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世界の始まり、海のある小さな町

宮崎県の青島

ここに住んだのは人生の最初の何年かだけだけど、自宅の周りの風景も学校までの道のりも、ピアノ教室やお寺の幼稚園までの風景もよく覚えている。

不思議なものでこの町を引っ越して、その後高校卒業まで暮らした海から遠い町のことはところどころしか思い出せない。

小さい頃に見たものや食べたもの、経験や感情などは”人生で初”のものだからだろうか、私の記憶の中の青島はとても鮮明だ。その後に似たような経験をしてもそれが何度目かであり繰り返したものであるので強い印象がないのだろうと推測する。

港のコンクリートにゴンズイが捨ててあった。近づいて観察すると鼻の先にヒラヒラと髭が見える。黒いストライプがカッコいいなと思い手を伸ばすと、一緒にいたいとこに”この魚は毒があって触ったら死ぬ”と止められた。もちろん触ったって死にはしないがゴンズイに毒があるのは本当だ。

ばあちゃんと仏舎利塔にツワを採りに行った。ゆるい山道をてっぺんの仏舎利塔まで登る間にばあちゃんが”これはツワよ、あれは似ちょるけど違うよ”と教えてくれる。持っていったバッグがいっぱいになるほどツワを持って帰り、外の薄い皮を剥くと爪と指先が真っ黒になった。お風呂に入った時に石鹸でゴシゴシ洗ったけれど何日も黒ずんでいた。

向かいに住むおばちゃんは青島神宮の土産物屋で売られる小さな貝を使ったカメの置物を作っていた。内職仕事でおしゃべりをしながら白いノリを貝殻にたっぷりつけてひょいひょいとカメの形を作っていくのをワクワクしながら間近で見ていた。おばちゃん家の作業場には大きなアカウミガメの剥製が飾ってあった。今はもう違法だろう。庭には大きなバナナの木があり、初めてちょっとグロテスクなバナナの花を見た。砂利になっていた玄関先には小さなカニが歩いていた。

小学校のマラソン大会は青島を一周するものだった。もともとノロマな私だったが、砂に足を取られて何度もコケそうになりながら走った。ゴールに着いた時はヘトヘトでもう2度と走るもんかと心に誓ったが帰り道で友達のお母さんに貰った青島ウイロウが天国のように甘くて美味しかった。

遠足で何度か訪れた亜熱帯植物園は遠い世界に生えている大きなヤシやサボテンや色とりどりの南国の花があり、噂では水路にピラニアがいるから手を入れるなと脅された(改装される前の昭和の話です)。ギュッと酸素が詰められたような温室で初めて見たブラシのような花、横一列に葉を広げる芭蕉、縫い針よりも長い針をいっぱいつけた丸いサボテン。外の広場に赤白青のシートを広げてお弁当を食べた。お母さんが作ったサンドイッチとチューリップ唐揚げが入っていた。

海がある小さな町

この町を出て大きな世界に出た私だが、この町で出会った色々が外に出るという好奇心をくれた。これまでに訪れた50ヶ国近く、住んだ6ヶ国・15余りの街、その全てが青島の私と繋がっている。

美しい毒のある魚も、ゆらゆらと登った先に白くそびえる仏舎利塔も、未知のヘンテコな植物も、あらゆる美味しいものも、全て今の私と繋がっている。

シマフィー 

青島に住む小さいシマリスの話はこちら↓

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