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決して交わることのない2人

手の届く距離に。
目の前にいる。
それなのに交わることはない。

知ったつもりになることは簡単だ。
「こうでしょ」「こっちの方がいいよ」
勝手に全部を知ったかのように
我が物顔でああだこうだと。

集団の中に紛れているうちは騙せる。
私は怪盗カメレオンなんて心の中でおどけてみせる。
ベールがなくなった時の悲惨さを知らないフリをするように。

同じ地球上で、同じ時代の中で、
同じように息をし、生活する。

けれど、ここまで味わってきた時間は、
決して同じ意味を持つことはない。

それは、陸上選手の1秒の重さと大学生の1秒の
重みが違うように、決定的に。


小さい頃はどんな人とも仲良くなりたいと思ったし、
できると信じて疑わなかった。

自分にはないものを持っているのが他者だから、
(自分と一緒の存在なんて、おこがましく気持ち悪い)
全てを吸収して、自分の糧にしてやろうと。

思えばきっと自分は傲慢だった。

1番身近にいる家族とだって、永遠には一緒にいることはないし
全て同じ経験をすることもできないのに、
他者のことを全て理解できると思っていたなんて。

今になって思えば
傲慢は、きっと希望の裏側いた。

自分の仲のいい人なら、「自分のために」行動してくれる。
自己都合の、世界がまるで自分のステージであるように
考えていたし、そのように行動していた。

正気だと思っていた自分は狂気に埋もれていたのかも
そう見えていたのかと思う。

悲しいことがあれば悲劇のヒロインに。
喜ばしいことがあれば物語の主人公に。

この世界に、住んでいる小さな町でさえ、
自分以外の人がいて、それぞれがそれぞれの
ストーリーを生きているのにそれらすべてを飲み込んだ。

まるで人間世界を全て我が物にしようと侵略する魔王だ。

魔王と勇者だって交わることはない。
同じ世界に存在しているのに。

魔王と勇者じゃ根本的に求めているものが違う?

魔王はきっと孤独だ。
その孤独が苦しくて
同じ立場で気を遣うことがない関係を
探していただけかもしれない。
(こう考えるのも傲慢か?)

しかし、勇者と語り合うことなく殺しあう。

それは魔王側が先に殺し始めたからだと言うかもしれない。
悲しいことに、どんな世界であっても同じレベル(人間性)
出なくては渡り合えないものなのだ。

つまりは、魔王自身と同レベルの人を見つけるための
ダウジングとなっているのだ。

レベルが離れていては、
相手にもしないし、しない。

シビアな世界だ。


現世も同じようなものだ。

同程度の立場でなければ出会うこともなく
出会ってもその場で関係が終わってしまう。

小さい頃に描いて図とは、随分違った未来だ。

一歩一歩、歩み寄る。
それが同じ道の上かはわからない。
それでも諦めた瞬間に終わることを知っているから
今日もまた1日を刻む。

こんなひび割れた世界で、今日も二人はすれ違っていく。
いつか交わる日常を胸に抱きながら。

ここまで読んでいただきありがとうございます。 本と友達になります。