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「未来」という意味の書体 “Avenir”

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


書体 “Avenir”

Avenir (1987)
Source: www.flickr.com Markus Moning. License: All Rights Reserved.

Avenir(アベニール)という書体をご存知でしょうか? デザイナーではないのに知っていたらけっこう書体・デザイン通(つう)のはず。この書体は、1987年にスイスの書体デザイナー、エイドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)氏がデザインしたもの。1988年にドイツのライノタイプ(Linotype GmbH)という書体メーカーからリリースされました。

Avenir

書体概要

カテゴリー:サンセリフ(日本語では「ゴシック体」)
分類:ジオメトリック
デザイナー: エイドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)
メーカー:ライノタイプ社
発売日:1988

こうみえて?「幾何学的(ジオメトリック)」というカテゴリーに分類されています。他のジオメトリックな書体、たとえばFutura(フツラ)に比べたら、かなり「人間味」のある印象を受けます。

Futura

Futuraに関しては『007のタイトルと書体Futura』という記事で詳しく触れていますが、今度もっと詳しく書いてみたいと思っています。見て比べていただくとわかりやすいですが、Futuraは直線と円で構成されている気配があり、とても幾何学的です。

1920年代にリリースされた、このFuturaやErbar(エルバー)は幾何学的な書体として非常に人気になりました。この流れは、アール・デコの流行も反映されてます。アール・デコとは、2つの大戦のあいだに生まれた芸術・デザイン運動(流行)で「大戦間様式」とも呼ばれます。流行するきっかけとなったのは1925年のた「パリ万国装飾美術博覧会」。特徴は、直線的で幾何学的。合理的で機能的。(しかしまあまあ派手。)くわしくはこちらの記事で解説しています。


Futuraを意識してデザインされた“Avenir”

じつは“Futura”はラテン語で「未来」を意味する名前ですが、Avenirもフランス語で「未来」を意味する言葉です。ここからも推測できるようにAvenirは、Futuraを意識してデザインされた書体です。Futuraが誕生してから半世紀ほど経ってからデザインされたAvenir(アベニール)ですが、この書体は、エイドリアン・フルティガー氏が「Futuraを再解釈してデザインされたもの」と考えても良いでしょう。小文字の「a」は、Futuraと違って2階建てになっており、十字架のようなFuturaの「t」ですが、Avenirのそれはカールしています。

全体的には幾何学的なんですが、aとtに注目するとけっこうヒューマニスティックなAvenir

Avenirはその後、改良されたり、展開されたりしていますが、初期のものは、エイドリアン・フルティガー氏が助手もなく、ひとりで徹頭徹尾製作し、それについてフルティガー氏はとても満足し、Avenirについて「私の個性が刻印されている(My personality is stamped upon it.)」と述べています(※1)。

Avenir Next

2004年から2007年にかけて、フルティガー氏は、ライノタイプの社内デザイナーである小林 章氏と共同でAvenirファミリーを作り直し、ウェイトと機能の幅を広げ、Avenir Nextとしてリリースしています。2012年以降、Avenir Nextは、iOSとmacOS(Mountain Lionリリース以降)にシステムフォントとしてバンドルされるようになり、さらに知名度が高まりました。


エイドリアン・フルティガー

Adrian Frutiger in 2002
By Henk Gianotten - Original publication: Photographed in 2002 in Frutiger's home officeImmediate source: https://www.flickr.com/photos/henkgianotten/10524457003, Fair use, https://en.wikipedia.org/w/index.php?curid=47824624

エイドリアン・フルティガー氏(1928年5月24日 – 2015年9月10日)は、スイスの書体デザイナーで、20世紀後半の書体デザインの方向性に大きな影響を与えた存在です。フルティガー氏のキャリアは、ホットメタル、写植、デジタル植字の各時代にまたがります。彼のデザインした書体のなかで、特に有名なものは、Univers(ユニバース)、Frutiger(フルティガー)、Avenirの3つのサンセリフ。それぞれ、ネオグロテスク、ヒューマニスト、ジオメトリックというジャンルを代表する書体です(この辺はちょっとマニアックな分類法)。

Univers

Univers
By Blythwood - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=41107519


Frutiger

Frutiger
By GearedBull at English Wikipedia - Transferred from en.wikipedia to Commons., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2226879


小林 章

小林 章(こばやし あきら)氏
画像引用:タイプバンク「欧文フォントデザイナー 小林章」

小林 章(こばやし あきら)(1960年 –)氏は、ドイツの書体デザイナー。モノタイプ(ライノタイプでしたがモノタイプの傘下になる)のタイプディレクター。書体デザイン、指揮、AvenirやOptimaなど名作書体の改刻を手掛けています。またタバコのメビウスのロゴもデザインされています。ときどき日本に来て公演などされています。

Avenirの使用例

フランス大統領フランソワ・オランドの選挙キャンペーンで使用されたAvenir
By Blandine Le Cain - Meeting Bercy François Hollande 29 avril, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=35626141
フランスの鉄道会社SNCFの試験期間中の学生輸送支援プログラムに関するポスターに、2種類のウェイトでAvenirが使用されていました。
By Claude Truong-Ngoc / Wikimedia Commons - cc-by-sa-3.0, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=33427935


Bostonography: Crowdsourced neighborhood boundries
Source: bostonography.com Bostonography. License: All Rights Reserved.

まとめ

Avenir(アベニール)は、まとめると「人間味が漏れ出た幾何学的なサンセリフ」といえます。ついもれちゃったみたいな言い方はフルティガー氏に怒られそうですが、本質は幾何学的な書体のはずなのに、フルティガー氏が意識する人間の特性(Human Nature)が、光学的な補正にとどまらず、人間らしさにまで拡張されてしまっているように見えます。Futuraほどの人気はありませんが、洗練され、幾何学的な合理性のニュアンスもあるものの、人間らしい有機性も含まれた書体です。そんなニュアンスを伝えるときには、Avenirは最適な書体となるでしょう。

なんかちょっとだけかわいいAvenir
Source: www.alltagagentur.ch Alltag. License: All Rights Reserved.


参照

※1:Adrian Frutiger, Typefaces. The Complete Works, (Basel: Birkhäuser Verlag, 2008), p337.



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