。

トイレ、キッチン、お風呂、寝室
自分が使う皿や、コップ、全てを磨いてやっとひと段落。

爺と私の衛生的と感じる基準は違って当然なのだから、
私が勝手に掃除をしているだけで、これは文句とか愚痴とかではない。
(整理整頓された清潔な実家像に憧れはあるが)

それよりも、私はこの男やもめに蛆が湧きかけている(実際にはまだ湧いてない)祖父を見て、やるせない気持ちになった。

一家の大黒柱、家の柱を腐らせる

かつては、妻(祖母)と子供二人(私の母と叔父)を養い、
日本の高度経済成長期を支えてきた爺(と思う)であったが、
男やもめの今、水漏れに気づかず家の柱を1本黒く腐食させてしまった。

いつも使わない部屋だったから、仕方ないことなのかもしれないなと思いつつ
祖母だったら、定期的に掃除していたからきっと気づいていただろうなと思う。

キッチンシンクの排水溝をのぞくと、
今までの生活排水が地層のように堆積していた。
(脳梗塞で倒れた時の祖母の吐瀉物みたいだなと思いながら掃除した。)

これは、ただの怠惰な性格とかではなく
「そもそも知らない」からこそ起きてしまったのだろうと思う。

ずっと家の外で働いて、家のことは全て妻(綺麗好き)に任せていた祖父は、
家事を知らないまま、一人暮らしの85歳になってしまったのではないか。

人間が暮らすとどんな汚れが出てきて、
そのためにどのタイミングでどのように掃除すればいいのか、
知らないのかもしれない。

「多少汚れていても良い」と祖父は言い張るが、
祖母が継続してくれていたかつての清潔な空間を知っているはずだ。

85年という歳月、私には容易に想像し難いからわからないけど、
今更、家事に関して習慣を変えるとか、新しいことを始めるとか難しいんだろうか。

祖父の孤独と衛生観念

祖父はここ数年、孤独だ。
妻は入院中、子供2人は忙しくてなかなか会えず、
コロナで地域の寄り合いもすっかり開かれなくなり、
最近は喋るタイプのIHコンロに返事するくらいしか会話が無いと言っている祖父。

スマホはおろか、ガラケーも持っていないので、
情報源はテレビと新聞。あと、コミュニケーションツールは固定電話。

「孤独にはもう慣れた」というが、
「テレビ見てダラダラしてると歳をとる」とも言っていた。

祖父は社会的な関わりが絶たれてしまったからこそ、
この家事(特に掃除)に関して疎かになってしまったというのもあるのだろうか。

「お掃除教室」があるなら、
冒頭の「料理教室」への嫌味ではなく、本当に通っていただきたい。

きっと、孤独で家事がままならない実家問題って
うちだけではなく、この世にもうそれはたくさんあるんだろうなと思う。

特別、他者の支援が必要では無いけど、明らかにゆっくりと蝕まれている感じ。
本人は問題ないと思っていても、周囲が違和感を感じるような問題。

男やもめに蛆が湧き、おそらく女やもめも蛆が湧く
というか、孤独に蛆が湧く?

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