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【前編】ぼくが女編集長のセクハラを受け肉欲に絆され快楽堕ちするまで。


「ボクくん、ほんとにかわいいわねえ」

それが彼女の口癖だった。
ぼくはかわいがられていた。
明々白々かわいがれていたのだ。

決して媚びへつらったわけでも自覚していたわけでもなく
どうやらぼくは彼女にとって(重要)かわいい男の子だったらしい。

仕事上での出会いだった。
ぼくは出版社のとある案件で抜擢され、
大きなショーレースを征した作品に大部分で携わることとなり
まだ若く経験の乏しいぼくにとっては正に僥倖 ぎょうこうそのもの
実際に目はキラキラと輝いていたと思うし、
とても素直な姿勢でその業務にあたっていたと記憶している。
そんな姿も相まって
彼女の好意を得られたのだろうか。

彼女はとても美しかった。
女編集長という肩書がそうさせるのか、
彼女の存在はぼくの瞳に色濃くとても大きく映った。
目に映る何もかもがだ。

タイトなスーツに詰め込まれた体躯 たいくはしっとりと熟れ
肩にはためく黒髪は年齢を感じさず婉美 えんびな艶を秘める
長身は自身の立場への自負を感じさせ、
彼女はどこか濃密な性の臭気を常に放っていた。

度重なる打ち合わせの中
次第にぼくと彼女の距離感は不思議なものへと変わっていった。
彼女は頻りにぼくとの間合いを詰め
或いはぼくの背後へ這うように身を寄せ
同じ視線の高さからデスクの提案資料に目を落とし
乗り合わせたエレベーターでは
ボタンを押す手先が掠めるように触れ合った
職分を果たせば「偉いね」と女性としては大きな掌で頭を優しくなでてくれた

ぼくはうれしかった
傍から思えばセクハラと思しき行状の数々も
唯々うれしかった
唯単に、ぼくの存在そのものを諾う彼女の存在が頼もしく、そしてうれしかったのだ
そこには一切のやましさなど介在せず
敬意と母性への信頼の感情で満たされていた。

肯定感を伴って承認されたぼくの心は
翅翼 しよく まとって空を舞う
そしてカフカを読み ふける少年期のぼくにそっと言伝 ことづてを添えた
ザムザは苦しみの甲虫、
しかしキミはいずれ蝶になるんだ!


―――その後、仕事は盤石に幕を引き、
出版社主催の盛大な授賞式が執り行われる。
ぼくが担当した作品は、人気女優Cの名を冠する賞の受賞小説作品だった。

女優Cと担当作家、関係者にそれぞれ挨拶を済ませ、
スピーチを待つ控室でぼくは編集長と二人きりで時間を過ごす。


「編集長、ぼくCさん好きなんですよ。へへ。初めて生で見ちゃいました。」

「そう?とてもいい方よ、お顔小さいわよねえ~これしかないじゃない(両手で小さく〇を作りながら)」

「なんか嗅いだことのないイイ香りがしました。へへ。」

「ボクくん、ああいう子が好みなのね。」

「へへ。いや、そういうワケでもないんですけど…。」

「ほんとにかわいいわねえ、抱きしめちゃいたい。」

「へへへ。」



「抱きしめても、いい?」


その刹那、
ぼくの身体はすっぽりと
彼女の隠しきれない賜物の内方ないほうへと いざなわれた。

10cm余りの身長差が隙を許さず
視界を奪われ伸縮性の塊に埋もれ、
呼吸をすれば愛欲の蜜と細やかな汗の香りが鼻腔を伝い、
直接脳の毛細血管へと搬送されてゆく
すると驚く事に、ぼくのちんぽこはかつてない程いきり立ち、屹立きつりつしたのである。

どうして!?


わけもわからず血流を集結させる下半身に自分でも驚きを隠せない
蜜壺の在りかを求め脈動と共に熱心に辺りを見回すちんぽこの姿が滑稽だった
その存在を感知し、彼女は優しく肉付いた腹を舐め回すように押し付ける。

今まさに崩れ去ってゆくぼくの心は
彼女に感じる敬意と母性との奥底で
秘かに情火じょうびで炙られ続けていたのだ
途端に正体を現したぼくの下卑た感情は
彼女のフェロモンに冒された愚かな肉欲そのものだった。


「打ち上げの後で部屋に来れる?鍵は空けておくから…。」


クスリと淫魔の笑みをこぼした彼女はそっとホテルの部屋番号を耳打ちし
まるで嘘の様に平穏を取り戻し式場へと足を向ける。


―――
それからは空白とも言える時間が流れていった。
早鐘を打つぼくの心臓は未だ収まりを知らない
檀上では女優Cが受賞祝いのスピーチを始めるが
ぼくはそのかたわらに佇む淫魔の姿に釘付けとなっていた。
淫魔が彼女を演じていたのか
彼女が淫魔を演じているのか
ぼくには到底わからない
ただその脳内には
某K王プラザホテルプレミアグランスイートの部屋番号が繰り返しアナウンスされていた。



【中編】へ続く

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