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ドラマ「ふわとろオムライスシチュー掛け」(10枚脚本集「てのひらの物語」3)

「この物語のすべてに、あなたがいます」

街で洋食店を営む夫婦と、シングルマザーの親子の物語。ドラマは洋食店が月に2回開いている子ども食堂の場面から始まります

登場人物紹介

服部はっとり直也なおや・・・洋食店「おむすびころりん」の店主
服部はっとり静香しずか・・・直也の妻
服部はっとり裕輝ゆうき・・・息子
野沢のざわ千尋ちひろ・・・生活保護を受けているシングルマザー
野沢のざわ浩人ひろと・・・息子

場面1:洋食店「おむすびころりん」

店内のどのテーブルも親子連れが座っている
何組かの客はメニューが届くのを待っている
ウエイターの服部静香はカウンターに並べたグラスに水を注いでいる
厨房にいる店主の服部直也はハンバーグを皿に盛り付け、その上にソースを掛ける
直也、それから白いカップにスープを注ぎながら

直也「3番さんのバーグ(ハンバーグのこと)出来たよ」

静香、その時平皿にライスを盛っている
直也、ハンバーグとスープが載ったトレイ2人分を一つずつカウンターに置く

静香「はいマスター」

静香、トレイの上にライスの皿を盛り、それをテーブルに運ぶ
テーブルには母親と女の子が2人向かい合って座っている

静香「お待たせしました。ハンバーグステーキ2人前ですね」
母親「すみません」

母親、そう言って静香から料理の載ったトレイを両手で受け取る

場面2:洋食店「おむすびころりん」(続けて)

入り口近くの窓際のテーブルに野沢千尋と小3の浩人親子が隣同士で座っている
千尋と浩人、2人でメニューを眺めている

浩人「凄い、今日はメニューが全部300円なんだね」
千尋「そうだよ、今日は子ども食堂って言って、特別な日なの」

テーブルに静香がやって来る

静香「ご注文決まりましたか?」
千尋「あ、はい。浩人、何にする?」

浩人、メニューを眺めてまだ考えている。少しして

浩人「あ、そしたらこれ」

浩人、メニューを指差す。千尋、それを見て

千尋「この『ふわとろオムライスシチュー掛け』を2つお願いします」
静香「分かりました」

静香、そう言ってテーブルを離れる

場面3:洋食店「おむすびころりん」(続けて)

千尋と浩人、メニューを食べ終え、カウンターの前にいる

静香「それでは2人分で600円になります」

千尋、600円を小銭でぴったり支払う

静香「はいちょうどですね」

千尋、店内を見渡す。千尋、店内の壁に掛かっている2枚の写真に気付く
左側の写真には、私服の直也とシェフの服装をした若い男が一緒に写っている
右側の写真には、高いシェフハットを被った今より若い直也が外国の政府高官らしき人物と写っている

千尋「あの写真、一緒に写ってるの誰ですか?」

千尋、静香に尋ねる

静香「ああ、あれね。うちのマスターが昔ホテルのシェフをしていて、外国の大統領が来日した時に料理を出したことがあってね」
千尋「へえ、凄いですね。あとこの絵本は?」

レジの前には「おむすびころりん」とタイトルが書かれた絵本が掛けられている

静香「ああ、これね。この店の名前、ここから付けられてるんだけどね」
千尋「そうなんですね。あ、また来ます。ごちそうさまでした」

場面4:洋食店「おむすびころりん」(続けて)

閉店した店内。静香、店の入り口から「子ども食堂」と書かれた立て看板を下げる
直也、厨房でフライパンを洗いながら

直也「お疲れ様。今日も結構来てくれたな」
静香「そうね。マスターもいつになく張り切ってたし」
直也「何言うんだよ。まああの頃がいちばん輝いてたけどな」

直也、そう言って壁に掛かった写真を見る

静香「何言ってるの。今のあなたがいちばんカッコいいわよ」
直也「何だよ突然。褒めたって何にも出やしないよ」

直也、静香、顔を合わせて笑い合う

場面5:洋食店「おむすびころりん」

2週間後、閉店間際
静香、店の看板を持って店内に入る
そこに千尋と浩人の親子が店に入る

千尋「あの、まだお店やってますか?」
静香「はい」

場面6:洋食店「おむすびころりん」(続けて)

千尋、浩人、この前と同じ窓際の席で2人隣同士に座り、頼んだ「ふわとろオムライスシチュー掛け」を平らげている

千尋「浩人、どう?お腹いっぱいになった?」
浩人「うん、美味しかった」

静香、テーブルの側に来て

静香「お会計いいでしょうか?」

千尋、急に表情を曇らせる。不安で体を震わせる。しばらくそのままで

千尋「あの、すいません。お金払えないんです」
静香「え?」

静香、呆気に取られる。閉店間際に来て払えないとは
直也、厨房でやり取りを見る。その後、厨房を出て

直也「あのさぁ、いろいろあるだろうけど、こっちも商売でやってるんだ。理由は何だい?」

千尋、沈んだ表情で俯いたまま

千尋「あの、私たちお金が底をついて、もう10日も2人でふりかけご飯だけで過ごしてたんです」
静香「え、どうして?」
千尋「私が何でもすぐに買ってしまう癖を直せなくて。借金を重ねて自己破産して、今は生活保護なんですけど、先のことを考えずに使ってしまって、保護費は月の半分でほとんどなくなってしまうんです。それで」
直也「でもさぁ、本当なら警察呼ばなきゃなんないよ」
千尋「分かってます。だからもう私生きる資格なんてないんです。でも最後に最高に美味しいものを2人で食べようと思って」

直也と静香、顔を見合わせる。事態は深刻だ

場面7:洋食店「おむすびころりん」(続けて)

直也、一つ頷いてから

直也「そしたらこっちもあの頃の話をしないとな」

直也、壁に掛かった写真を見る
直也、俯き加減で

直也「あの頃、とにかく仕事が楽しかった。シェフを何人も従えてさ」

直也、一息置いて

直也「いつも帰りは遅くて、家に帰っても新しいメニュー考えて。頭の中は仕事のことばっかりだった」

千尋、浩人、直也の話に聞き入る

直也「それで子供の相手もろくにしないでさ」

場面8:服部家のリビング(回想)

夕食後、静香キッチンで食事の後片付けをしている
直也、リビングの窓際のデスクに腰掛け、ノートに何か書いている
そこに5歳になる息子の裕輝がやって来る。絵本を小脇に抱えている

裕輝「お父さん、本読んで」

直也、途端に機嫌が悪くなる

直也「あのなぁ、明日までにメニュー作んなきゃなんねぇんだ。そんなの後で出来るだろ。分かんないのか」

直也、裕輝に怒鳴り散らす
裕輝、泣き出し、走ってリビングを出て行く

場面9:服部家の玄関(回想)

裕輝、玄関に腰掛け、ずっと泣いている
裕輝、思い付いたように立ち上がり、家を出る

場面10:服部家のリビング(回想)

静香、片付けを続けている
直也、機嫌が直らないままデスクに向かっている
そこに外から車のブレーキ音が鳴り響く

静香「どうしたのかしら?」

場面11:病室(回想)

4人部屋の病室。窓際のベッドで病院の寝巻きを着た裕輝が休んでいる
裕輝の頭には包帯が巻き付けられている
ベッドサイドには直也と静香がいる
直也、裕輝を睨みつけて

直也「裕輝、何で勝手に家を出たんだ」

裕輝、俯いて黙り込む
直也、怒りが収まらない

静香「裕輝はね、お父さんがいつも遅くに帰るから、たまに家にいて相手して欲しかったのよ。そうだよね裕輝」

裕輝、黙って頷く
直也、憮然とした表情のまま
直也、それから居たたまれなくなり、病室を出る

場面12:病院のロビー(回想)

直也と静香、待合室の長椅子に並んで腰掛けている

直也「そういえばあの大統領の国さ、その日のごはんも食べれるか分かんない人が沢山いて、野放しにされてるみたいなんだ」

静香、黙って話を聞く

直也「それ聞いて俺は自分の料理を誰に食べてもらいたいのか、って考えてさ」

直也、静香に顔を向けて

直也「もうシェフは辞めようと思うんだ」

静香、直也に向かって笑顔で頷く

場面13:洋食店「おむすびころりん」(再び)

千尋、浩人、直也の話に聞き入る

直也「でさ、そのオムライスに掛かってるシチューな、大統領に出したのと同じレシピなんだ」

千尋、浩人、納得した笑顔を向ける

直也「あとうちの店の名前な、あの時息子が持ってた絵本から取ったんだ」

直也、レジの横に立て掛けてある「おむすびころりん」の絵本に目線を向ける
テーブルの浩人、何かを思い付いたように

浩人「あ、そのお話知ってるよ。おじいさんがおむすびを落として、それがネズミの穴に落ちて、ネズミから小判をもらう話だよね」
直也「何だ、よく知ってるじゃないか」
浩人「うん、お母さんが昔その本を読んでくれたから、知ってるよ」

千尋、浩人の話を聞き突然肩を震わせる。それから隣の浩人を抱き寄せて

千尋「私この子を道連れにしようとしてたんです。何にも悪くないのに。ただ私がいい加減なのを直せないだけなのに」

千尋、浩人に謝るように浩人を強く抱きしめ、涙を流す

場面14:洋食店「おむすびころりん」(再び)

直也、泣き止まない千尋を見て

直也「よし分かった、次のお金入るまでうちで弁当作ってやるよ」

千尋、泣き腫らした目で直也を見て

千尋「本当にいいんですか?」
直也「ああ、残り物はいくらだってあるんだ。2人分くらい大丈夫だ」
千尋「ありがとうございます」

千尋、晴れやかな笑顔で礼を言う

直也「でもな、今度こそちゃんと仕事探すんだ。分かったな」
千尋「はい」

千尋、ここで思い出したように

千尋「それで、このシチュー何でこんなに美味しいんだろうって思ったんですけど、そういう訳だったんですね」

直也、照れ笑いを浮かべて

直也「何言ってんだよ。褒めたって何にも出やしないよ」

直也、千尋と浩人を見て笑ってみせる
千尋、浩人、釣られて笑う
静香、直也のいつもの冗談に苦笑いしつつ、直也の肩にそっと寄り添う
直也、今度は浩人の方に向かって身を屈めて

直也「それとな、朝ご飯におむすび作ってやるからな。でもな、じいさんみたいにおむすび絶対に落とすんじゃないぞ」

直也、浩人に向かっていたずらっぽく笑う

浩人「うん」

浩人、満足げに頷く

場面15:片側2車線の道路

道路の左側の車線にコーンを置いて、工事をしている
千尋、警備員の制服を着て、並ぶコーンの前に立ち、旗を振っている

場面16:千尋のアパート

千尋、買い物袋を持って玄関に入る。ズボンは制服のまま、上だけ着替えている
千尋、部屋に入る。部屋の隅に雑然と服や小物が置かれている。買い物依存だった時の名残り
浩人、テーブルの前であぐらをかき、漢字の書き取りの宿題をしている

千尋「ただいま。浩人、夕ご飯作るからね」

浩人、千尋の方を振り向いて

浩人「うん」

場面17:千尋のアパート(続けて)

浩人、宿題を続けている
千尋、部屋に面する台所に立ち、夕食を作る
フライパンの上には、徐々に固まろうとしている溶き卵が広がっている

場面18:千尋のアパート(続けて)

千尋、両手に料理の皿を持って

千尋「夕ご飯できたよ」
浩人「うん」

浩人、書き取りのノートを片付ける
千尋、テーブルに料理を置く。メニューはシチューが掛かったオムライス

場面19:千尋のアパート(続けて)

千尋、テーブルの浩人の向かいに座っている
千尋、浩人、手を合わせて

千尋、浩人「いただきます」

皿の上のオムレツはあまり良い形はしていない
千尋、浩人、食べながら

千尋「やっぱり上手に出来ないね」
浩人「ううん。でも美味しい」
千尋「そうか、浩人。ありがとう」

千尋、夕食を食べる浩人を愛おしそうに見る

場面20:洋食店「おむすびころりん」の入り口

店の入り口には子ども食堂の看板が立っている

場面21:洋食店「おむすびころりん」の店内

入り口から千尋と浩人の親子が入って来る

静香「いらっしゃい、あら」

厨房には直也ともう一人、店の壁に掛かっている左側の写真の若い男が立っている
若い男は成人した息子の裕輝
直也、厨房から千尋と浩人を見て

直也「おっ」

千尋、厨房を見る。直也の隣に見知らぬ若い男がいるのを確認して

千尋「あれ、マスターの隣の人は?」
直也「ああ、うちのセガレだよ。この店を継ぐって今は他所よそに修行に出てるんだ」
千尋「そうなんですね」

千尋、そう言ってから浩人を引き連れ、テーブルに向かう
千尋、浩人、いつもの窓際の席に隣同士に座る
静香、フロアで忙しく料理を運んだり、水を汲んだりしている
裕輝、コンロの前で炒め物をしている
直也、厨房で料理を盛り付けている

場面22:洋食店「おむすびころりん」(続けて)

静香、千尋と浩人が座る窓際の席に向かう
静香、テーブルにお冷を置いて

静香「ご注文は?」

千尋、浩人、メニューを眺めて

千尋「うーん、そうだねぇ、何にする?浩人」

浩人、静香の方を向いて

浩人「ふわとろオムライスシチュー掛け」

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