今度、下北沢に宇宙人が来るらしい

ギターを背負った若者は不機嫌そうに人混みを抜ける

自動改札機ですれ違った俺に見せつけるように強く押さえつけられたICカード

改札機の読み取り部は否応なしに若者の怒りを受け止めさせられた

久しぶりの下北沢

俺が夢をあきらめた街

平日と言えども今日は人が多い

あなたも宇宙人を見にきたんですか?

不意に声をかけてきた丸メガネの青年

ドロップアウトした俺には、それが人間の成せる技に思えなかった

はい、あの噂を聞きつけて

今日の夜、宇宙人が下北沢に降り立つらしい

夜までまだ時間もありますし良かったらうちでくつろいでいきませんか

こんな話の運びがあるのか、まるで物語が始まりそうだ

世田谷代田と下北沢のちょうど中間にあるアパートに青年とその彼女は暮らしていた

引っ越してきたばかりなんです

散らかった部屋の象徴みたいなその言い訳は丸められたガムテープや転がっているゴミに等しく思えた

お構いなくと言えなくて、ぶっきらぼうに、ああ、はい、と答えた、俺はとうに社会のはみ出しもの

沈黙に耐えきれず、カップルは会話を始める

宇宙人、来るのかな

もう来てたりして

宇宙人、来日

フフフフフ

お前らが俺にとっての宇宙人だわ

いつも知らない人を招き入れるんですか

いやあなたが初めてです

俺で試すな宇宙人ども

被験者になると言った覚えはない

なにやら外が慌ただしくなってきた。テレビをつけると、下北の小田急線東口改札が映し出されており、真っ白な人型のなにかがちょうど改札機に切符をいれているところだった。おい宇宙人、UFOで来ねえのかよ公共機関利用してんじゃねぇよ。

改札を抜けた宇宙人は飛び上がりギブソンのサンダーバードに姿を変えた、空中で掻き鳴らす轟音、路上ライブかいい度胸じゃねぇか、丸メガネのお兄さんちょっとそこのギター借りていく、ついでにアンプとエフェクターも。俺にとってはあんたらも宇宙人、お仲間さんに挨拶してくるわ、たどり着いた駅前の空中野外会場、浮かぶサンダーバードにカメラを向けるスマホ世代たち。ちょっと失礼。強引に群衆をかき分け、サンダーバードの下、俺はエレキギターの爆音を鳴らす、人間が負けてたまるか、音楽は人類の発明だ、雲行きが怪しくなり、雷と共にいくつものUFOが現れた、夜の下北に光が降り注ぐ、スポットライトみたいに、俺と宇宙人を照らす、その光に俺たちは吸われて昇る、ゆっくりと終わりが近づいているのがわかる、最後に俺のソロパート、響け、この大都会東京に、、、!!!!ジャーーン!!!終わると同時に俺はUFOの中にいた。そこにはカートコバーンやジミ・ヘンドリックスがいた。俺は笑って握手していた。きっと彼らは27歳で死んだんじゃない。今も宇宙で音楽をかき鳴らしているんだ。でも悪いけど、やり残していることたくさんあるから、地球に戻るわ、俺が27歳になったらまた迎えに来てよ。UFOからゆっくりと降りている間に俺が考えていたこと、とりあえずあのカップルにお前らの仲間は最高だったと伝えにいこう。
 
 
 
 

 
 
 

(これはこの前、僕に奢ってくれたMさんへ送る物語です。内容はほとんど、その人と関係ありません。本当にありがとうございました。)

小さい頃からお金をもらうことが好きでした