七味屋 将

好きな作家は吉本ばなな、江國香織、山田詠美、朝吹真理子。 真夜中にはラーメンを、朝食に…

七味屋 将

好きな作家は吉本ばなな、江國香織、山田詠美、朝吹真理子。 真夜中にはラーメンを、朝食には美味しいコーヒーとクロワッサンを食べたい。

マガジン

最近の記事

5,6月は過去の作品の手直しとあとがき付け作業にあてるため新規作品の投稿はお休みです。創作大賞に向けても書き始めます。7月に投稿予定です! 僕のGWは先日で終わり、残りは仕事です。そのなかでも銭湯行こうとか楽しみを見つけて過ごします。皆さんも新緑の季節を健やかに過ごせますように

    • 【短編小説】 野球と映画

      「今日のまかないは何を食べてるのでしょうか」 「いきなり撮るなよ」 「撮ってもいいって約束じゃん」 「事前に声かけろって言ってんの。常識なさすぎ」 「次からは気をつけまーす。ほら、食べ続けて」  江崎はいつも休憩時間中にiPhoneのカメラを安田に向ける。江崎が大学で映画サークルに入っていること、現代を象徴する生活必需品になったスマホを使って何気ない日常を何気なしに繋げ合わせたドキュメンタリー映画を撮りたいのだということ、そしていまはシーンを撮り溜めている段階で文化祭での上映

      • 【短編小説】 小人と書斎

         生活を形容する際に生きるという言葉を使ってしまうとその響きにはどこか逞しさが滲んでしまうからそんな上向きな言葉はそぐわない。だからどちらかというと生き長らえているという言葉の方がふさわしい気がするのだけれども、そもそも生という字体を用いた表現自体が似つかわしくない。もっと無機質的な響きを求めて、そうだ、維持がいいという気にはなったのだけれども、そう思ったとしてどうだろうか。  維持を目的にすることは緩やかに死んでいくということに他ならない。法則としてこの世界には重力が存在す

        • 【短編小説】 猫と日記

           数週間前から日記を書いてます。でもそれは私の些細な毎日の記録ではなくて観察日記です。同棲中の彼氏が実は猫化しています。もともと極度の猫背ではあったのだけれど、本当に猫になるとは…驚いています。何かのメタファーとかじゃなくて、毛が生えてきて、耳が生えてきて、尻尾が生えてきて、昨日は四足歩行で歩いていました。あくびの代わりにニャーと鳴きました。  今日は夜ご飯にポトフを2人で食べています。これも元々が猫舌だったから食べるのが遅いのに変わりはないけど、最近できた肉球が邪魔でスプー

        5,6月は過去の作品の手直しとあとがき付け作業にあてるため新規作品の投稿はお休みです。創作大賞に向けても書き始めます。7月に投稿予定です! 僕のGWは先日で終わり、残りは仕事です。そのなかでも銭湯行こうとか楽しみを見つけて過ごします。皆さんも新緑の季節を健やかに過ごせますように

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        • wake me up
          4本
        • シャルマンノウラ
          4本
        • 逆光
          4本
        • 雪の降る街
          5本
        • 4th Album
          7本
        • 雨の日はいつだって
          5本

        記事

          【短編小説】 周回軌道上の恋人

           地球の周回軌道上を時速28,000㎞のスピードで飛来するデブリを小型の宇宙船で回収する。それがスペースコロニーに生まれ育った僕に与えられた仕事だ。  第五次宇宙開拓期と呼ばれる時代に旧世界各国が無規制を言い訳の盾に打ち上げた衛星の化石たち、資源開発特区の月から流れ出る産業廃棄物、コロニーから排出される生活ごみ。そんな有象無象のデブリたちは地球の高度数千キロ上の高速軌道に乗り周遊している。一部のガラクタたちは巨大なデブリベルトの軌道をそれて引力の作用で大気圏へと落下して燃焼す

          【短編小説】 周回軌道上の恋人

          【短歌】 ローカルシアターにて

          注がれるポップコーンは彗星の成れの果てだと嘯くバイト 将来は主演男優賞を獲る 嘯くバイトにキャップが似合う 期待値と反比例する物質の薄さ空席上のフライヤー 開演のブザーが鳴れば銀幕に伸びる背筋の影が蠢く 運命はあるのだろうかヒロインが燃やす導火線の先の恋 コーラへの口づけで示す哀悼 銃撃戦の末の死に様 白飛びのエンドロールに照らされて朝が来たみたいな幕引きだ    ヴィム・ヴェンダーズ監督、役所広司主演の「PERFECT DAYS」が観たくて出町柳のローカルシア

          【短歌】 ローカルシアターにて

          【短編小説】 白線を踏む

           真夜中であっても早朝であっても、私はよく歩く。それが今日みたいに休日の真昼間であったりもするから、特に時間帯のこだわりはないのだけれど、いつも歩きながら頭をよぎるのはかつてそこにあった光だ。  たとえば陽のあたる時間には繁華街に煌めいていたネオンサインや往来していた人たちの熱気を、そしてそんな喧騒から逃れるように大通りを逸れて歩き辿り着いたマンション街の窓から漏れる生活の光なんかを。  月だってそう、真夜中にはあれほどまでに心を惹きつけるのに、太陽のもとでは透明な存在として

          【短編小説】 白線を踏む

          【短編小説】 カフェと火照り

           社会生活を遂行することがこんなにも難しいことだとは思わなかった。自身のキャリアを選択する際に人生の大きな決断を下した。そうして一世一代の覚悟を持って入社した会社には結局長くは勤めなかった。それからはバランスを崩したままの日々が続いている。  夜が明けて容赦なく朝がやってくる毎日。その日常のなかでやらなければいけないことだけが増えていく気がする。別に意地の悪い人が職場にいるわけでもないし、残業があるわけでもない。だけども処理しきれない書類がデスクに積み上がっていき、返せていな

          【短編小説】 カフェと火照り

          【エッセイ】 自分と世界の境界線

           2024年、1月。歯が痛み出して歯医者に駆け込んだ。歯医者は人一倍苦手だ。痛いのも嫌だし、そもそもあの機械音はなんであんなに恐怖心を煽るのだろう。  「口、開けてください」と言われて、「優しくしてくださいね」とお願いする。隣では男の子がおとなしくしているのに、いい大人が情けないのはわかっている。マスクで表情を隠した衛生士さんがちゃんと呆れていることをその視線から察する。「早く口、開けてください」と催促されて渋々口を開ける。口の中に何かが入り込んで歯や歯茎に触れる。こうやって

          【エッセイ】 自分と世界の境界線

          【短歌】3月を迎える

           最近、海を見に出かけた。ぼやけて霞む空や拡散される陽気に春っぽくなったなって思ってたら、まだちゃんと冬で、その最後の意地のような寒さに負けて風邪を引いた。2日間海を眺めて、3日間くらい寝込んだ。そんなスピード感で生活をしている。熱に浮かされている間はずっと煮込みうどんを食べていたから、元気になった今は噛みごたえがある分厚いお肉が食べたい。冬の終わりには季節との別れを惜しむ儀式として、コートのポケットの中の缶コーヒーで暖をとりながら街を歩く。春になったらお気に入りのシャツを着

          【短歌】3月を迎える

          【短編小説】国道とロードレーサー

           息を思い切り吸うために空を見上げれば天井知らずの青が広がっていて、吸い込んだ空気の涼しさが季節の移り変わりを教えてくれる。吸っては吐いて、また肺を膨らましては血を巡らす。上体を屈めて腕に込めた力でグリップハンドルを握り、腰をサドルから浮かしてペダルを踏み込めば、その瞬間、風の抵抗が強まって、視線の先のアスファルトが加速して流れていく。ゴールまでの距離は残りおよそ500mで、田園地帯を貫く直線だ。陸斗はゴーグル越しの視線の隅ですぐ後ろをつけている大河をみやる。笑ってやがる、ム

          【短編小説】国道とロードレーサー

          【短編小説】 音楽室と校舎裏

           春の校舎裏はきっといまここでカメラのシャッターを押せば白飛びしてしまうほどに眩しくて、暖かな陽気を引き連れてそこに存在している。それでも誰にも見つけられないまま、生徒も教職員も正門側に咲くソメイヨシノばかりに浮き足が立ってしまっていて、こちら側は見向きもされない。3階に配置された第2音楽室の窓からはそんな喧騒に置いていかれた空間だけが切り取られて見える。  とはいうものの、ここだってそうは変わらない。花形の吹奏楽部の練習場所には別棟にある広い第1音楽室が割り当てられていて、

          【短編小説】 音楽室と校舎裏

          【短編小説】 柔らかな

           柔らかな毛布に包まれて眠る。それ以上の幸せを私は知らない。知らないだけだよって君はいうけど、本当にそれ以上の幸福があるの? あるなら教えて欲しいと甘えてみれば浅い眠りの狭間、波打ち際を歩くように微睡みながら朝、目が覚める。   カーテンの隙間から光が差し込んでいる。その光を見ただけで叩いて引き伸ばした金属板のように滑らかな空を思い浮かべることができて、それはなんだか大気圏も連想させて、薄くなればなるほど澄んでいく空気の感触を匂わせている。彗星はそんななかで燃焼していずれは燃

          【短編小説】 柔らかな

          【短編小説】記録:トマトパスタ

           カレーの予定だったけどルゥを買い忘れたから豚汁にしたよ。えぇ、カレーの口だったのになぁ。そんなふうに文句を垂れてもそれはそれで美味しくて、やっぱり日本人には味噌だね。なんて、そんな調子のいつかの会話というかシーンが浮かぶ。そういうラフさが好きだったし、いまでも好きだ。  遠い土地に来たとしてもキッチンに立てば地に足がついたような気がして、根無し草な生活を送っている僕もそんな時間だけは心を落ち着かせることができる。そこがたとえ北国であっても南国であっても、スラムの一角のボロ宿

          【短編小説】記録:トマトパスタ

          【短編小説】三日月と餃子

           ぽっかり空いた心の穴のような空洞。そんな三日月になんだか手が届くような気がして窓を開けてみたけれど、触れることができたのは12月の外気だけだった。眠れない夜には外に出よう。地方都市の郊外にはクラブや小洒落たバーみたいに退屈を潰せるところはないけれど、自転車で5分ほどのところには24時間営業のスーパーマーケットがある。いつものように小瀬くんにメッセージを送ってみる。 【いまから○○マーケットに集合ね。餃子作ろう!】  熊が敬礼したスタンプがすぐに返ってくる。ダウンジャケットを

          【短編小説】三日月と餃子

          文鳥【6】

          【6】  年の瀬が迫った冬休みのあの日。その日は珍しく一日中空いていて、久しぶりに部屋でチヨ吉を鳥かごからだして手乗りの訓練をして遊ぼうと予定を立てていた。朝、リビングに降りてきて鳥かごに歩み寄る。鳥かごの中のチヨ吉は止まり木から落ちて、底に転がっていた。動きはしない。チヨ吉は死んでいた。チヨ吉は病気だったのだ。チヨ吉は、リビングの開け放たれた窓から入り込む寒気にさらされて、凍りつくように息絶えたのだ。  そのときの私はなんでちゃんと世話をしてくれなかったと母親を激しく責めた

          文鳥【6】