ぼくは新入生を勧誘する

 ぼくは新入生を勧誘する。去年ぼくが中心となって立ち上げたインカレの放送サークルには、おかげさまで(?)2人の新入生が入会した。文学部の津山くんと、経済学部の三崎くんである。オリエンテーションの日に構内を歩いているところを声をかけ、9号館のラウンジに連行して活動内容を紹介し、LINE交換をして新歓コンパへおびき寄せた。完全にカルト宗教かマルチ商法の手口である。

 だが、ぼくは去年と一昨年もこれと同じようなことをやっている。今年になっての違いといえば、新入生を連行した場所が「部室棟の放送研究会の部室」ではなく「9号館のラウンジ」に変わったということだけだ。去年の12月に引退するまで、ぼくは放送研究会(大学公認団体)の現役部員だった。ぼくは現役を引退したのに新サークルを立ち上げ、放送サークル界隈にしがみついているわけだが、まあ、世の中にはそういう往生際の悪い人間が一人ぐらいいてもいいんじゃないかと思う。ぼくのファン的なひとたちはぼくの次回作を期待しているわけだし。

 ではここで、この度うちのインカレサークルに入会してくれた2人の新入生をご紹介しよう(なお、このnoteで紹介することについて本人たちには何ら許可を取っておりません!)。

 まず、文学部の津山くん。津山くんはチャラめ……というかパンク系なファッションで、放送サークル界隈的には異質なキャラだ。うちのサークルの連中からも扱いにくい感じで扱われている。まあ、ぼくは全然ふつうに付き合ってますけどね。学部も学科も同じということで、履修を組むのも手伝ってやったし、教科書も何冊か譲ってあげた。新歓コンパで「岸田政権の政策についてどう思いますか」と聞かれた時には返答に困ったが(ぼくはとりあえず「……岸田さんはあの眼鏡をどこで買ってるんだろうね?」と話題を逸らした)、ぼくはそういう一面も含めて津山くんのことを気にかけている。ただ、この子は放送には興味がなさそうなんだよな。そもそもうちのサークルに所属している自覚があるのかすら不明である。

 一方、経済学部の三崎くんは、もともと放送やイベント活動に興味を持っていた子だ。いつも先輩たちの話を熱心に聞いている。柔和で、真面目で、礼儀正しくて、物事を覚えるのが早くて、みんなから「デキる男」扱いされている。キャンパスの路上で偶然を声をかけて捕まえた(ほとんどナンパ)にしては、我ながら優秀な人材を引き当てたものだと思う。我がサークルのエリート新人として囲っておきたいところだが、先日、ぼくは三崎くんを放送研究会のほうに紹介してあげた。「兼部してみたらどう? 放研にも入ってみたら?」って感じで。それはなぜか。

 ぼくは1年生や2年生の前半の頃、サークルにおいて大事なのは活動内容だけだと思っていた。交友関係なんてどうでもいいと思っていた。放送サークルでは面白い番組を作ることが肝心なのであって、部員同士でなれ合うのは忌むべきことだと考えていたのだ。実際、2年生の春の番組発表会の打ち上げで、当時の会長の石毛先輩がビールを飲みながら「おれはこの打ち上げのために番発をやってるんだよ。番発自体はどうでもいい(笑)」と言っているのを聞いた時、ぼくは石毛先輩のことを内心ひどく軽蔑したものだ。

 しかし2年生の途中あたりから、ぼくは「まあ、そうは言っても交友関係も重要だよな」と思うようになった。もちろん、放送サークルなのだから、面白い番組や作品を作ることは肝心である。ただ、部活動やサークルには「居場所」という側面もある。部員たちはただの「同僚」に留まらず、一緒に映画を観に行ったり、ナンジャタウンに遊びに行ったり、スイーツパラダイスの食べ放題に行ったり、あるいは居酒屋でくだらないことやどうにもならないことを語り合ったりする仲でもある。部員同士は仲が悪いよりは良いほうがいいし、親しい間柄であるのはいいことだと思うようになったのだ。さすがに「番発自体はどうでもいい」とは思わないけどね。

 ぼくが今回、三崎くんを放送研究会に紹介したのもそういう理由からである。ご承知のようにうちのサークルは根無し草のグループにすぎない。部室もなけりゃミキ卓もない。そしてなにより、1年生が2人しかいない。これじゃ三崎くんの「居場所」にならない。ぼくが三崎くんをずっと構ってあげるのは無理なわけで、そうなると結局、大学生三崎の日常的な「居場所」としては放送研究会がふさわしい。三崎くんは放送に興味があるわけだし。というわけで、ぼくは三崎くんを放送研究会に紹介したのだ。ぼくの感覚的には「養子に出した」って感じかな。

 まあ、実際、放送研究会は三崎くんにとって良い「居場所」になると思う……っていうか、もうすでになっているようだ。すでに放送研究会の新入生(それなりの数がいる)たちと仲良くなっているようだし、ふつうに部会や技術講習にも参加しているらしいし。だいたい、うちのサークルはほぼ全員が放送研究会との兼部者なわけで、三崎くんだけサークルのほうに囲っておくのはおかしな話なのだ。ぼくが紹介するしないに関係なく、三崎くんが放送研究会と兼部するのは当然の成り行きだったといえる。

 先日、放送研究会会長の岩下(3年)と飲みに行った時、ぼくは岩下から「三崎くんはガチで良いですね。いやあ、(ぼくの下の名前)さん、三崎くんを連れてきてくれてありがとうございました。これまでのことはすべて許します!」と言われた。岩下はリーダーシップが強いタイプではないが、まあ、現会長から気に入られているなら三崎くんの立場は安泰だろう。みんなから愛されている阿久澤(2年)にも「あっちでも三崎くんのことよろしくね」と言ってあるし。

 それと、ものすごくよこしまなことを言わせてもらうと、放送研究会が三崎くんの「居場所」となることは三崎くんにとって好ましいだけでなく、うちのサークルにとっても好ましかったりする。というのも、三崎くんが兼部してくれていることで、うちのサークルは放送研究会の機材を借りやすくなるからだ。岩下も「三崎くんを紹介してくれたことだし、三崎くんはもともとは(ぼくの下の名前)さんのところの子なわけだし……」と考えて、機材の貸し出しを渋らないでくれるだろう。ぼくはまさかそんなことを計算して三崎くんを「養子」に出したわけではないが、結果的に思わぬ収穫である。まさに「情けは人の為ならず」だ!

 ……ということになるといいんだけどなあ……。「捕らぬ狸の皮算用」ってことわざもあるしなあ……。逆に三崎くんが放送研究会でトラブルを起こしたりしたら、紹介したぼくの責任にされかねないよなあ……(三崎くんは問題を起こすような子ではないと思うが)。いずれにせよ、三崎くんにうちのサークルの将来を依存しすぎるのはよくない。まあ、そもそも「うちのサークル」って何なんだという話ではあるんですけどね。放送研究会の同期の宮田は、うちのサークルのことを「(ぼくの下の名前)が放研内に作った派閥にすぎない」と言っている。あながち間違ってはいない。

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