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書評② 2025年日本経済再生戦略(成毛眞・冨山和彦著)

元マイクロソフト日本法人代表取締役社長の成毛眞さんと冨山和彦さんの共著。以前から成毛さんの本はよく読んでおり、梅田の紀伊國屋書店でたまたま目に留まったので購入した。冨山さんについては、お恥ずかしながらどのような方が存じ上げなかったのだが、錚々たる経歴をお持ちの方である。

株式会社経営共創基盤(IGPI) IGPIグループ会長、株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役社長。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立。2020年10月より現職。東京大学法学部卒。スタンフォード大学経営学修士(MBA)。

著書多数で講演も行っている方である。ただ、経歴だけでは一般の方にどんなことをされたか伝わりづらい部分もあるので、本の一部であるが、彼の実績がわかる箇所を引用しておく。

「私が当事者になったもう1つの例を挙げれば、1991年のバブル崩壊に端を発する我が国の金融危機だ。何とか持ち直したのは2005年。金融再生プログラムと産業再生機構が連動して機能し始めて2年後のことである。解決までに14年もかかったのは、崩壊後の12年間、ずっと間違いを重ねたからだ。
 要するに「金融有事は起こらない」「日本の金融システムは盤石だから、時間が問題を解決する」という前提のもとで本質的な病巣へメスを入れることが封印されていたから解決しなかったのである。
 (省略)
ところが小泉政権のもと、竹中平蔵氏(当時金融担当大臣・経済財政政策担当大臣)が金融再生プログラムに着手し、前後して当時43歳だった私を実務責任者に産業再生機構が設立され、貸し手と借り手それぞれに対して公的資金による資本注入と不良債権の買い取りを始めると、事実上3年間で解決した。合わせて70兆円の公的資金をもとに、不良債権の厳格査定、特に担保価値の時価評価、DCFによる企業価値評価を導入するという解決策、すなわち大規模な外科手術が「有事的な答え」だったからだ。」

つまり、小泉政権の時に産業再生機構の責任者として、バブル崩壊に端を発する金融問題を片付けた人、というと分かりやすいだろうか。

本書で度々登場する「昭和型〜」という言葉がある。日本が衰退している原因は「昭和型」のシステムや世代にあるとし、100%自己責任時代がやってくると警告している。

日本の「政治」や「大企業」はそう簡単には変わらないことを前提に、個人でできる備えや行動を起こして幸せを享受すべきである、ということを伝えている。

第1章では、なぜ日本がここまで衰退したのかを論じ、第2章ではイノベーションについて、第3章で教育の在り方、第4章では未来の提言という構成である。

面白いのは、成毛さんと冨山さんの原稿が交互に構成されているところである。まるで2人でバトンを渡し合っているかのような書き振りで、成毛さん独特のアイデアが出てきたかと思えば、冨山さんの専門的な内容もあり、緩急があって読み応えがある。

最後に第1章「ホワイトカラーの仕事は激減する」から一部引用して終わりとしたい。
「実は、AIやロボティクス(ロボット工学)などの新しいテクノロジーは、いわゆるエッセンシャルワーカー(日常生活やインフラに不可欠な職種の従事者)の生産性を飛躍的に上げる可能性がある。医療介護、物流運輸、建設、小売、外食、宿泊業など、私たちの日々の生活を支えるリアル系現場系のサービス産業であるエッセンシャルワーカーは、今や雇用の7割を吸収している一大産業群だ。
 その生産性が飛躍的に上がれば、大量生産工業時代の産業革命において、ヘンリー・フォードをはじめとする先進的な経営者たちが生産性の上昇に応じて労働者の賃金を大幅に上げ、多くの労働者が中産階級に押し上げられたように、今度はエッセンシャルワーカーの中産階級化が進展する可能性もある。また、農林水産大臣にも付加価値生産性革命の兆候が見え始めている。
 つまり、デジタル革命もそこまでいけば、社会全体を包摂的に新しい次元に押し上げる、まさに新しい産業革命が起こるというわけだ。」

コロナ禍で私たちの身の回りになくてはならない仕事に光があたったのも記憶に新しい。そのようなエッセンシャルワーカーの仕事がAIを駆使することによってさらに光があたれば、大きなパラダイムシフトが起こることは間違いない。


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