神様は完璧に海をデザインできなかった

あなた方っていったい誰なのですか?と問いかける俺が誰なのですか?

知りません。私が知っているのは、神様は完璧に海をデザインできなかった、だから流動性がある、そんなことくらいです

どこに行っても暑いなあ。自分で風を作るしかない。ブランコに乗る。誰かが作ったブランコに乗る。今はまだ誰かのブランコ。でもきっと、いつかは自分の作ったブランコ。

創作論を隠喩で語るの恥ずかしくありませんか?

歴史の中にはこういうやり取りが数えきれないほどあって、その度に夜空に星が1つ、また1つと増えていったんだろうな

その星の名前は「図星」だろうね

ピュ~(口笛)言語が生まれる前にきみと出会っていたら「愛してる」という言葉をぼくが作れたね

やめて。「愛してる」に作者がいたら、言われる度に冷める

どうして君はこんなところに来てしまったの?

別に、なにもやることのない夜だったから

退屈しのぎでここまで来たのか。残念ながらここには退屈なことを言う男がただ一人しかいないよ

それでも1人でいるよりマシな気がする。ところで、さっきから流れているこの曲

ああ、「ちゅ多様性。」あのちゃんの曲だよ。

止めて。あのちゃんの曲は、あのちゃんの声を受け付けられなくなるほど聴いた。これはバーで流していい曲なの?

カコン(ロックグラスの氷が崩れた音)

氷は「いいよ」って頷いてますよ

こんな都合よく氷が頷くかしら?あなたの体内から絞り出した水を凍らせたんじゃないでしょうね?

そんなサイコパスだったらもっと賢く生きてる

知らないわよ、あなたが泥臭く生きていることなんて

絵描き歌をやっています

え?

絵描き歌をやっている、普段

…タイムマシンがあったら10秒先の未来に行って自分がなんて返答しているか知りたいね

売れない絵描き歌師やってて。絵描き歌師って、聴き馴染みないよね

ごめんなさい、私、幼稚園の時、絵描き歌してる先生に「それyoutubeにあった!」って騒いで恥をかかせたことがあるの

むしろ感謝するよ。絵描き歌も創作の1つ、誰の歌かは知らないけど、パクりを指摘してくれてありがとう

…。灰皿ちょうだい

禁煙です

嘘でしょ???

嘘をつくくらいなら、嘘発見器を店に置いてる

は?じゃあ…お会計お願い

ここは俺の奢りで

はぁ……もう一杯ウイスキーのロック!

カコン(ロックグラスの氷が崩れた音)

そんなに大きい声を出したら氷も驚くよ

(ずっと「ちゅ。多様性」がループして、時は過ぎていく)

タバコってどうやったらやめられるの?

口を縫うしかない、あるいはフィルターの端を縫うか

なんで急にしょうもなくなっちゃったの?おじさんと会話してるみたい

タバコがやめられないうちはやめようと思ってないだけ

覚悟が足りないってことね?

覚悟がないうちはなにも成し遂げられない。「貧乏ゆすりでもリズムをつければドラマーになれる」って言ってた友達がいたんだ

過去形が胸に染みる。酔ってきたのかしら

そいつ死んじゃって

死んだの?

うん

過去形がもっと胸に染みる

俺はそいつの葬式でお坊さんが叩く木魚を何度も踏みつけた、笑いながらね

サイコパスじゃなかったとしたら、あなたはコメディアンね。彼の死因は?

ドラムを叩いているとき、シンバルに舌が挟まって死んだ

嘘つきのコメディアンは嫌いよ

嘘をつくくらいなら、嘘発見器を店に置いてる

それもう言うの禁止ね

あいつはブルーハーツに憧れていた。舌を出しながら演奏していたらシンバルに舌が挟まって死んだ。なにかに憧れてる時点でもう憧れには負けているってことだ

「俺言いました」って顔してて気持ち悪いので帰ります

ごちゃごちゃ言ってるだけの間は前に進まない、覚悟を決めるんだ

バカの言うことなんてきかないよ、そもそも、舌挟まっただけで死ぬわけないでしょ

バカの言ってることが本当の時だってあるんだよ、それが本当だってわかったとき、あんたはようやくそのバカに並べる

なんで私が自分の位置を下げなければいけないの?

…お山が3つありまして…

呆れた

ごまがいっぱいふってます、おっきな雲が流れてきたよ…

せいぜい頑張ってね、絵描き歌師さん

………なんだよ。人が気持ちよく歌ってるのに帰るなんて

ていうか書かないの?

俺は書かないよ。絵描き歌を歌うだけだと決めたんだ。人からは理解されない。変なこだわりにしがみついてる、哀れなやつだと思われてるかもしれない。でもそれが、俺なりの覚悟なんだ。

女は店を出た。振り返るとバーの明かりは消えていた。窓の奥には、地球上にいる全ての人間の影がプリズムを通って1つになったみたいな暗闇があった。その暗がりの中で男はひとり絵描き歌の続きを歌う。













小さい頃からお金をもらうことが好きでした