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ツンデレなキャンドル


わたしはキャンドル。生まれは小さな北欧雑貨屋さん、性別は薄紅色。形はスリムな円柱。

生まれて初めて聞いた言葉は「デンマークではこれ人気なんですよ」

鮮やかな薄紅色がわたしの自慢。褒めてくれてもいいわよ。

まわりはわたしのことをツンデレだと言うけど、そんなことないわ。


わたしたちキャンドルの命は短い。

火を点けられたが最後。その瞬間から余命数時間になるというトンデモナイ人生なの。

でも、わたしたちキャンドルの灯りがつくる空間はとても素敵なんだと先人たちは言ってたわ。


わたしを手にとったのはシャイな男の子。社会人になりたてくらいの年齢かしらね。

「これ、綺麗なピンク色ですね」

もじもじしながら恥ずかしそうに店員さんに話しかける。彼がその店員さんに恋をしているのはすぐに分かった。わたしは勘がいいのだ。

おそらくわたしを買ったのも、店員さんと話すための口実だろう。


それからというもの、彼はわたしを部屋の隅にある棚に飾ったまま、使うことはなかった。

待てども待てども使わない。

なんなのよ、もう。それなら買うんじゃないわよ。こっちだって軽い気持ちでキャンドルやってないのよ?

このままインテリアとして人生を終えるのだろうか。


彼は人に本音を話すのが苦手だった。

親の顔色を伺い、友達に合わせながら生きてきたのが常で、会社でも愛想笑いばかりしていた。

「今度ごはんでも行きませんか?」そう店員さんにアプローチできたのは、わたしを買ってから半年後のことだった。


それからの彼は楽しそうだった。店員さんと会う回数も増え、家で笑いながら電話をしている姿も何度か見た。

まだ付き合ってこそないようだが、確実に急接近している。なかなかやるじゃない、あいつ。

そしてある日、店員さんが彼の家に来た。


彼はなんだか恥ずかしそうにしている。

ふたりで一緒に夜ごはんを食べ、のんびりしていたら、彼がホコリだらけのわたしを手にとった。

「これ、使いませんか?」

唐突に出番が訪れたわたしは驚いた。なるほど、この日のためにとっておいたのね。やるじゃない。


「これ、前に買ってくれたやつ…!」

彼女は嬉しそうだ。

そしてふたりは電気を消し、わたしに火を点けた。この瞬間からわたしの寿命は残り数時間になる。覚悟はしていたが、なんだか寂しい。

それからのふたりは人が変わったかのように色んな話をし始めた。複雑な家庭環境、昔付き合っていた人のこと、大切にしている想い、将来の夢。


まあ、それもそのはず。わたしが本音を話しやすい雰囲気を作ってやってるのだ。まったく、感謝しなさいよね。

お互いの気持ちはもう分かっていた。

彼が意を決して想いを伝えると、彼女はゆっくりと頷いた。ふたりは照れながら顔を赤らめる。

わたしは出来るだけ長く、ゆっくりと、火を焚くことにした。



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文章:しみ

イラスト:じゅちゃん

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