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なぜ「でこぼこした数字」があるのか? “オールドスタイル数字”

ビジネスに使えるデザインの話

ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。noteは毎日午前7時に更新しています


「でこぼこした数字」

オールドスタイル数字

ときどき、このようなでこぼこした数字を見かけることはありませんか?上に下にでこぼこしたこの数字を「オールドスタイル数字(Old Style Figures)」というもの。文字通り、「古いタイプの数字」という意味です。では古くないタイプの数字は何かというと「ライニング数字(Lining Figures)」と言います。

ライニング数字

さっそく、この「ちょっと見づらくすら感じる」でこぼこした数字がなぜ存在しているのか、その答えを紹介します。それは、

違和感をなくすため

多くの文字のデザインの目的は、ロゴに使われたり、おしゃれに見えたりすることではなく、「ストレス無く読めること」です。どんな書体で書かれていたか、に気づかれないくらいが理想なんです。欧文は、小文字が上に出っ張ったり、下に出っ張ったりしています。これはそれぞれアッセンダー(Ascender)とディッセンダー(Descender)というのですが、ここではそれを置いておきます。この上下の出っ張っりで「なんとなくの単語の形」を覚えて、ローマ字を使う人々はすばやく「単語」を認識します。そんな文書のなかで、ずっと同じ高さで、しかも大きな形の数字が出現すると、読み手は少し驚き、読むスピードが遅くなります。

上のオールドスタイル数字の形は、他の単語用にでこぼこしているので、違和感が生まれにくい。下のライニング数字は、急に大きくて並ぶ文字が出てきて違和感が生じる。

日本語の文字は、ほとんど高さも幅も一緒です(これは印刷が普及するときに整えられました)。なので、むしろでこぼこしていない文字の方に違和感を感じません。これは文章が持つベースラインの違いからも生まれます。日本語はベースラインから下にはみ出る文字はありませんが、欧文はばしばしはみ出ます。

日本語書体のローマ字は「短足」

日本語はベースラインの下にはみ出さないのに、日本語書体にはローマ字も含みます。ローマ字の小文字はベースラインからはみ出ます。これを日本語書体で文章を「読みやすく」組みたい書体デザイナーやグラフィックデザイナーは嫌がります。だって、行間が美しく揃って読みやすいのに、それを壊す存在だから(はみ出る「y」や「g」のような文字は。そんなわけで、日本語書体のローマ字jは、下にはみ出ている部分をできるだけ短くしています。あなたが今まさに読んでいるこの文章に出現する「y」や「g」がその例です。

企業名だって、文章中は最初の文字しか大文字にしません

わたしたち日本人は、ロゴでは大文字で組まれている企業やブランド名は、そのまま大文字だけで表記したくなります。しかし、文章を組む目的は「違和感を無くすこと」。そのため、大文字だけで表記されるとやっぱり読む目は止まってしまいます。なので、だいたい最初の文字だけが大文字で、あとは小文字で表記されます。

日本企業の欧文パンフレットでは、よく企業名を大文字だけで組んでしまっているのを見かけます。

FBIやCIAも?最初だけ大文字?

Nikeは、ナイキなんですけど、FBIは、「エフビーアイ」と読みますが、これは本当は、“Federal Bureau of Investigation”の頭文字だけを取って省略した表記です。これは、頭字語(とうじご:acronymまたはInitialism)言います。括弧のなかで書いていますが、頭字語には2種類あります。

アクロニウム(acronym)

続けて読むものをアクロニムと言います。AIDS(エイズ)、OPEC(オペック)それからNATO(ネイトー)など。

イニシャリズム(Initialism)

FBIやCIAなど、頭文字の1字ずつアルファベットで読むものをイニシャリズムといいます。OECD、WHOなどもイニシャリズム。

これらは、省略された部分を大文字が「まとめて代表」しているので、小文字にできません。ゆえにこのまま表記します。

イギリスのウェブサイトThe Guardianの記事の一部
source: The Guardian “Simone Biles, other Nassar victims, seek $1bn from FBI for botched investigation”

お気づきでしょうか? ガーディアンのこの記事、ウェブサイトですが、オールドスタイル数字を使っています。


まとめ

今回の話は、ものすごく地味ですが、日本企業やブランドが英語表記するときにとても頻繁に無自覚に間違えて表記しているところなんです。翻訳さえ合っていれば良いと考えて、かつ欧文の組版ルールなんて存在を知らないことで起こるミスです。そして翻訳家もそんなことまで熟知していないことがほとんどです。しかし欧米文化圏の人からすると「違和感」を感じてしまう。そんなギャップが存在していることを知っておくのは、ビジネスにおいてはけっこう重要です。これを避けるには、デザイン会社やデザイナーと欧文の組版に関してチェックする機構を構築していく必要があります。そのぶん、お金も掛かってしまいますが、「至らない部分」を晒すデメリットと勘案して予算を組んでいくと良いでしょう。

ちなみに、この欧文組版を日本でもっともちゃんとしている(わたし調査ですけど)ブランドは、虎屋です。

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