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「考える脳」と「感じる脳」ー 感情に関する誤解

今回は、ノースイースタン大学のリサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett)教授(心理学)の動画を参考に、感情に関するよくある誤解を紐解いてみたいと思います。

その昔、人類の歴史を彩る高度な文明を支えてきたのは「考える脳」による理性であり、「感じる脳」による感情など動物的な行動は、理性に劣ると考えられていた時代がありました。また、感情は外的な刺激から「やってきて」、不用意な言動を引き起こしたり、突然泣き出したりするという考え方もあります。しかし、「感じる脳」によって引き起こされる感情を、人間の「考える脳」によってコントロールできるという考え方は、感情の本質をとらえていないし、感情の働きを説明するものでもないのです。

動画を見る際には、日本語の字幕を参考にしてください。


「考える脳」と「感じる脳」

脳の物理的な構造は、大まかに言って様々な動物で似ていますが、人間で特に発達している領域と、他の動物にも似たような領域があります。人間で特に発達しているのは大脳皮質と呼ばれる領域で、この記事では「考える脳」と呼んでいます。思考、判断、創造といった人間特有の知的活動は、この領域が担っていると言われています。一方で、人間の脳の中で、体積比率は小さいものの、他の動物と同じように存在する領域は大脳辺縁系と呼ばれ、この記事では「感じる脳」と呼んでいる領域です。

「考える脳」と「感じる脳」

感情に関する誤解

その昔、人類の歴史を彩る高度な文明を支えてきたのは「考える脳」による理性であり、「感じる脳」による感情など動物的な行動は、理性に劣ると考えられていた時代がありました。「考える脳」が優位な人は道徳的で健康な人間であると認識され、「感じる脳」が優位な人は努力の足りない不道徳な人だとか、感情を制御できない精神的に病んでいる人だとかレッテルを貼られることもありました。

「感情」は「感じる脳」が提供する最も重要な機能の一つですが、その働きは長い間誤解をされてきました。例えば、感情は生まれながらにして脳に組み込まれており、人間だけでなく他の動物にも共通する普遍的なものであるという考え方です。もう一つは、感情は外的な刺激から「やってくる」という考え方です。その結果、不用意な言動を引き起こしたり、突然泣き出したりするというものです。しかし、これらの説明では、「感じる脳」の働きの本質を表してはいません。さらに誤解されているのは、脳の成長は子供の幼い時期に止まるという考え方です。

例えば、突然嵐のような怒りの感情が押し寄せてきたとしましょう。すると、あなたの「考える脳」は、この外部からやってきた怒りの感情に対処しなければいけないと考えるかもしれません。しかしこのような体験は、実は脳が作り出している錯覚なのです。すべての動物に共通する「感じる脳」によって引き起こされる感情を、人間であれば発達している「考える脳」によってコントロールできるという考え方は、感情の本質をとらえていないし、感情の働きを説明するものでもありません。

「感じる脳」はあなたの体を制御する

「感じる脳」の仕事は、大雑把に言えば、五感を通して得られる外界からの信号を処理し、その信号をもとに未来を予測し、体内の代謝のバランスを整えることです。これを常にリアルタイムに処理することで、生命の維持を試みています。代謝のバランスとは、グルコースや酸素の量、さらに、アドレナリンやドーパミン、セロトニン、エンドルフィン、オキシトシンなどの神経伝達物質やホルモンにも及びます。例えば、とある状況下でものすごく喉が渇いているときに、何とか水を飲むことができたとしましょう。あなたはとても嬉しい気持ちになると思います。その時には、ドーパミンの濃度が相対的に上昇しているでしょう。ドーパミンは、体内に存在する報酬システムであり、それは成功体験として記憶され、似たような状況に遭遇した時の指針となるのです。

「感じる脳」の仕事

感情はあなたの記憶

体内に起こるこのようなダイナミックなバランスの変化は、「感じる脳」が提供する「記憶」と深く結びついています。バランスの変化は、常に感情や感覚として感じることができます。穏やかな感覚もその一つです。そして、感情を生み出すために使われるのが記憶です。「感じる脳」の未来予測は、あなたの記憶に基づいていて、その記憶は生まれてから今日までの経験に基づいています。怒りを感じるのは、大雑把に言えば、自分の経験や記憶が、特定の外部からの信号や特定の代謝のバランスと結びついているからです。例えば、赤ちゃんの泣き声を聞いて、うるさいと感じるか、幸せを感じるかは、今までの経験からくる記憶によるものです。

過去の記憶は変えられる

非常に残念なことに、子供の頃の経験や記憶は自分で選ぶことが非常に難しいということです。これは、「感じる脳」の発達に非常に大きな影響を与え、病気になってしまうケースもあれば、人生の幸福感に影響するケースもあるでしょう。また、「感じる脳」は集中力にも影響するため、「考える脳」の発達にも影響を及ぼすことでしょう。

しかし現在では、「感じる脳」は何歳からでも、何歳までも成長できると考えられています。自分で経験を選べるようになれば、自分が感じている感情に好奇心を持ち、行動を変えることで、記憶に変化を与え、感情を変えることができるのです。自分の感情に否定的になる必要はありませんが、納得できない感情があれば、それを変えることができることを忘れないでください。

過去は変えられないと言いますが、過去を作るのは今の自分の行動です。後で過去を振り返って、自分ができる最善の選択をしたと感じることができれば、人生に誇りを感じることができることでしょう。


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