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「月ノさんのノート」(月ノ美兎)

※本記事の前半部分は本作のネタバレを含みません。後半、ネタバレが始まる前には厳重に注意喚起をしているので安心して読み進めてください。

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・あれは今からおよそ4か月前、2020年11月8日に、バーチャルYoutuber月ノ美兎さんのYoutubeチャンネルで配信された、オンラインゲーム「Fall Guys」の実況配信中のことであった。ゲームの待機画面に移ったとき、このチャンネルの配信主である月ノ美兎さんは、何の前触れもなくいきなり告知をし始めた。


『さかのぼること、1年ちょい前。私(わたくし)は...ッスー...ある、仕事の案件が来ました。それは...ッスーー......「月ノ美兎さん、本を出しませんか?」と。「エッセイを出しませんか?」と。という話が来ました。で私、「アOKでぇ~す」って言いました。』


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・時は戻り、現在。2021年3月1日。


・まったくよォ、バーチャルYoutuberのエッセイ本の感想が書ける日が来るなんてさあ!!!!!!!!!


・”バーチャルYoutuberのエッセイ本”よ???やばない??????バーチャルなのか現実なのかどっちなんだい。
・インターネット王国における公用語のルールでは、感嘆符と疑問符の数=感情の本気(まじ)度であるので、私の興奮は十分に伝わったと思う。


・このエッセイの著者、月ノ美兎(つきのみと)さんは、バーチャルライバープロジェクト「にじさんじ」に所属する人気バーチャルYoutuber。
・2018年2月から活動を開始。現在までの3年間、かなりマメにチャンネルの更新が続いており、現在のチャンネル登録者数は70万人を超える。


・ゲーム実況と雑談配信が主要な作品コンテンツで、ゲーム実況においては、インターネットの裏側にフジツボのごとく張り付いていたであろうわけのわからないゲームを目ざとく見つけては引き剥がしてきて配信したり、いわゆるギャルゲー配信の際には、ヒロインの匂いを嗅ぐ、”吸う”、無いセリフを勝手にしゃべり始めるなどの奇行を重ねたりしており、これまでアップしたゲーム実況動画はいずれも多くの好評価を得ている。なんでこの結論になった?書いてて感覚がバグってきた。


・雑談配信においては、なぜか画面のギミックが凝っていることが多い。雑談配信だからラジオのように耳だけ向けていれば良いだろうと思っていたら大間違いである。月ノ美兎さんの雑談配信の扉を開けたが最後、視聴者は彼女の丁寧かつ周到な事前準備から生み出される、スクラムを組んだオモロと狂いの筋肉によって数時間はインターネットに閉じ込められる。君の叫び声はコメント欄の濁流に流され、現実世界の誰にも届くことは無い。


・ゲーム実況と雑談配信以外にも、他のバーチャルYoutuberとのコラボや、歌配信など様々なコンテンツでチャンネルを更新されており、その幅の広さも人気の秘訣である。


・そんな、いまや押しも押されぬ人気バーチャルYoutuberの月ノ美兎さんが、今回、日々の思いをつづった初のエッセイを出版され、2021年3月1日の本日、満を持して発売された。

「月ノさんのノート」というタイトルには、著者である月ノ美兎さん以外の第三者の存在を予感させる。


・実は本作は、現在高校2年生である月ノ美兎さんが、学校で使っている「なんでもノート」を校内で落としてしまい、読者は落し物コーナーに届けられていたそのノートを、彼女に返す前にこっそり読んでしまう...というコンカフェ顔負けのコンセプトに基づいてデザインされている。


・それゆえに、本作は授業で使うようなキャンパスノートそっくりの装丁がされている。とりあえず実物を見てほしい。

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良(よ)!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



・インターネット王国における公用語のルールでは、感嘆符の数=感情の本気(まじ)度であるので、私の興奮は十分に伝わったと思う。


・エッセイは、月ノ美兎さんがまだバーチャルYouTuberとしての活動を始められる前の時代の話からスタートする。1人のオタクとして、オタクの活動の中で考えていたこと。配信の面白さに触れたきっかけとなった出来事など、これぞまさにエッセイというべき、日常の中の様々な場面の”切り抜き”が全5章、計14話にわたってつづられている。


・これはバーチャルYouTuberに限った文化ではないと思うけれど、にじさんじのバーチャルYouTubeたちは、よくファンたちによって配信動画を「切り抜き」される。
・月ノ美兎さんの配信に限った話をすれば、月ノ美兎さんの配信は、ゲーム実況であれ雑談配信であれ、1回あたりの配信時間は通常、短くても1時間、長ければ4時間を超えることもある。
・その長い配信動画の中で、特に見どころとなるような名言(迷言)が出たシーン、良いリアクションが出たシーンだけをつなぎ合わせて、数分~十数分程度に加工した動画が「切り抜き」だ。


・配信初期のころには特に、月ノ美兎さんご自身でも「10分でわかる月ノ美兎」というシリーズの切り抜きを作成されていた。


・切り抜き動画はそのバーチャルYouTuberの配信上での魅力のエッセンスが詰まっていて、まるでフルコースの料理を順番に提供されるのではなく、一口サイズずつをワンプレートに全部載せて一気に提供されるような心地がする。切り抜き動画を観ると、前後関係や全体像が気になって、ついついその切り抜き元となった動画も全部観たくなってしまう。


・本作のエッセイは、月ノ美兎さんの日常の切り抜きである。動画で観られる切り抜きと違うところは、まずは動画配信外の月ノ美兎さんの姿、さらには月ノ美兎さんが「月ノ美兎」になる以前の彼女の姿が切り抜かれていること。そして、起こった”事実”に対して、月ノ美兎さんが本人の言葉でその時の心情を丁寧にテキストによって補足されていることだ。


・動画の切り抜きでできる補足としては、起こった事実(配信動画)に対して字幕をつけたり、画面にエフェクトをかけたり効果音をつけたりして強調するくらいである。しかしテキストは、いったん事実を一時停止し、自分の言葉を間に挟むことができる。補足情報であれ、ツッコミであれ、これこそが音も色もないテキストという媒体を華やかに彩る。


・本作は、月ノ美兎さんの楽しい日常のスケッチが、月ノ美兎さんご自身のユニークな文体の装飾によって色づけられ、読んでいて全く飽きがこない。それどころか、”何気ない日常生活”という切り抜きのチョイスや、ところどころ「あなたはどうですか?」と語りかけるような文体が、読者である私の生活にも、アンテナを張ればこんな体験に出会える機会があるのではないかと、私自身の日常をも色づけてくれた。(とても”何気ない日常”とは言えない波乱な体験も書かれているけれど、そこは「デルトラ・クエスト」の冒険譚でも読むつもりで楽しく読んでいただきたい)


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以下、本作の本文の内容に関する感想を書きます。要はネタバレです。

・まだ本作を読まれていない方は、ぜひ、本作を読んでからご覧になることをおすすめします!!

・月ノ美兎さんについてよく知らない、という方は、ぜひ、月ノ美兎さんのチャンネルから動画をご覧になってみてください!


・じゃあ書きますよ!!!ネタバレを含む読書感想文を!!!!!




・ネタが!!!バレますよ!!!!!!!!





・いいのね???????????





・このリンクから買えるよ??????????(Kindle版も出ているよ)


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・これくらい注意喚起しておけば良いだろう。
・以下、内容に関する感想を書きます。


・冒頭で出てくる「♡かわいいもじ♡」。(※環境依存文字なので正しく出てない方向けに書くと「記号のハート」が表示されています)


・「わたくしの手書き文字」!!!これ、LINEのスタンプ(絵文字サイズの小さい方)で出してくれ~~~~~~~~~!いちから~~~~~~~~~!頼む~~~~~~~~~!


・何度か雑談配信で委員長の手書き文字を見ていて、まぁ、エッセイでもご本人が書かれているとおり、読みやすい字ではないなぁと思っていたのだけど、その考えを今日から改めます。
・字の大きさと高さがそろうだけで本当にこんなに読みやすくなるんだ!これ、普段の自分の手書き文字においても同じことが言えそうだな。こんな発見があったなんて、この発見だけでもこのエッセイを買う価値がある。


・このエッセイ全文を読み終えた皆さん全員が思っていることを私が書きましょう。


『「わたくしの手書き文字」フォント、冒頭以外のどこにも使われてないやんけ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


・これです。みんなすっきりしたでしょう?

『みなさんも、ところどころで、このカワヨ文字をおたのしみください』

・貴重な文字数を割いて割り当てた「銅蟲」さんの表記ですら本文中と同じフォントだったのがおもしろくて笑ってしまった。さすが委員長だぜ。
・なんでエッセイなのに、ゲーム実況の時みたいな前振りからの空振りができるんだ。才 and 能だ。



・話の合間のページに差し込まれている挿絵もすごい。
・委員長の手書きのイラストであるのはわかるのだけど、線の筆跡や線の濃さが、まさしく「なんでもノート」に書いた落書きそのものという感じがする。消しゴムでなぞったらそのまま消えてしまいそうだ。まぁ、インクだって消しゴムで消えちゃうけども。私はたびたび数学の教科書のイラストを消しゴムで消して白いページにして遊んでいたよ。最悪すぎる。税金を返しなさい。


・イラストではないけれど、「1時間目」の章と「2時間目」の章の間の挿絵、めちゃめちゃ笑っちゃった。
・ちょうど私世代あたりが小学生の時に学校で流行っていた「プロフィール帳」風の自己紹介シート。各項目がかつての記憶を呼び起こした...。あれ、私の学校で流行っていたやつは普通に住所とか自宅の電話番号とか書く欄があっていま考えるとすごかった。私の実家にもいろんな友達のプロフィール帳が眠っている...。


・いまでもプロフィール帳文化ってあるのかしら。「Twitter」とか「instagram」のアカウント名を書くところがあったのが今風だなとおもったけれど、インスタで給食のプリンのフタに印字されてる番号でマウント取ってる小学生がいたらいやだな。おもしろいけど。

・え、”私世代”......?




・服を選ぶときに自意識が出てくる話、すごくわかるな。
・ただ、私はその自意識(この服を選んだ私を周りはどう見るか)についてかなりポジティブな結論をいつも出しているので、服はまぁまぁな頻度(少なくとも2か月に1回は買っている)で買うし、やや独特なデザインなものを買うこともある。


・私がポジティブな意見を持っていられるのは、私が、買った服をすぐにnoteにのせたり友達にLINEしたりして、「可愛いね」「おしゃれだね」と日常的に言われているからだと思う。良い友達を持ったねほんとうに...。みんないつもありがとう...。
・私は服装は人間性の一番外側だと思う。自分の趣味と近い服装をしている人を見かけると、なんとなく気が合いそうだという気がするし、逆にそうでない人と接するときには、この人はどういう考えの人なんだろうと、興味を持ちながらも、その人にとっての地雷を探るところから始めてしまう。


・委員長が服にあんまり執着しないという話は、けっこう前に楓ちゃんの配信でも語られていた。楓ちゃんと委員長が一緒に服を買いに行った時の話。
・私はその話を最初に聞いた時、出来事どおりに、委員長は服にあんまり執着しないんだなと思ったけれど、このエッセイを読んで改めて、服に執着が無いのではなくて、周りからの評価というものに対しての執着が強いのだなと思った。執着とはちょっと言葉が違うのかもしれないけど。


・自分が他人に向けている眼を自分に向ける瞬間って、ふとしているとなかなか気づけないものではないかな。自分のつけている香水の匂いにだんだんと慣れていくにつれて香水の匂いを強くしていき、最終的には他人に迷惑をかけてしまうレベルになってしまうがごとく、私も、自分が外部に向けている槍にはついつい灯台下暗しとなってしまう。


・委員長はそこに、ファッションという鏡を通して気づいたんだ。さすが委員長(委員長について語るとき、シメの言葉が全部これになってしまう。)



・最後に、「臆病者に恵みの草を」で書かれていた、第三者の反応について。
・私は学生時代まで、音楽一本でやってきた。演奏することで自分を表現して、拍手を受けることで自分を受け入れてきた。


・クラシック音楽を専攻していたけれど、ひとくちにクラシック音楽と言っても、モーツァルトやベートーヴェンが作曲したような、誰にでも一定の人気を誇る作品から、クセナキスやジョリヴェのように、ひとクセもふたクセもある、いや、クセというには個性が強烈すぎる作品もある。


・一見して(一聴してと言うべきか)難解な作品は、演奏しながら客席の表情をうかがっても、なんだかパッとしない無表情だったり、怪訝な顔をされることも少なくない。
・それに比べて、いわゆる耳馴染みの良い、もっと俗っぽい言い方をすれば「わかりやすい綺麗な曲」は、客席も朗らかな表情に包まれることが多い。


・客席の表情で音楽の価値が決まることはないけれど、「笑顔」は最もわかりやすく、かつ人間の原始的な部分に作用している好反応の一種だ。演奏者側の意見からすれば、難解な作品を苦労して演奏して、それが聴衆に受け入れられたときの快感もあるけども、それには演奏者と聴衆の、演奏後の密なコミュニケーションがあってこそ成り立つ。


・委員長の普段の配信は、配信者とリスナーのコミュニケーション手段はコメント欄とスパチャに限られている。
・私たちがもっとも手軽に委員長からのコールに対してレスポンスするには、やはり本人がエッセイで書いている通り、光の速さで魔法の4文字を、「草(kusa)」を打ち込んでコメント欄を草原にすることだ。


・私はこれからも委員長の配信を楽しみに待つ。そしてここぞというコールが来たならば、すかさず指を走らせて賞賛と敬意、応援と笑いを含めた「草」を送るだろう。

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