見出し画像

ちがいをちからに、を掲げる渋谷区が「イノベーションラボ」をつくる理由

 イノベーション・創造・共創・ダイバーシティー。なぜいまこんなにも必要性が叫ばれているのでしょうか?
 渋谷区では、新しい価値観や眼差しを見つけ出し、共に実践していくために小さな実験を繰り返す実験の場『Shibuya Scramble Lab(仮称)』を検討しています。
 なぜ行政が実験の場をつくる必要があるのか。イノベーションラボとは何なのか?これからの社会において、行政が担っていく役割は何か?
 このnoteでは、Shibuya Scramble Labの2021年初期の検討と、目指す未来についてお伝えします。

なぜ行政でイノベーションラボなのか? 

 ①公的機関が対処することのできない「厄介な問題」

 現代の社会は、複雑性が高くあらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が難しい「VUCA」な時代であると言われています。
 これらの複雑な背景によってもたらされる問題は厄介な問題(WickedProbelem)と呼ばれており、様々な分野にまたがって影響する社会に存在する正解のない解決困難な問題であり、公的機関が対応しなければならない場面も多くあります。
 現状の行政の文化である計画主義は、巨大な計画を練り上げ効率的に運用していくガバナンスです。そのため、①部署ごとの分断により、全体的な理解や解決方法を生み出すことが難しかったり、②プロセスが決まっていない計画に対して予算をつけられなかったりするため、(正しいか分からない)問とプロセスを決め打ちするしかなく、 厄介な問題に対処することが困難となっています。
 答えありきで業務が決まるため、不確実で新しいことを試す余白がない計画外の行動はルールを破ることとなり、時間と予算をつけられず、周りからの賛同も得られません。社会の状況は刻一刻と状況が変化するため、プロジェクト初期で定義していた課題の諸条件や関係性が計画や実行段階の途中で変わってしまいます。そのため、複雑でコストのかかる大規模なプロジェクトをしっかりと考え抜いた上で実行しても、実行する頃にはうまく行かなくなってしまうことも多いという訳です。

 ②ポスト計画主義

 複雑な要因からなる大きな課題に立ち向かうためには、計画主義を超えていく体制を作ることが重要です。行政府が普段の業務に加えて社会課題に取り組んでいくためには、住民・企業・NPO・アカデミア(大学)などと連携をとりながら、別の体制で動くことのできる場≒イノベーションラボが重要となってくるのです。

Topics①-行政が直面する課題  
 イノベーションの対象は社会課題の解決、産業創出、住民の生活の向上、 政策、行政府自体の変革など多岐にわたる。

Topics②-イノベーションラボの特徴
  ラボによって特徴は異なるが、通常の行政府では行いづらいセクター間の共創、実験、住民の積極的関与、未来想像、デザイン/テクノロジー/データの扱いに自覚的であるところが多い。


 ③実験文化の醸成

 イノベーションラボでは、政策のアイデアやイノベーションを実現するため、アイデア開発とプロトタイピングの作成を行います。
 例えば、調査で得られた住民への発見をもとに、潜在的な想いや未来志向の問いを設定したり、HCI(Human Computer Interaction)、データサイエンス、行動経済学、心理学などの比較的新しい分野の実験手法を試したりします。
 また、デザイン思考的なアプローチにおけるプロトタイピングは、小さな実験を繰り返しながら検証していくことでアイデアの精度を上げていき、実装段階への不確実性を小さくしていくことができます。
  しかし、プロトタイピングを用いたプロセスは、公的機関に根付く計画主義やその文化(目的・効率・予測可能性)と相性が悪いのです。なぜならば、プロトタイピングを反復することは小さな失敗をも繰り返すことであるからです。
 市民に対して責任を負いながら「信頼性」を重視する文化では、徹底的に検討してから施策の実装を行います。このような特徴は、成功の可否は実装後までわからず、たとえ失敗していても大きな軌道修正を行うことが難しいともいえます。つまり、短期的な失敗を防ぐという意味では有効ですが、長期的にアップデートしていくことができないのです。
 小さく実験して失敗できる安全な場所としてイノベーションラボを設けることが、アイデアを試したり、住民からのフィードバックを行うことに繋がり、最終的なプロジェクトを成功させる機会へとつなげます。

 ④行政文化の改革

 持続的に取り組みを行っていくためには行政職員を巻き込み、経験を重ねていくことで組織文化を変えていく必要があります。通常、行政には無謬性、つまり失敗が許されない文化が根付いています。
 これは、目先の失敗は防げるかも知れないが、つまり何もしてないことと紙一重でもあります。  前述のように、複雑で状況が変化し続ける現代の社会では、行政職員が主体的に課題に対して取り組まなければなりません。そのためには、行政職員の内的な動機を育むことが非常に重要です。
 政治的な損得だけではなく、本人が本来持っている想いやヴィジョンの滋養・クリエイティビティをイノベーションラボとの関わりの中で育んでいくことができます。外注先に責務や業務内容を頼り切るのではなく、公務員自身が変革の主体となることで行政文化が変化していく、イノベーションラボはそのための媒体となります。

海外の潮流: イノベーション ・住民×イノベーションのあり方、参加の方法

 
 日本では前例のないイノベーションラボ。海外ではさまざまな形で実装されています。

海外の事例を見ると、イノベーションラボのあり方は行政のあり方と共にシフトしています。出来上がった政策を浸透させる旧来の方向から、市民や当事者と政策やサービスをともに作る方向への変化や、新しい手法やアプローチなどにより政策立案そのものを革新していくやり方がラボを通じて行われています。
多様なステークホルダーとともに、都市や公共空間で実証実験を行うラボが多いのもその一つの特徴です。

取り組むテーマにおいても、より市民のニーズを満たすためのサービスを設計・提供するラボや、貧困などの特定課題に取り組むラボなど、人間中心デザインのアプローチが増えてきていることがわかります。

そして、海外のラボの分析により見えてきた共通点や、渋谷区に活かすべきポイントをまとめました。

このポイントを踏まえて、どう「渋谷ならでは」のラボを実現させていくか。実証を繰り返しながら具体化させていく道のりが始まりました。

ここまでなにをしてきたかーShibuya Scramble Labのあゆみ 

Shibuya Scramble Labでは、意義を組み立てることから始まり、初年度の実証として、フードロスというテーマを策定するところから募集・実施と振り返りを行ってきました。

① 想いや課題を可視化:1on1インタビュー

 まずはじめに、関わるメンバーそれぞれの想いの一致している部分、一致していない部分をまとめて共通のビジョン、対話が必要な部分を洗い出しました。

②ラボメンバー自身が渋谷で目指す姿を想像する

 次に、行政主導・市民主導・企業主導の三角形モデリングと、機能およびアウトカムのイメージを宿題形式で記入。各ステークホルダーの考え方をベースにラボのあるべき姿の対話を行いました。

③ラボのオペレーションモデルのパターンを比較

 住民・企業・行政・アカデミアなどの関わり方をモデル化し、対話により認識を合わせました

④何を実験し、学びたいのか?を絞り込む

 ラボを始めるにあたりリスクの高い仮説と、何を学ぶのか?を定義し、立ち上げ時にやらねばならないことの絞り込みをおこないました。

⑤個々人の内的探究から問いを立てる

 住民主体の課題解決の前に、ラボ自体が一定の問いを立てることで、リサーチの工程に進むことができる。 ラボメンバー各人の内的な探究したいテーマを強制発想することによる、リサーチクエスチョンの形成のワークを行いました。

⑥食生活とロスにまつわる住民インタビュー

 食への意識の高低 / 子育て世代 のセグメントにデプスインタビューを実施しました

⑦インタビューデータを分析し、 4つの未来シナリオに落とし込む


以上のリサーチやシナリオを基に、パイロットプログラム「Shibuya Foodloss Challenge」を公募・実施しました。

プログラムは全てオンラインで開催され、高校生から社会人までの職種もさまざまな約20名の参加者がチームに別れ、1ヶ月弱の期間で解決したい課題の抽出・問いの設定・アイデアのプレゼンテーションを行いました。

プログラムの実施後も継続してプロジェクトを実施する参加者が生まれるなど、ラボの今後を考えていくうえでの重要な起点となりました。

Shibuya Scranble Labが目指す未来

わたしたちが目指したい未来を、ミッションとして言葉にしました。

そしてわたしたちが起こしたいイノベーションについても、対話を繰り返しました。

行政の役割はイノベーションの土壌をつくることであり、行政がコアにならなければ、イノベーションの土壌はつくれない。 行政で扱っている社会課題のデータ、住民の人との接点  ラボと公的課題を接続し、行政職員が「こうしたい」「こんなのできるかも?」を持ちながら推進することが重要になります。

ちがいをちからに、その先へ

 ここまで、「なぜ行政でイノベーションラボをつくる必要があるのか」ということを海外のラボの潮流も併せてお話しし、「Shibuya Scranble Lab」がここまでなにをしてきて、これから何を目指すのかについてお伝えしました。
 まさに考えていくプロセスそのものも実験。その中で、わたしたちは何をつくりだすことができるのか。小さな挑戦と失敗を重ね、ラボに関わるそれぞれの想いが形になっていくとき初めて「Shibuya Scramble Lab」は形になり、変革への道が拓けます。

 現在も、実験を繰り返しながら「Shibuya Scramble Lab」はそのあり方を探しています。実証・行政変容・中長期構想といった観点からそれぞれ異なるアプローチで未来を描き、その接続を行いながら進めています。

 次回からは、関わるメンバーの想いやラボへの期待についてご紹介します。

構成:一般社団法人 公共とデザイン
編集:Shibuya Scranble Lab

※取り組みに関わりたい企業やNPO、技術者などの方はこちらまで連絡ください。
shibuyascramblelab@gmail.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?