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えんそくvol.2稽古場レポート②『JAM』

稽古場レポートとは?:
「えんそく」主宰の小川結子さんの高校同期であり、たまにWebライター的なことをしたりしなかったりしている私あいけが、3/20(水)~24(日)に西荻窪「遊空間がざびぃ」にて上演される演劇公演『時間なら、あるわ』(作品は『東京三人姉妹』『JAM』の2本立て)の稽古場を、ぼんやりと見学して書いたレポートです✌

というわけで。

前回の『東京三人姉妹』稽古場レポートに続いて、今回は『JAM』の稽古場レポートです。演劇制作の場を見たのはこれで二回目という、相変わらずのビギナーがお届けしますよ。

▼前回のやつはこれだ

『JAM』の登場人物は、とある家の四姉妹だけ。そういう意味ではシンプルな話です。三姉妹の話である『東京三人姉妹』と両方見て、比べて鑑賞するとまた面白いだろうなと思いました。公演の予約チケットはすでに好評販売中らしい。(宣伝です。)

『JAM』

画家になるために家を飛び出した長女が、10年経ったある日、突然帰ってきた。 次女は婚約し、三女は就活の真っ只中。
相変わらず少し変わり者の四女。

姉妹は仲がいいのが当たり前?
何年経っても、家族は家族?
誰も知らない秘密が、ある日を境に溢れだす。

作・演出 峰村美穂
出演 安齋彩音 都倉有加 宮内萌々花 小川結子

この日は17:30くらいから人が集まり始めます。場所は桜新町。去年やっていたドラマ『いちばんすきな花』の舞台でしたね。

はじめ、雑談のあとに、衣装のお話。四姉妹の服装のイメージのすり合わせ。この人のメインカラーが白だとしたら、どんな白なのか?(200色あるんで)、髪の長さはどれくらいのイメージなのか? 下ろしてるのか結んでいるのか? などなど。

前回に続いて自分流の比較になりますけれども、これがたとえば小説だとか、こういうレポート形式の文章なら、必ずしも人の見た目のディテールは描写しなくても成立するわけです。

けれど演劇みたいに視覚が重要になる芸術では、衣装に限らず、「ディテールがない」っていうのは基本ありえないので、ディレクションにあたっては普段からいろいろ観察眼も要るんでしょう。自分にはむりだなーと思います。他にもそういう「むりだな」ポイントは数多ありますが。(体力要りそうだなあ、とか。。)

18:30ごろからはシーンごとの稽古。

この日揃っていたメンバーは長女イチカ(安齋彩音さん)、三女サイカ(宮内萌々花さん)、四女ヨナカ(小川さん)なので、3人でのシーンの稽古がメインです。

前回レポートで見学させてもらった『東京三人姉妹』との違いをいちばん感じたのは、脚本を書かれた峰村美穂さんが今回は演出も兼ねているので、ずっと稽古場におられて、役者とすり合わせをしながら稽古が進むところ。

『東京三人姉妹』のほうはふだん俳優をしている小川さんが演出担当をしてましたが、今回はなにしろ(もちろん作者の言うことが絶対ではないにせよ)脚本を書いたご本人なので。やっぱり少し緊張感があります。

実際、稽古は「ある場面を通しでやってみる→峰村さんフィードバック→みんなで話しながら芝居イメージを修正して→またやってみる」の繰り返しで進行していきます。

これがなんというか、和やかな空気ではありつつも毎回が「勝負」という感じ。

双方向のコミュニケーションをしながら毎度毎度、神経の細部にまで意識を行きわたらせるようにして、リアルタイムで、芝居に適切な修正を加えていく。この繰り返しの中の、瞬発力がすごいなと。

逆に演出をする側も、その都度の芝居のニュアンスに対して中途半端なコメントをするわけにはいかないでしょうから(なにせ相手は俳優なので)、峰村さんのほうもやはり、流れていく一連の時間全体への集中力たるやすごいものでした。

ここでまた小説に引きつけましょう。少なくとも小説の場合、「セリフをどう発するか」というニュアンスだとか間のことはあまり意識しなくても、まあ書けちゃったりします。完全なる虚構の世界なので。

ただし演劇の場合はこれまた、そうはいかないに決まっています。むしろ間とニュアンスこそがすべてなのかもしれない。「人が人を演じる」というのは不思議なものだなと思います。

さて『JAM』の長女イチカは画家をやっています。三女のサイカは就活のため、履歴書を書いています。

イチカ、サイカが書いている履歴書に気付く。

イチカ:あれ、あんた何書いてるの?履歴書?
サイカ:ちょっと、見ないでよ、勝手に。

『JAM』第二場

で、そこから2人のやり取りがあって、こんなセリフにつながります。

サイカ:……イチカさ、自分がやりたいことやってるからってさ、全員に「やりたいこと」があると思わないでよ。夢を追いかけて、それを叶えた人が偉いわけじゃないんだよ。
イチカ:そんなこと言ってないでしょ。
サイカ:言ってないけど、言ってるよ。夢がある人に、夢がない人の気持ちなんてわからないもんね。

『JAM』第二場

これ読むと、なにやらヒリヒリしてますよね。僕が脚本を一読したときにも、激しい作品なんだなあというのが第一印象でした。冒頭に貼った小川さんの宣伝文にも「怒りの『JAM』、諦念の『東京三人姉妹』」とか書いてあったし。観ててしんどい気持ちになったりする作品なのか……?とも。

ただ、稽古を見ていると、(まだ制作中なので最終的な姿ではありませんが)必ずしもそういうことではなさそうです。

というのも、夢を持てずに就活している三女サイカ役の宮内さんの演技に対する、峰村さんのコメントが確かこんな感じでした。(一言一句そのままではなくてあれですが。)

サイカの夢のくだりは、今の言い方だと「自分が間違ってる側」みたいな言い方になってたけど、そうじゃなくて諭してるようなイメージかな。「私も夢ないけどこれで正解」みたいな感じが当たり前に出ているような。

これはなるほど、と思いました。

確かに、「夢のない自分を卑下している三女サイカ」と「夢を叶えている長女イチカ」という二項対立のように見えてしまうと、決して悪くはないけれどちょっと単純です。

そうではなくて、サイカはサイカのほうで自分なりの気持ちがちゃんとあって、そのうえで言っているのだと。

また他の箇所でも、峰村さんからは「そこはそんなに強く言いすぎなくていいかな」というコメントが何度かありました。あとでお話を聞くと、「実際に人になにかを言うときに、そんなに強く言ったら逆に聞いてもらえなくなるから」ということだそうです。

これも、なるほど。『JAM』の姉妹たちは、少なくともリアルを生きる我々と同じくらいにはある程度賢明なコミュニケーションをする人たちで、それが結果として近代演劇のようなリアリズムにつながっているのだと思いました。

で、実際、何度もやってくうちにヒリヒリ感はなくなってきて、たとえばサイカとヨナカのシーンでは姉妹がわちゃわちゃしているチャーミングな感じも出ていました。楽しい。

こうやってリアルタイムで、目に見えて芝居が変わっていく。事務的な資料の修正を繰り返すうちにv2、v3とファイルが増えていく感じにも似ていて、(いや資料修正のほうは単にめんどくさいだけの虚無だったりもしますが、)芝居が最終形に至るまでの試行錯誤というのはやっぱり面白いです。

さっきのお話に通ずることとして、中盤、長女イチカと四女ヨナカだけの会話シーン。

峰村さんがここは難所だと言っていました。会話がまあまあ長く続き、かといって派手なアクションや事件が起きるわけではないので、起伏をどう作るか/作らないか、という点が難しいのだそうです。

たとえばヨナカがイチカになにかを言う。イチカにとってはそれは「言われたくないこと」で、つまりちょっと嫌なことだったとする。

あくまで日常会話の範疇なので、オーバーな演技にしすぎることはない。とはいえ、その時のそのセリフが「言われたくないこと」だったのだ、というのはお客さんに分かってもらわないといけない。このあたりに、考えるべき塩梅があるみたいです。

ヨナカ:…お姉ちゃんはさ。
イチカ:ん?
ヨナカ:嫌いだった?私たち妹のこと。
イチカ:ええ?
ヨナカ:家族のこと、嫌いだった?
イチカ:…もしかして嫌いだから出て⾏ったと思った?
ヨナカ:そういうわけじゃないよ。
イチカ:…ヨナカはさ、嘘つく時、⽬そらすよね。
ヨナカ:…そらしたかな?
イチカ:ばっちり。

『JAM』第二場

このへんとかね。いかにも絶妙なコントロールが必要そうな、繊細な会話です。

演劇の会話の多くは、本当にあたりさわりのない「日常会話」ではなく、会話が物語を進める機能も担っている以上、会話のなかでつねに何かは起きているわけです。その「何か」をどれくらいドラマチックにするのか/しないのかという、リアリティの調節度合い。

もちろん本番の公演を観てるときにはもっと没入してるはずなので、そんな目で見ることにはならないんですけど。その「没入」を作るためにどんな細かな工夫がされているのか、というお話でした。

今回はここまで! 稽古場レポはあと1回あるかもしれないです。

『JAM』のタイトルの意味については、観れば分かります。ジャム。もしかして四姉妹がいきなりバンドとか始めるんでしょうか。そのへんも乞うご期待です。

▽公演情報はこちら

◇公演スケジュール
3月20日(水)19:30〜東京三人姉妹
3月21日(木)19:30〜JAM
3月22日(金)14:00〜JAM / 19:30〜東京三人姉妹
3月23日(土)14:00〜東京三人姉妹 / 19:30〜JAM
3月24日(日)13:00〜JAM / 17:00〜東京三人姉妹
※開場は40分前を予定。※上演時間は各 約80分

◇チケット料金
一般 3500 円
U30 3000 円
学生(養成所の研修生可)2000円
2作品セット券 5500円
桟敷席 2000円 (最前列、各回限定10席)
※予約開始は2月1日正午を予定。当日精算のみ。全ステージ当日券あり。

◇メンバー
作 峰村美穂
演出 峰村美穂 小川結子
出演 青柳糸 安齋彩音 太田旭紀 小川結子 小坂優 土本燈子 都倉有加 ノナカモヱリ 宮内萌々花 宮津侑生
舞台監督 後関貴大
制作 佐倉ゆい花
音響 成田章太郎
照明プランナー 上原可琳 
照明操作 新貝友紀乃
楽曲 縫部たまき(シロイソラ)
アートワーク ゆえ

協力 anonet  街の星座 植田望裕 大島一貴(あいけ) 國崎史人

企画、製作 えんそく

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